水文・水資源学会誌
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水文・気象・衛星データを用いた阿蘇山周辺の流域水収支の再検討
松山 洋泉 岳樹
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2002 年 15 巻 4 号 p. 413-427

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抄録

水収支が閉じると考えられる1996年1月~1998年12月を対象に,阿蘇山周辺の流域水収支について検討した.まず,数値地図1kmメッシュを用いて,阿蘇火砕流堆積物が連続的に分布し,流域間で地下水流動が起こっていると考えられる9流域を抽出した.次に,流域ごとに,レーダーアメダス解析雨量と流出高の年間の残差を算定し,これらを,気象官署での熱収支を基に,土地被覆と標高を考慮して分布型で推定した流域蒸発散量と比較した.その際,国土数値情報1/10細分区画土地利用データとLandsat TMデータ(1998年5月22日撮影)を用いて,事前に行なっておいた地表面被覆の分類結果を利用した. 9流域における年降水量と年流出高の残差は流域蒸発散量よりも大きい.これは,観測・算定誤差を考慮してもなお説明できない違いであり,レーダーアメダス解析雨量が過大評価されていることが原因だと考えられる.そこで,周囲23地点のAMeDASデータを用いてレーダーアメダス解析雨量を補正してから年間の残差を求めたところ,この9流域平均値は誤差の範囲内で流域蒸発散量と一致した.しかしながら,加勢川,緑川,大分川流域についてはなお,年間の残差と流域蒸発散量の間に有意な違いが見られた.このうち,緑川と大分川流域における水収支の不一致は,本研究で初めて明らかになったことである. 大分川流域における水収支の不一致から,阿蘇西麓台地だけでは水収支が閉じていない可能性が示唆される.つまり,この地域における広域水収支を考える際には,中部九州全体を解析対象とする必要がある.

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