本稿は中小河川における豪雨出水の実時間危険度予知法の確立を主目的として行っている一連の基礎的研究のうちこれまでに得られた主要な成果の報告である.まず,河道網系による遅滞効果が無視できるとの仮定のもとに,一様な山腹斜面モデルに任意の有効降雨時間分布を与える雨水流法(kinematic wave法)によるモデル解析を通じて,出水波形の諸特性,即ち出水の危険度の指標となる流量上昇率,流出ピーク発生条件,洪水到達時間について,さらに洪水到達時間との関連でピーク流量の推算式として常用されている合理式について,それぞれ降雨分布形態との関連において検討される.そこでは,流量上昇率を予測するより流量そのものを予測すべきこと,洪水ピーク到達時間の新しい図式推定法,合理式の実用上の妥当性,等が示される.ついで,これらの検討の過程で思いついた増水時流量簡易推定法が提案され,その妥当性の検証ならびにパラメータ(洪水到達時間,流域特性係数)の推定法と安定性の問題に関して中小河川(集水面積10～300km2)の出水資料(多摩ニュータウン流出試験地の資料を含む)の解析により検討される.
