発展途上国においては,水利権も土地利用権も先進国ほど明確に定義されておらず,農業用水管理の改善も順調には進まない可能性がある。数カ国の事例調査により,伝統的な水利権制度が変化しつつある国,土地に付属している水利権が土地とともに移転可能となりつつある国などさまざまな状況が明らかとなった。複雑な土地の権利関係により水田の普及が制約される恐れのある国では,水田整備を進める前に土地貸借契約を確認するなどの対策が有効である。灌漑用水路全体の管理体制も,当該地域の土地所有制度と水利権制度とに適合したシステムとする必要がある。水の合理的利用をはかるために,今後は土地の登記を確実に実施するなど,土地制度を整えていく必要があろう。