農地石垣は棚田や段畑において法面の保護に用いられ,西日本を中心に全国に広く分布している。農林水産省によって棚田百選に選定された134地域のうち半数以上に石垣が確認されており,営農面のみならず,美しい農村景観の構成要素としても重要な役割を担っていると言える。現在,農地石垣の研究はその構造,歴史,景観利用などを念頭に置いたものがほとんどで,農地石垣の被災・復旧を取り上げたものはまれである。そこで本報では,熊本県熊本市と三重県熊野市が独自に行っている災害復旧事業の被災データを分析し,明らかとなった農地石垣の被災・復旧の傾向を報告する。