インドネシアのバリ島では,スバックと呼ばれる伝統的灌漑組織が9世紀には存在していたと言われ,今もスバックにより持続的な農業が営まれている。スバックは,アウィグ・アウィグという慣習法を持ち,灌漑水利組織であるとともに,農村の自治組織の機能も有し,また,ヒンズーの教えによる農耕儀礼の祭祀(さいし)を執り行う集団でもある。本報では,バリ島における農業および灌漑事業を概観した後,スバックの法や制度などの仕組み,灌漑施設の計画設計および農耕儀礼について報告する。さらに,組織,法律,制度などについてスバックと日本の土地改良区との比較検討を行った結果,スバックは日本のかつての水利組織にきわめて類似していることが明らかになった。