2013年に採択された水銀に関する水俣条約を受け,従来有価物であった水銀が廃棄物化する事態が将来想定され,処分体制の整備にあたり,回収水銀量の見通しを把握することは喫緊の課題である。このため,条約による国内水銀マテリアルフローへの影響を踏まえ,主要排出源である工業過程と水銀使用廃製品からの水銀排出量を2010年度から2050年度まで推計し,水銀バランスを考慮して,大気,廃棄物 (埋立処分),水銀回収への排出量を算出した。この結果,水銀使用製品由来の水銀排出は急減しており,今後数年は,特に蛍光ランプおよび血圧計の回収に注力すべきであることが示唆された。工業過程では,最大排出源である非鉄金属製錬業において排出増加が予測された。改正大気汚染防止法による大気排出抑制効果は約 8 % と試算され,条約の趣旨どおり,将来の水銀排出先は大気と埋立が減少する一方,水銀回収が増加し,回収量は毎年 50 ton 強と推計された。