2020 年 102 巻 5 号 p. 4-16
本研究の目的は,極限に「到達するか否か」に関する理解の困難性を克服するための学習指導を提案し,実践を通してその有効性を検証することである.そのためにまず学習指導を構築する視点を導出し,その視点に基づいた授業設計および実践を行った.そして授業のプロトコールを分析し,極限に「到達するか否か」という困難性が克服されたかを検証した.学習指導を構築する視点としては,「極限として捉えている対象」を導出した.そして,放物線下の面積を求める問題を用いた授業を設計し,授業を行った.その結果,極限として捉えている対象を,極限に近づいていく数列の項から極限値そのものへと変容させることによって,困難性を克服することができた.極限として捉えている対象を変容させるためには,極限に近づいていく数列の項と極限値とを明確に区別する活動が重要であることも明らかとなった.また,授業設計にはなかったことであるが,背理法を用いることによって,高校生でもε-N論法の考え方を見出すことができた.