2020 年 43 巻 4 号 p. 4_705-4_713
本研究の目的は,再発や増悪を経験したがん患者が家族と対話し難い体験を質的に記述することである。Merleau-Pontyの現象学的思想を哲学的基盤とした現象学的アプローチを用い,がんの再発あるいは増悪を経験している患者11名に非構造化面接を実施し,得られたデータを分析した。
結果,【積み重ねてきた家族だからこそ口にしなくていい】【がんとの闘いは一人きりと自覚する】【家族の中の自分の姿が不確かであることに苦悩する】【がんが家族という地平上にのしかかるのを感じる】【思いや言葉を超えて迫りくる死をただ見つめる】の5つのテーマが描き出された。患者は,家族を積み重ねてきたものと大切に思い,その中で自分自身の存在意義を感じる一方で,自分自身を,家族を脅かす,死にゆく者であると捉え,自己の存在の不確かさに苦悩しており,家族をそっと思いながらも口にできない思いを抱えていた。