日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
第47回関西ペインクリニック学会学術集会
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2017 年 24 巻 4 号 p. 372-382

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日 時:2017年5月13日(土)

場 所:大阪国際交流センター

会 長:渡邉恵介(奈良県立医科大学付属病院ペインセンター)

■特別講演

脊椎疾患の痛みの可視化

末吉健志

嶺井第一病院放射線科

痛みの画像診断は,未解明のまま放置されているのが現状である.われわれ放射線科医の責任は大きく,この領域の発展の妨げになっている感すらある.神経障害性痛を知らない放射線科医は少なくない.筆者自身もペインクリニックとかかわる前は,痛みは基礎疾患の付随的な症状であり,痛みと直接向き合うことはなかった.現状の画像診断レポートは,椎間板突出など,痛みをきたしそうな所見への言及であり,これは脳梗塞を脳実質ではなく,動脈狭窄で語るようなものである.痛みの原因をすべての症例で特定するのは不可能であるが,その一方で,画像診断の最近の進歩が本領域にほとんど活用されていないのも事実である.例えば神経ブロックに際し,きわめて重要な硬膜外解剖情報は,三次元T1強調像により容易に提供可能である.この画像は,耳鼻科領域の腫瘍進展評価として日常的に利用されており,広範かつ詳細な硬膜外解剖情報を比較的短時間で収集可能である.また,痛みの病態として重要な炎症と神経障害性痛についても言及可能であり,前者の画像的指標は,髄核とModic変化I型になると思われる.後者の候補は多数あるが,病的意義が最も疑われる所見として硬膜外腔癒着がある.本所見は,上記の三次元T1強調像にて言及可能である.末梢神経自体への言及もときに可能であり,運動性神経障害の指標となる筋脱神経性変化ともども観察すべき所見である.最後に,われわれ放射線科医がかならず提供すべき所見として,臨床的に想定外の要治療所見があり,脆弱性骨折,腫瘍,感染症がある.当日はこれらについて自験例を中心に述べていく.

■ランチョンセミナー1

がん疼痛治療におけるPCAポンプの有効使用(IV~脊髄鎮痛まで)

服部政治

がん研有明病院がん疼痛治療科

【はじめに】がんの痛みに対して注射薬を使用する場合は,patient controlled analgesia(PCA)法が定石である.本講演ではIV,SC-PCA,硬膜外PCA,そして脊髄くも膜下持続投与について概説する.

【PCAとは】患者が自身で調節する鎮痛法である.3つの要素,持続投与量(ml/hr),レスキュー投与量(ml/レスキュー),lock out time(LOT)で構成される.その意図は「鎮痛薬を痛みに合わせて遅れることなく,過不足なく投与できるようにする」ということである.投与経路としては,SC(皮下),IV(静脈内),Epi(硬膜外腔),IT(脊髄くも膜下腔)がある.

【IV,SC-PCA】IVのモルヒネ,フェンタニル,オキシコドンについて各々の初期設定(開始量)の1例を示す.

〇モルヒネ:モルヒネ100 mg+生食90 mlを1 ml/hr,1 ml/レスキュー,LOT 10分.

〇フェンタニル:フェンタニル2,500 µg+生食50 mlを0.5~1 ml/hr,0.5~1 ml/レスキュー,LOT 10分.

〇オキシコドン:オキシコドン100 mg+生食90 mlを1 ml/hr,1 ml/レスキュー,LOT 10分.

SC(皮下注射)の場合は,最も濃度の高い原液を使用し,微量投与とする.

【Epi,IT-PCA】脊髄鎮痛法は,あらゆる場面で痛みを軽減できる優れた鎮痛法である.モルヒネを硬膜外腔に投与した場合,その力価は内服の20倍,脊髄くも膜下腔に投与した場合は,内服の200倍とまでいわれている.脊髄鎮痛法には,通常はモルヒネ+局所麻酔を使用する.フェンタニルは低濃度のものしかないため,がん疼痛では増量しにくく使用しないことが多い.初期設定を示す.

〇硬膜外:モルヒネ30 mg+0.25%レボブピバカイン60 ml+生食237 mlを4 ml/hr,4 ml/回,LOT 30分.

〇脊髄くも膜下:モルヒネ10 mg+0.5%脊麻用マーカイン(等比重)12 ml+生食87 mlを0.5 ml/hr,0.5 ml/レスキュー(用量決定の初期だけ),LOT 30~60分.

※脊髄くも膜下腔に投与する場合は,鎮痛用量が決まるまでの間だけPCAを使用し,在宅移行後は持続投与のみとする.

【まとめ】麻酔科・ペインクリニック医師にしかできない疼痛治療に脊髄鎮痛法があり,PCAポンプを有効に使うことでさらに磨きがかかることを知ってもらいたい.

■ランチョンセミナー2

内視鏡外科手術における術後疼痛管理

今本治彦

近畿大学医学部外科内視鏡外科部門

当院では内視鏡外科部門を有し,胃癌・大腸癌等の治療において多くの症例に内視鏡下手術を行っている.開腹と比較したメリットとしては,術後の痛みが少ない,早期離床を図ることができる,合併症の減少,入院期間の短縮等があげられる.そのなかでも術後管理における術後痛対策は,術後合併症の予防や早期離床のために欠かせない重要な要素となっている.

硬膜外鎮痛やIV-PCAによる術後疼痛管理が主流となっているが,2013年にアセトアミノフェン静注液が発売され,術後疼痛管理における薬剤の選択肢が広がった.

アセトアミノフェンは2011年まで諸外国と比較しても承認用量が少なく,術後疼痛治療として使用するには不安があったが,以降は術後疼痛治療の選択肢の一つとして効果が期待できる用量となった.単独では鎮痛効果が弱いアセトアミノフェンを有効に生かすためには,他の鎮痛法との併用が効果的で,当院では硬膜外鎮痛・IV-PCAとの併用でアセトアミノフェンを定時投与している.

従来の硬膜外鎮痛での管理だけでは,術後疼痛管理は不十分であり,その度に頓用で鎮痛薬を使用していた.アセトアミノフェンを定時投与することにより,切れ目のない疼痛管理が可能となり,疼痛コントロールの改善がみられた.本発表では,アセトアミノフェンの定時投与による術後疼痛管理の取り組みとその可能性について,また,患者に早期回復を提供するための取り組みを報告する.

■シンポジウム1 インターベンションの潮流

神経根パルス高周波法

山上裕章

ヤマトペインクリニック

神経根パルス高周波法(神経根PRF)の適応は,神経根ブロックで一時的な効果が得られた症例としている.PRFの作用機序は解明されていないが,針先に発生させる電場に鎮痛効果があると考えられている.

手技は神経根ブロックとほぼ同じで,ブロック針の替わりに電極針を用いる.神経根造影後に薬液[1%メピバカイン0.5 mlとデキサメサゾン0.5 ml(1.65 mg)の混合液]を0.5 ml注入する.薬液を入れずに施行することも可能だが,PRFを開始してしばらくは痛みを訴えるため,演者は神経根ブロックと同様に注入してから施行している.神経刺激で針の適正位置を判断する場合は,高周波発生装置に接続し,100 Hz 0.5 V未満で疼痛部位に刺激を感じる位置とする.しかし高度な知覚障害があるとこのとおりではなく,刺激に頼りすぎるのもよくない.適正施行時間はまだわからない.演者の臨床研究から,神経根PRF施行時間は4~6分としているが,試していないだけで10分や15分のほうが有効かもしれない.また,演者はPRFには蓄積効果があると考えている.1回目の施行で効果不十分であったものが,繰り返して施行することによって著効を得ることがある.

神経根痛,神経根障害をひきおこす脊椎疾患では,神経根への圧迫(炎症,循環障害)や神経根の過敏性(被刺激性の亢進)を認めることが多い.神経根ブロック(経椎間孔硬膜外ブロック)によって病変部に薬液が到達し,炎症の鎮静化が期待できる.しかし増悪傾向の椎間板ヘルニアでは,炎症は鎮静化せず効果は得られない.薬液に用いるデキサメタゾンは神経の過敏性を軽減する作用を持つが,PRFにも同様の作用があり,かつ強力と考えられる.

PRFは神経を破壊することがなく,神経根~脊髄後角に作用し,神経の微細構造を変化させるneuromodulationともいえる.

脊椎疾患や帯状疱疹関連痛では,神経根PRFの効果が不十分であった場合は,硬膜外脊髄刺激(一時的刺激)の施行を考慮する.ただし,椎間板疾患では椎間板内治療が優先される.

椎間板パルス高周波法

福井 聖*1 新田一仁*1 岩下成人*1 伊藤一樹*2 西脇侑子*1,3 岩本貴志*1,4

*1滋賀医科大学医学部附属病院ペインクリニック科,*2滋賀医科大学医学部麻酔科,*3済生会滋賀県病院麻酔科,*4岩本整形外科

椎間板性腰痛の一部に,薬物療法,理学療法,神経ブロック療法などが奏功せずに日常生活や仕事に支障をきたし,休職せざるを得ない難治性慢性痛の患者が存在する.従来そのような慢性椎間板性腰痛に対しては,椎間板内高周波熱凝固法(IDET)が欧米で数多く施行されてきたが,近年,低侵襲で手技的にも簡単な椎間板内PRFが試みられ,良好な成績であることが報告されている.

今回,他の治療が効果の無い椎間板性腰痛患者(平均年齢35.3±9.86歳)に対して,椎間板内パルス高周波法(椎間板PRF)を施行し,施行前,施行後1,3,6カ月後,施行1年後の時点で,NRS(numerical rating scale),ローランド障害スコア(Roland-Morris disability questionnaire)を用いて,治療の有効性,合併症について検討した.

椎間板PRFは当大学倫理委員会の承認のもと,先端20 mm露出の高周波電極針を椎間板内中央部に刺入し,椎間板内で15分間PRFを施行した.施行後,他の神経ブロック治療は施行せず,投薬も増量することなく,椎間板PRF効果を検討した.

痛みのレベルはNRSで,施行前7.47±0.85から施行1年後には3.13±2.58となり,有意に改善した.ローランド障害スコアは,施行前11.61±4.74から施行1年後には2.90±2.97となり,有意に改善した.NRS,ローランド障害スコアとも,椎間板PRF施行1,3,6,12カ月後の値は,施行前の値に比較して有意に改善していた.1年後でのNRS 2以上の改善が23人中4人(17.4%),50%以上の痛みの改善が15人(65.2%),両者を合わせた有効率が82.6%であった.

椎間板PRFは適切な患者評価と適応基準のもとに施行すれば,難治性慢性椎間板性腰痛に対する低侵襲治療の1手段となると考えられた.

経皮パドルリードをはじめませんか! 利点欠点エトセトラ

立山真吾 田中信彦 宇野武司

潤和会記念病院ペインクリニック科

経皮的パドル型リード(以下,経皮パドルリードとする)は,2012年にSt. Jude Medical社から販売された.縦67 mm×横3.8 mm×厚さ1.8 mmの大きさで,円筒型リードよりも横幅があり,厚さのある形状をしている.刺激電極が8個あり(8極),三方面が絶縁され,一方向への限局した刺激を出力できる.外科的パドル型リードに比べて局所麻酔下に低侵襲で留置でき,円筒型リードと同様に術中に刺激感覚の確認ができる.一方,専用の器具(EpiducerTM:エピデューサー)を使用して挿入しなければならないので,器具の操作に習熟が必要である.また,円筒型リードよりも大きいので,硬膜外腔の癒着の程度によっては挿入困難な時がある.

経皮パドルリードの最大の特徴は,安定した刺激感覚が得られることである.とくに,刺激感覚が得られにくい腰部に刺激が届きやすくなり,腰痛に効果を発揮しやすい.

当院では2012年3月から経皮パドルリードの使用を開始し,これまでの約5年間で53症例に適用した.疾患の内訳は,腰部脊柱管狭窄症14症例,FBSS 11症例,CRPS 6症例,帯状疱疹関連痛6症例,脊髄損傷6症例,末梢神経障害6症例,その他4症例であった.植込み目的で行った症例は45症例で,このうち植込みに至ったのは35症例(78%)であった.腰部,下肢の痛みに多く使用した.経皮パドルリードの使用本数は,1本が40症例で最も多く(75%),2本が5症例,円筒型リードとの併用が8症例であった.有効症例の痛みの変化については,施行前の平均VASが79/100 mmで,施行後は31/100 mmに低下した.

当院での適応基準,挿入時のポイント,難渋した事例などを紹介し,経皮パドルリードの有用性について言及する.

局所注射の新潮流―「Fasciaリリース」,「hydrodissection」とは―

朴 基彦

ぱくペインクリニック

皆さん,トリガーポイントブロックは好きですか?

正直言うと,私は以前は嫌いでした.

原因の特定も行わずに,ただ単に「痛い部位に打つ注射」はあまり有効な印象がなく,注射に対する患者の依存を高めるだけではないかと考えていたからです.

しかし,近年,「Fasciaリリース」,「hydrodissection」などと称される,おもに超音波ガイドで行う新しい局所注射が世界各地で行われるようになっています.

実際に行ってみると,これまでの治療が奏功しなかった症例でも,疼痛が改善したり可動域の改善を認めるケースを多く認め,臨床の現場で驚かされます.

最近では,私もすっかり考えを改めまして,今までの治療を行いつつも,この新しい治療に積極的にチャレンジしています.

臨床的には,①即時の除痛効果,②筋緊張の緩和,③可動域の改善が得られるのですが,まだまだその作用機序に関しては,あくまでも推測の域を出ていません.

私自身は,症例を重ねるに従い,恐らく複数の機序が混在しているのでは? と考察しています.解剖学からのアプローチでは,LAFSと呼ばれる脂肪体がなんらかの関与をしている可能性が報告されています.

■シンポジウム2 腰痛に対するアプローチ:ケースカンファ

(症例提示)40歳女性,看護師.夫と2児の4人暮らし.元来腰痛もちだが,主任に昇任し部署移動した4月から腰痛が悪化.とくに夜勤明けには歩けないほど痛くなった.

慢性腰痛に対するアプローチ:心療内科の場合

水野泰行

関西医科大学心療内科学講座

1メートルの高さからパチンコ玉を落とすとする.どのくらいの時間でどのくらいの衝撃で地面のどの位置に到達するか,簡単な物理法則でかなり正確に計算できる.次に軽い木の葉を1メートルの高さから落とすとする.空気抵抗を無視できず,フラフラと不規則な動きをして着地点も予測できない.

人間の体は果てしなく複雑だが,多くの病気は大雑把な類型に当てはめて治療すれば軽快する.これはいわば空気抵抗を無視した物理学だ.一方で環境や習慣,精神活動などが大きく影響している症状は,落下する木の葉のようにとらえどころがない.しかし症状の不安定さは同時に,改善に向かうチャンスが何度もあるということでもある.

心療内科は内科の一領域なので,当然薬物療法や運動療法など身体志向の介入を多く使う.しかし,他の内科でなくて心療内科にやって来る患者の大半は,そういった治療で改善しなかった患者である.そんな患者をどうやって治療するのか.それが今回のシンポジウムに参加する人に伝えたいことである.

課題として御提示いただいた40歳女性・腰痛の症例を題材に,他の身体科と比べて特異的と思われる心療内科の視点を紹介したい.話の散逸を防ぐために,あらかじめ下記の4つを紹介する観点としてあげておく.

①診断をつけて治療を考えるよりも,治療を考えて診断をつける.

②何が悪いかを見つけるよりも,何が良いかを探し出す.

③治す方法を探すよりも,治らない要因を取り除く.

④マイナスを減らすよりも,プラスを積み重ねる.

今回の発表で,参加者に何か一つでも持ち帰るに値するものを提供できれば幸いである.

腰痛に対するリハビリアプローチ

保岡宏彰 保岡正治 井関明生 米田 弘

保岡クリニック論田病院

ペインクリニック診療にリハビリテーション(以下リハビリ)は必要である.しかし,多忙な外来診察中に,具体的なリハビリ指示や実施,治療判定を行うのは時間的に難しいと考えている方も多いと思われる.

また,実施されるリハビリの内容も物理療法単独のところもあれば,理学療法士が介入するところまで,一律ではないと予想される.今後もペインクリニックに必要なリハビリが,実用的かつ科学的根拠に基づく医療(以下EBM)として,すべてのペインクリニック医が共通の認識を持つよう検討する必要がある.

当院でもペインクリニック診療にはリハビリは必要と考えている.訪れる患者は有痛性運動器疾患が多く,治療経過中に疼痛が緩和しても「いつまでに治りますか?」「どの程度動いてもいいですか?」などの質問を受けることが多かったことから,疼痛の評価や緩和だけでなく,運動機能障害の評価や改善も必要と感じたことが,リハビリを積極的に取り入れるきっかけとなっている.

そのためには,豊富なEBMをもつリハビリテーション医学を参考とすることが多かった.疾患や発症時期ごとにリハビリを行っているが,とくに腰下肢痛疾患(変形性疾患は除く)に対するリハビリは,これまで当院で行った研究で,治療開始前や経過中に集計した,「10 m歩行時間」「MMT(徒手筋力テスト)」「トレドミル負荷試験」,の3種類の測定値をもとに作成した腰下肢痛疾患運動負荷計画表(ペインクリニック誌2010; 31: 1659–64)を参考にしている.

具体的には,初診時や治療経過中の変化,治療効果判定や経過予測,リハビリ指示,患者や家族説明などに応用している.このたび,「腰痛に対するリハビリアプローチ」として,当院で行っているリハビリ方法や腰下肢痛疾患運動負荷計画表を用いながら治療内容を紹介する.先生方の今後のリハビリ治療の参考になれば幸いです.

慢性腰痛に対するインターベンショナル痛み治療の役割

松田陽一

大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室

慢性腰痛の発症には,腰仙椎や筋・筋膜などの器質的因子,脊髄や脳の神経機能変化,さらには心理社会的因子まで,さまざまな要因が複合的に関与することが明らかになりつつあります.よって,生物心理社会的モデルに基づいた患者評価により治療を決定していくことは,慢性腰痛において必須といえます.

誰の目にも明らかな身体的原因が特定されないため,非特異的腰痛と診断されたとしても,すべての患者が心理療法とリハビリテーションで改善するというわけでもありません.しかし,ペインクリニックが神経ブロックなどのインターベンショナル痛み治療を専門とする診療科であるからといって,腰痛患者がきたらとりあえず硬膜外ブロックやトリガーポイント注射をすれば良いというわけでもありません.

このケースカンファでは,リハビリテーションや心理療法の重要性もふまえたうえで,どのような慢性腰痛患者に神経ブロック・インターベンショナル痛み治療が適しているか,どのように治療を進めていけば良好なアウトカムが得られるか,模擬症例を通じていくつかのパターンを提示する予定です.ディスカッションでの議論を通じて参加者全員の理解が深まることを期待します.

■一般演題I インターベンション1

中心性頸髄損傷の治療経験

山上裕章

ヤマトペインクリニック

中心性頸髄損傷は脊髄中心部の損傷であり,下肢よりも上肢に強い運動障害,知覚障害をきたす.外傷を契機に発症するため,ペインクリニックを直接受診することはまれである.知覚障害の一症状としてしびれ,痛みを訴え,薬物療法で効果不十分な場合に紹介される.過去8年間に中心性頸髄損傷8症例の治療を経験したので報告する.

対象は8症例(M/F=5/3),37~61歳であった.直接原因は,転倒・転落が4症例,追突事故が4症例であった.病変部位はC3/4~C5/6で,6症例に椎間板ヘルニア,1症例に脊柱管狭窄症を認めた.罹病期間は2カ月~2年で,頸肩上肢痛を主訴として当院を受診した.愁訴および神経学的所見,MRI所見から中心性頸髄損傷と診断した.薬物療法はすでに行われていたが効果不十分であった.T1神経根ブロックや硬膜外ブロックを3~30回施行し,7症例が改善した.このうち5症例が薬物療法だけで愁訴が管理可能となり,残り2症例は薬物療法も不要となった.1症例は効果なく,椎間板ヘルニア摘出術が施行された.

神経ブロック療法は,中心性頸髄損傷によるしびれ感,痛みに対して有用であった.

腰椎椎間孔狭窄症に伴う腰下肢痛に対して神経根刺激療法が有効であった症例

恒遠剛示 廣瀬宗孝 中野 範 棚田大輔 助永憲比古 永井貴子 松木泰成

兵庫医科大学麻酔科・疼痛制御科学講座ペインクリニック部

【症例】88歳,男性.

【現病歴】X−1年前より左下腿外側~下腿後面~左第1足趾痛,左側腰部痛を自覚していた.近医整形外科で加療されるも徐々に間欠性跛行が悪化してきたため,紹介元の整形外科をX年11月に受診した.MRIでは左L5/S1の椎間孔狭窄と椎間関節嚢腫を指摘され,左L5神経根ブロックを受けたが1日程度の効果しかなく,手術適応と伝えられた.しかし,本人が保存療法を希望されたため,X+1年1月に脊髄刺激療法(SCS)目的に当科紹介となった.

【治療経過】初診時所見:VAS 78,安静時痛(+),左下腿外側~下腿後面~左第1足趾痛,左側腰部痛,跛行は1本杖で5分以下であった.当科で施行した脊髄クモ膜下ブロックでも持続効果は一時的であったため,SCSの適応と判断した.SCSはサージカルトライアルとし,刺激リードを2本使用し後索刺激を試みるも脱落,馬尾刺激でも脱落した.刺激リードの1本を逆行性に挿入し,左L5神経根を刺激すると,刺激感覚は疼痛部位を完全にカバーできないものの,刺激感覚を得られた.神経根刺激リード先端がL5,後索刺激リード先端がTh10の高位で固定した.3日間のSCSトライアルで痛みの軽減と跛行の改善がみられたため,SCS植込みに至った.本植込み後,1週間で安静時痛は消失し,跛行は杖なし歩行で20分まで延長した.

【結語】腰椎椎間孔狭窄症は,痛みの感受性が高い後根神経節が椎間孔内で障害を受けることが多いため,患者は強度の痛みを訴える.SCSは後索刺激を主とするが,神経ブロックなどによる効果持続時間が短い症例(=痛みが強度な症例)では,後索刺激が脱落し,神経根刺激を必要とする症例を経験する.今症例を含めて神経根刺激について考察する.

3回目の脊髄刺激装置を抜去し,植え込みを行った1症例(第3報)

南 奈穂子 森本昌宏 白井 達 打田智久 岩元辰篤 上原圭司 森本悦司

近畿大学医学部麻酔科学講座

【はじめに】種々の慢性痛に対して脊髄刺激(spinal cord stimulation: SCS)療法が用いられているが,従来のSCS装置植え込み下でのMRI撮影は禁忌とされている.われわれは,第43回ならびに44回の本会において,SCS装置の再植え込みに至った症例につき報告した.今回,同症例で通電不良とMRI対応の装置への変更のために,3回目のSCS装置の入れ替えを行ったので報告する.

【症例】39歳,男性.既往歴として12歳時にI型糖尿病を指摘.28歳時に右上肢打撲後,創部感染により右第4,5指切断.手指切断後から幻肢痛が出現し,29歳時に当科でSCS装置の植え込みを行った.経過良好であったが,35歳時にバイク運転中に車と衝突.受傷後両上肢の痺れと左上肢痛を訴え整形外科を受診.頸髄損傷の疑いで頸部MRIを予定したために,SCS装置の抜去に至った.頸椎椎弓形成術を施行し,右上肢の痺れは改善したが,両前腕のallodyniaが残存.さらに右第4,5指の幻肢痛が再燃し,SCS装置の再植え込みを行った.今回,通電不良となり幻肢痛が増悪した.また,今後の頸椎MRI撮影の必要性を考慮し,MRI対応のSCS装置への入れ替えとなった.

【経過】2本の電極の挿入を試みたが,硬膜外腔の癒着が高度であり,電極の挿入が困難な状態であったために,第7頸椎第1胸椎間より電極を1本挿入(先端は第5頸椎)し,手術を終了した.術後,通電による効果は良好であった.左上肢痛に対しては,他の神経ブロック療法を併用することとした.コントロール不良のI型糖尿病があったが,創部の重大な感染トラブルはなく,術後24日で退院となった.

【考察】SCS装置の入れ替えを行う場合,硬膜外腔の癒着を考慮する必要がある.また,術後にMRI撮影などを必要とする可能性があり,今後はMRI対応の装置への入れ替え症例は増加すると考える.

■一般演題II 慢性疼痛

モルヒネの退薬症候と身体表現性障害による自律神経症状の鑑別に難渋した1例

谷口彩乃 藤原 恵 細川豊史

京都府立医科大学疼痛緩和医療学教室

退薬症候を起こさないよう,安全にオピオイド鎮痛薬の減量・中止を行うためには,時間をかけて減量することと,注意深い退薬症候のモニタリングが重要である.乾癬性関節炎による慢性疼痛に対して,モルヒネを投与していた患者で,モルヒネ減量中に退薬症候のみでは説明のつかない自律神経症状を呈した1例を経験したので報告する.

【症例】45歳女性.14歳時に尋常性乾癬の診断.難治性腰痛について6年前当科紹介となり,薬物療法としてリン酸コデイン,トラマドールを使用したが本人の満足する疼痛緩和は得られなかった.モルヒネは他剤より効果を認めると希望したため90 mg/日で継続した.2年6カ月後に内科入院した際,腰痛と関節痛の訴えが強くなった.モルヒネは痛みに明確な効果がないこと,長期オピオイド内服によるデメリットを考慮し,治療目標をADL向上と確認したうえでトラマドールへ切り替えた.モルヒネ減量4日目より発汗過多と嘔吐を認め,退薬症候を疑いモルヒネを再内服させたが症状は改善せず,モルヒネ持続静脈内投与48 mg/日でも改善しなかった.①モルヒネの血中濃度を上げても改善がない,②過去の入院で転換性障害を疑うエピソードがあった,③過去に嘔吐を繰り返す時期があった,④器質的な原因は否定的であったことから,身体表現性障害性による自律神経機能不全と判断した.嘔吐が改善した時点でトラマドールを併用してモルヒネ離脱し,トラマドール300 mg/日で退院となった.身体表現性障害は精神科で治療開始され症状安定している.

【考察】本症例は典型的な退薬症候ではなかった.非がん性慢性疼痛に対して,患者背景を把握しないうちにオピオイド治療を開始したこと,治療目標を明確にしていなかったことは反省すべき点である.今回を機に,慢性疼痛に対して必要最小量の鎮痛薬を使用し,治療介入の機会がなかった身体表現性障害に対して精神科の治療が開始されたことは,今後患者のQOL向上に繋がると期待する.

当院の胸部外科手術における急性術後痛と遷延性術後痛

清水 優 植松弘進 長田多賀子 溝渕敦子 高橋亜矢子 藤野裕士 松田陽一

大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学麻酔・集中治療医学講座

【目的】当科では胸部外科手術をうけた全患者の痛みを急性期から慢性期にかけて診察している.遷延性術後痛(persistent postoperative pain: PPP)の発生頻度と,急性期から慢性期における痛みと痛み関連指標の推移について後ろ向きに調査した.

【方法】2015年3月~2017年2月に当院で胸部外科手術(開胸および胸腔鏡下手術)を受け,術後1カ月以内(急性期)と3カ月前後(慢性期)に痛みの強度(NRS,痛み関連指標(painDETECT,HADS,PCS,EQ-5D),背景因子(年齢,性別,術式,神経障害を疑う所見の有無)の評価を実施した患者を対象とした.慢性期にNRS≧1の患者をPPP群,NRS=0の患者を痛みなし(NP)群と分類した.急性期と慢性期における各評価項目についてPPP群とNP群の比較を行った.

【結果】対象は108例で,PPP群に該当した患者は69名(63.9%),中等度以上の痛み(NRS≧4)は9名(8.3%)であった.PPP群はNP群に比べ急性期における痛みの強度や痛み関連指標の値がすでに高く,急性期と慢性期でほとんど変化がなかった.背景因子については差がなかった.

【結語】当院の胸部外科手術後のPPPは頻度が高く,急性期からより積極的に介入する必要性が示唆された.

椎間板性腰痛と考えられた慢性腰痛患者に対し,椎間板内パルス高周波法で改善が認められなかった1症例の経験

伊藤一樹 福井 聖 岩下成人 新田一仁 西脇侑子 岩本貴志

滋賀医科大学付属病院麻酔科

保存的治療効果の無い慢性椎間板性腰痛に対し,椎間板内パルス高周波法(椎間板PRF)が有効であったことについて過去に報告している.このときの評価基準は,NRSとthe Roland-Morris disability questionnaire(RMDQ)によるものであった.今回,椎間板性腰痛と考えられた慢性腰痛患者に対し,椎間板PRFを施行し効果を得られなかった1症例につき報告する.

症例は,53歳男性,初診時から椎間板PRF治療後においてNRS,PDAS,HADS,PCS,PSEQ,アテネ,EQ-5D,ロコモ25,満足度の評価を実施した.症例は,10年来の腰痛で6年前PLDD(percutaneous laser disc decompression)を実施されていた.

施行1年後より腰痛が悪化し,保存的治療が行われていたが改善が認められないため,当科に紹介された.来院時前屈時に腰痛の悪化が認められ,MRIにてL1/2,L2/3レベルで椎間板ヘルニアがあり,L1/2,L2/3椎間板造影・ブロックを実施したところL1/2で再現痛を認めた.そこで,L1/2椎間板PRFを実施した.いったんは改善が認められたもののその後痛みが再発し,1カ月後2度目の椎間板PRFを実施したが,効果は認めなかった.その後は内服薬を増量し運動リハにて治療を行っている.患者は初診時より,HADS;不安10点,抑うつ7点,PCS 45点と不安と破局化思考が強く,痛みの一時的な緩和により,いったんはこれらの値は軽減したが,治療経過で常に高い値を示していた.

慢性腰痛に対しては,心理社会的要因をしっかり評価し,初診時の評価で心因社会的要因の関与が大きいと考えられるような患者に対しては,椎間板PRFなどのインターベンショナル治療ではなく,心理的アプローチ,心理的アプローチを含む集学的治療が望ましいと考えられた.

股関節由来の難治性痛と診断されていたが,脊椎由来の痛みを合併していた1症例

今城幸裕 城戸晴規 藤原俊介 南 敏明

大阪医科大学麻酔科学教室

【はじめに】難治性の痛みに新たな症状を合併した場合は注意が必要である.今回,整形外科で股関節由来の難治性の痛みと診断されていたが,脊椎由来の痛みを合併していた1症例を経験したので報告する.

【症例】68歳,女性.3年前より左変形性股関節症のため,近医で加療していた.2カ月前より左股関節の痛みが増悪し,歩行不能となったため,手術加療目的に当院整形外科に紹介となった.痛みが強く,手術までの痛みコントロール目的で当科紹介となった.慢性腎不全のため人工透析中であった.

【経過】患者から詳細な問診を行うと,左股関節の痛みに加え,2カ月前から左大腿外側から膝関節への痛みが出現していた.また,身体所見で左大腿から膝関節にかけてアロディニアがあること,左straight leg raisingテスト60°,左Lasegueテスト陽性であることから,神経根症状の合併が疑われた.腰椎MRIを撮影したところ,L3/4に脊柱管狭窄を認めたため,左L4神経根ブロックを施行した.ブロック施行後,左股関節の痛みは残存したが,左大腿から膝関節にかけての痛みは消失し,歩行可能となった.その後,整形外科で予定通り左変形性股関節症に対する人工股関節全置換術が施行された.

【考察】慢性痛患者が症状の増悪や新たな症状を訴えた場合は,他の疾患の合併を念頭に置き,診察することが重要である.

■一般演題III 癌性疼痛

当院における腹腔神経叢(内臓神経)ブロックの分析と検討

権  哲*1,2 細川豊史*2 西村美弥子*1 北野香苗*1 野土信司*1 波多野貴彦*2 深澤圭太*2

*1社会福祉法人恩賜財団済生会滋賀県病院緩和ケア内科,*2京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室

【目的】当院では2016年4月に緩和ケア外来を開設し,同時に緩和ケアチームの病棟回診の数を増やすなど緩和ケアの充実に取り組んでいる.消化器がんに伴う内臓痛に対し,神経ブロックの適応を積極的に検討しており,2016年4月から2017年2月までに施行したブロック数は11回であった.施行したブロック数の内訳は,腹腔神経叢(内臓神経)ブロック(以下SNB)8回,下腸間膜動脈神経叢ブロック2回,下腹神経叢ブロック1回であった.SNB施行後の効果を分析し検討したので報告する.

【方法】当施設のSNBを施行した8症例のうち,分析可能であった6症例に対し,SNB前後のPS,オピオイド投与量,NRSについて検討した.

【結果】8症例中2症例で他に併発症を呈し,分析が困難となったため,6症例について分析した.6症例のうち膵臓癌が4症例,胃がんが1症例,胆管がんが1症例であった.PSはブロック2週間後に改善,維持していた症例は4例であった.またオピオイドの投与量の比較では,2症例でオピオイドの減量,3症例でほぼ同量の維持で対応可能であった.オピオイドを減量できた2症例のうち1症例ではオピオイドを中止でき,もう1症例では50%に減量可能であった.NRSの比較では,6症例でブロック翌日にはNRSが低下し,ブロック後2週間でもNRS 0~3/10で疼痛コントロールできていた.また,4症例でブロック2週間後のNRSが0もしくは1/10に低下し,4症例でブロック後に退院,在宅での日常生活,外泊,外出が可能であった.

【考察】SNBにより消化器がんによる内臓痛が軽減し,痛みの軽減,オピオイドの減量,中止,患者のQOLの維持,向上などに寄与したと考えられた.ブロック施行は患者の疼痛緩和とQOL維持に貢献できる可能性が高く,ペインクリニックの手技は緩和ケアの領域で非常に重要と考えられた.今後も検討を続けていく.

仙骨硬膜外フェノールブロックが奏功した肛門部痛症例

白井 達 森本昌宏 田仲毅至 吉岡 愛 岩崎昌平 辻本宜敏 森本悦司

近畿大学医学部麻酔科学講座

前立腺がんの骨盤内浸潤に伴う肛門部痛症例に対し,仙骨硬膜外フェノールブロックを施行し良好に管理し得たので報告する.症例は68歳,男性.158 cm,43 kg.X年1月に前立腺がん(T4N0M0)に対して,当院泌尿器科で化学療法を受けていた.X+1年11月から肛門部痛を自覚.次第に痛みが増強したとして,当院緩和ケアチーム共観によりオピオイドを主体とした治療を受けていたが,コントロールは不良,坐位の保持が困難になったとしてX+1年12月,当科を紹介受診となった.初診時,独歩可能であったが,日中のほとんどをベッド上で過ごし,サブイレウスのために水分摂取のみ可能な状態でありperformance statusは3であった.MRI上骨盤内再発があり,仙骨神経叢浸潤に起因する痛みが考えられた.

下肢ならびに膀胱直腸機能は保持されていたために,まず両側のS4神経根ブロック(RF 90度×180秒),不対神経節ブロック(99%エタノール2 ml)を施行した.これにより臥位での痛みは軽減したものの,坐位での痛みが残存したために,1週後,仙骨裂孔より10%フェノールグリセリン1 mlを硬膜外に注入したところ,坐位の保持が可能となった.以後,オピオイドを減量のうえでホスピスへの転院となったが,神経ブロック施行16日後に永眠となった.

以上,下肢運動機能の保持が必要な肛門部痛症例に対しては,仙骨硬膜外フェノールブロックが治療選択肢の1つになり得ると考えられた.

当院におけるメサドン処方30症例の検討

永井貴子 棚田大輔 助永憲比古 恒遠剛示 中野 範 廣瀬宗孝

兵庫医科大学病院麻酔科・疼痛制御科

【目的】2013年3月にメサドンが発売になり国内でも徐々に処方例が増えている.当院でも難治性癌性痛に対して適応を精査したうえで処方例を重ねている.処方例を検証し,メサドンの有用性と適応の再検討等を行ったので報告する.

【方法】2013年3月~2015年11月にメサドン処方された癌性痛患者を後ろ向きに調査検討した.

【結果】対象期間のメサドン処方症例数は30例であった.癌種は悪性胸膜中皮腫11例,肺癌7例,膵癌4例,直腸癌3例,舌癌・tailgut cystの癌化・膀胱癌・子宮癌・肝癌各1例であった.悪性胸膜中皮腫,肺癌ともに椎体浸潤・神経浸潤を伴う症例に対しての使用で,他の症例も神経浸潤等神経障害性痛を伴う症例であった.メサドンへのオピオイドスイッチ前のオピオイドは,フェンタニル貼付剤19例,オキシコドン12例,タペンタドール2例,モルヒネ1例で一部併用有りであった.スイッチ前オピオイド投与量は経口モルヒネ換算にて60~1,160 mg+レスキュー,スイッチ後メサドン用量は15~60 mgであった.

【考察】d-メサドンがNMDA受容体拮抗作用を有することで,オピオイド耐性形成を予防する働きと,神経障害性痛に対する効果が期待されている.当院において,以前であれば神経ブロック療法を必要とする神経障害性痛を伴う癌性痛(おもに肺癌,悪性胸膜中皮腫)に対して,メサドンを使用することで良好な鎮痛効果を得られた症例も存在した.現在癌性痛緩和に対して,破壊的神経ブロック療法のベネフィットが多くともリスク部分を許容できない症例,出血傾向他により神経ブロック療法を施行できない症例も増えており,そのような難治性癌性痛に対しても,メサドンが有効であると考えられる.今後さらに症例数を重ねていき,メサドンの特徴の把握と,安全な適応基準を確立していきたい.

がん長期サバイバーの疼痛管理をどのように行っていくか? ~経時的にがん性疼痛と非がん性疼痛が混在した1例の経験から~

山代亜紀子 細川豊史 仲宗根ありさ 谷口彩乃 原田秋穂 大西佳子 深澤圭太

京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室

【はじめに】抗がん治療の選択肢の幅は年々広がり,それに伴いがん患者の生存率も延長している.外来にて長期生存するがん患者とかかわるなかでは,経過中にさまざまな痛みに対応する必要が出てくる.今回,経時的にがん性疼痛と非がん性疼痛が混在した1例を経験したので報告する.

【症例】初診時64歳男性,X−1年6月に腰部背部痛が出現し,精査にて肺腺癌と診断された.放射線化学療法中に気胸を併発し,気管支塞栓術・胸膜癒着術施行された.右側腹部痛,背部痛にてX年4月当科紹介受診となった.背部痛には縦郭リンパ節転移によるがん性疼痛,右側腹部痛は胸腔ドレーン挿入後の神経障害性疼痛の診断でトラマドール,プレガバリンによる疼痛管理を行った.X+1年2月,化学療法誘発性末梢神経障害の増悪ありデュロキセチンに変更した.7月,咳嗽が強くなりオピオイド鎮痛薬をモルヒネに変更,呼吸困難感に対してモルヒネ速放製剤を使用した.12月,右頸部リンパ節腫脹による痛みでモルヒネ増量し,放射線治療を行った.頸部病変は縮小し痛みも消失したが,右側腹部のドレーン挿入部の痛みは継続し,呼吸困難感と合わせてモルヒネを調整した.右側腹部の痛みは非がん性疼痛であるためレスキューの使用対象にはならない旨を指導しながら疼痛管理を行った.X+2年9月,右Th11領域の帯状疱疹を発症,内服はそのまま継続とし,硬膜外ブロック,胸部神経根ブロックを行ったが帯状疱疹後神経痛に移行した.X+4年1月,右側腹部痛の増強ありCTにて右胸膜播種の増悪を認めた.胸膜播種によるがん性疼痛と診断し,オピオイドをメサペインへ切り替えた.

【考察】右側腹部の同部位に,3種類の非がん性疼痛とがん性疼痛が混在した.外来で長期に経過を追っている患者でも,原因検索と診断を都度行い対処する必要がある.また,使用する鎮痛薬それぞれの適応を考慮したうえで,患者への説明と教育を行っていくことが重要である.

■一般演題IV インターベンション治療2

鎖骨または上腕骨骨折に対する超音波ガイド下腕神経叢ブロック(斜角筋間アプローチ)の術後鎮痛効果および運動麻痺に対する検討

山口綾子 堀内俊孝 北川和彦 長畑敏弘

社会医療法人生長会ベルランド総合病院麻酔科

超音波ガイド下神経ブロックは,術中・術後の鎮痛目的で多用されている.今回われわれは,鎖骨または上腕骨骨折に対する手術予定の患者に超音波ガイド下腕神経叢ブロック(斜角筋間アプローチ)を施行し,術直後の鎮痛効果,運動麻痺の程度,また術後の鎮痛効果持続時間や運動麻痺から回復するまでに要した時間を調査し検討した.

【対象と方法】対象は当院整形外科で鎖骨または上腕骨骨折に対し,観血的整復固定術を受けた患者15人(男女比7:8,年齢55±22歳,身長161±11 cm,体重60±11 kg).全身麻酔導入前に超音波ガイド下にて斜角筋間アプローチによる腕神経叢ブロック(C5/6間,0.75%ロピバカイン20 ml)を行い,鎮痛効果持続時間,運動麻痺の部位および麻痺から回復した時間を調べた.

【結果】術直後はすべての症例で痛みの訴えはなかった.15例すべてが肘関節の屈曲,伸展ともに不可能で,手関節は7例で屈曲可能なものの伸展は不可能,8例でどちらも不可能であった.手指の屈曲伸展は15例中5例で握れるが伸ばせない,2例でどちらも不可能,8例でどちらも可能であった.鎮痛効果持続時間は6.5~12時間(9.6±1.9時間),運動麻痺からの回復に要した時間は5~20時間(9.6±4.0時間)であった.術後使用した鎮痛剤は内服のみが13例,内服および座薬または筋肉注射の使用が3例であった.全症例で合併症は認められなかった.

【考察】手術操作による神経損傷の有無の確認のため,神経ブロック施行の際には術直後の上肢の運動麻痺がないよう,整形外科医に求められることがある.しかし,量や濃度を低くした場合は鎮痛効果が不十分となる可能性がある.今回の検討では,全ての症例で術直後の痛みはなかったが,上肢が完全麻痺した症例もみられた.安定した鎮痛効果持続時間と外科医からの要求を満たすため,局麻薬の濃度や量に関して検討する必要があると思われる.

持続硬膜外ブロック施行後に顔面浮腫の増悪を認めたパンコースト腫瘍の1症例

藤田麻耶 矢部充英 河合茂明 山崎広之 舟尾友晴 西川精宣

大阪市立大学大学院医学研究科麻酔科学講座

パンコースト腫瘍は腕神経叢や上大静脈に浸潤すると,難治性の痛みや上大静脈症候群を引き起こすことがある.今回,持続硬膜外ブロック後に上大静脈症候群による顔面浮腫が増悪した症例を経験したので報告する.

【症例】67歳,男性.2014年6月より右頸部から上腕にかけての痛みが出現し,精査の結果,右鎖骨下動脈直接浸潤と右内頸静脈閉塞を伴う右肺尖部扁平上皮癌と診断された.痛みコントロール不良(NRS 4/5)となり,翌年1月に当院呼吸器内科入院となった.入院時,右肩から肩甲部痛と顔面腫脹を認め,痛みのため臥位不可能な状態であった.オキシコドン50 mg/day,ロキソプロフェン180 mg/dayとプレガバリン75 mg/dayに加え,ノルトリプチリン10 mgとベタメタゾン2 mgを開始したが,症状の改善を認めなかった.五苓散を5 g分2で投与したところ,3日後に顔面の浮腫は改善した.一方痛みは改善しないため,Th 2/3より持続硬膜外ブロック(0.125%レボブピバカイン2 ml/hr)を開始すると,右上肢痛の軽減を認めたが,顔面浮腫は増悪した.5日後に硬膜外カテーテルを抜去すると,顔面浮腫は再び軽減した.痛みはオキシコドン100 mg/day,プレガバリン300 mg/day,ノルトリプチリン20 mgへ増量することで,NRS 1/5へと改善し,臥位で就眠可能となった.

【考察】本症例では,上大静脈が完全に閉塞している状態で,持続硬膜外ブロックによる交感神経遮断作用で頭頸部の血管拡張と血流増加をきたし,顔面浮腫の増悪を認めたと考えられる.上大静脈症候群の症例に,頸部硬膜外ブロックを施行する際には,顔面浮腫が増悪する可能性に留意すべきである.

超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックが著効した三叉神経第3枝急性期帯状疱疹痛の1例

井原稔文*1 博多紗綾*1 大迫正一*1 植松弘進*1 松岡由里子*2 藤野裕士*1 松田陽一*1

*1大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室,*2独立行政法人国立病院機構刀根山病院麻酔科

【はじめに】三叉神経第3枝の帯状疱疹に伴い,外耳道・耳介に強いアロディニアが持続した症例に対して,超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックを施行し,良好な経過を得たので報告する.

【症例】34歳女性.左口唇・口腔内・下顎・外耳道・側頭部に水疱と痛みが出現し,三叉神経第3枝の帯状疱疹と診断された.発症3日目より抗ウイルス剤が開始され,アセトアミノフェン2,400 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液16単位/日,プレガバリン150 mg/日の投与により痛みは改善した.しかし,薬剤性肝障害のためプレガバリンが中止されると痛みが再燃したため,12日目に当科を受診した.星状神経節ブロックを2回施行したが,左外耳道・耳珠・耳介の強いアロディニアが持続した.16日目に耳珠前方で超音波ガイド下に耳介側頭神経ブロックを施行したところ,アロディニアは著明に改善した.計3回の耳介側頭神経ブロックを行い,アロディニアは完全に消失し,以後は舌のしびれのみとなった.

【考察】耳介側頭神経の支配領域にのみ強い痛みがある三叉神経第3枝の帯状疱疹痛に対して,耳介側頭神経ブロックは適した治療法だが,X線透視下ブロック(卵円孔前方で選択的に神経を穿刺する方法)はやや侵襲が強く難易度も高い.耳珠前方でのアプローチは体表から比較的浅い部位で神経に針先を触れずに行う浸潤麻酔法であるが,浅側頭動脈と神経が併走しているため,超音波ガイド下に施行することにより低侵襲かつ安全に施行することができると考えられた.

【結語】超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックは,耳介側頭神経の支配領域の痛みが強い三叉神経第3枝の帯状疱疹痛に対して有効な治療法である.

帯状疱疹に合併したL5の完全運動麻痺の1例

川合健志郎 波多野貴彦 深澤圭太 細川豊史

京都府立医科大学疼痛緩和医療学教室

帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスが脊髄後根を侵し,おもに知覚神経の障害を引き起こすが,炎症が強く脊髄前角や前根に波及すると運動神経障害が生じる.われわれは右L5の完全運動神経麻痺を合併したまれな症例を経験した.症例は77歳男性.糖尿病と高血圧の既往.2016年12月中旬より右下肢に坐骨神経様の痛みがあり,その後右臀部から下腿外側・足背にかけて紅斑・水疱が出現し,他院で帯状疱疹の診断で抗ウイルス薬を投与された.右下肢外側から足背にかけての痛みの増強に加え,新たに足関節の背屈および母趾と足趾の遠位・近位趾節間関節の背屈が不可能となり,12月27日に当科に紹介受診となった.理学所見ではMMT:右足関節背屈0/5,母趾背屈0/5,その他正常であった.MRIではL4/5,L5/S1の神経孔の軽度の狭小化はあるが,両側とも同程度の狭窄であり,症状出現の時期などみても帯状疱疹後の運動神経麻痺の可能性が高いと判断された.

治療として,初診時に硬膜外ブロック,2017年1月4日硬膜外ブロック,1月6日L5神経根ブロック(ステロイド含む),1月17日硬膜外ブロック,1月27日L5神経根ブロック(ステロイド含む),2月10日L5神経根ブロック(ステロイド含む)を施行.鎮痛薬としてトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を1日3錠と,プレガバリンを1日150 mgから1日275 mgまで漸増した.これらの治療により痛みの軽減と知覚低下の範囲の縮小は得られているが,運動神経麻痺の程度は変化ないまま経過している.

【考察】帯状疱疹に合併した完全運動神経麻痺は比較的まれであり,本症例では3カ月経過した現在(2017年3月)でも回復の兆しはない.しかし1年以上を経て回復した報告もあり,今後の経過を踏まえ,文献的考察を加え報告する.

■一般演題V 三叉神経痛・頭痛・中枢痛

γナイフ照射後の三叉神経痛に対する外科的手術加療

吉本修也 箸方宏州 後藤正憲 三木義仁 西田南海子 多喜純也 岩崎孝一

公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院脳神経外科

【緒言】2015年7月より,三叉神経痛(trigeminal neuralgia:TN)に対するγナイフ治療(gamma knife surgery:GKS)が保険適応となったが,同治療に一定の割合で無効例や再燃が生じることは論を俟たない.この度,当院で施行したGKS後のTNに対する微小血管減圧術(microvascular decompression:MVD)の連続症例を解析し,文献的考察を加えて報告する.

【対象/結果】2010年3月~2016年12月にMVDを施行したTN連続204例中,7例(3.4%)がGKS後症例であった.平均年齢74.9歳,GKS効果は無効が3例で疼痛再燃が4例.MVD術後疼痛は6例で消失,1例でやや残存,症候性合併症として1例で顔面知覚障害を認めた.

【代表症例】72歳女性,右TNに対して10年前にGKSを施行.GKS後にTNは消失したが2年で再燃,増悪傾向を認め受診.術中,三叉神経は高度に菲薄化しており,SCAによる神経圧迫と変形を認め,同血管を移動,固定し,圧迫を解除した.術直後よりTNは消失,合併症なく退院.

【考察/結語】TNに対するGKSは長期的にみると60~70%で疼痛消失に至るが,約40%で無効あるいは再燃し,追加治療を要するといわれている.GKS後のMVDについては問題なく施術可能との報告や,照射の影響で血管障害の合併や癒着をきたしているなどの報告もある.本検討においてはGKS後のMVDについてはGKS未施行群と比して,合併症率の差もなく,外科的手術の治療効果も十分に期待できる結果であった.

三叉神経痛と舌咽神経痛を同時に認め,ガンマナイフ治療が著効した1例

岩井謙育*1 石橋謙一*1 眞下 節*2

*1大阪市立総合医療センター脳神経外科,*2市立豊中病院麻酔科

三叉神経痛に対するガンマナイフ治療は,当院でもすでに160例に施行しており,また中期的な治療成績も報告され,その有効性は認められている.一方,舌咽神経痛は年間0.2~0.7人/10万人/年間の発症率ときわめてまれである.なお,舌咽神経痛に対しても,近年ガンマナイフ治療の有効性が報告されてきている.しかし,三叉神経痛と舌咽神経痛を同時に認める症例はきわめてまれと思われ,現在までに文献上約80例の報告があるのみである.今回,三叉神経痛と舌咽神経痛を同時に認めた症例に対して,両者にガンマナイフ治療を行い,著効を示した1例を経験したので報告する.

【症例】82歳女性.37歳頃から右側頬部の痛みを自覚,神経ブロック,カルマバゼピンの服用にて2~3年は痛みの軽減を認め,痛みの増悪があると同様の治療を繰り返していた.2015年8月より右側三叉神経痛の増悪を認め,10月より右側の嚥下痛も出現し,食事が困難となり同年11月からは経管栄養となった.同年12月右側脳槽部三叉神経に対して中心線量85 Gy,右側舌咽神経管入口部近傍の舌咽神経に対して中心線量80 Gyにてガンマナイフ治療を同時に施行した.ガンマナイフ治療翌日には顔面の痛みは軽減,治療7日目には嚥下痛も消失し,経口摂取が可能となった.治療後13カ月の現在も舌咽神経痛の再燃はなく,三叉神経痛に対してはカルマバゼピン400 mg/日の服用にて痛みは制御されている.

持続下顎神経ブロックで管理した難治性下顎部痛の1例

藤本大地 本山泰士 佐藤仁昭 高雄由美子 溝渕知司

神戸大学大学院医学研究科外科系講座麻酔科学分野

顎骨壊死はときに強い痛みをもたらすだけでなく,痛みによる摂食不良をきたし,生命を脅かすことがある.今回,多数の合併症を持ち,薬剤関連顎骨壊死からの難治性下顎部痛に対し,持続下顎神経ブロックが著効した症例を経験したので報告する.

症例は72歳の女性,既往に骨粗鬆症,関節リウマチ,慢性心不全,慢性腎不全,気管支炎などがあり,ビスフォスフォネート,プレドニゾロン,アピキサバンを使用していた.初診の一年前に近医でビスフォスフォネート内服中に右下6を抜歯し,その後顎骨壊死が進行し強い痛みを生じ,当院口腔外科に紹介となった.右下顎の骨融解像と下顎骨下縁にまで及ぶ骨破壊像を認め薬剤関連顎骨壊死として外来で精査を予定されていた.しかし,経口摂取が困難で自宅で倒れ,緊急入院となった.強い痛みのために開口はまったくできず診察さえも困難であった.全身状態から直ちに手術加療を行うことは危険と判断し,保存的に経過を見ることとなっていた.口腔外科で鎮痛処置がなされたが,痛みのために摂食や喀痰排泄もできず肺炎も合併し,痛みのコントロール目的に当科紹介となった.初診時は開口・会話もできなかったが,ランドマーク法による下顎神経ブロックを行ったところ,痛みが消失し会話可能になった.そのため,透視下に側方接近法で頬骨下縁耳珠前方2.5 cmより18G toughy針で穿刺し,卵円孔近傍に針先を到達させ,放散痛を確認した.その後,カテーテルを針先から1 cm挿入し,1%メピバカイン4 mlを注入,カテーテルを留置し痛みのコントロールを行った.その後,摂食・口腔ケア・喀痰排泄可能になり徐々に全身状態改善し,カテーテル留置後33日目に右下顎骨区域切除を行った.術後は順調に経過し退院に至った.

持続下顎神経ブロックは,難治性下顎部痛に対する有効な鎮痛手段の一つになりうる.

急激な経過をたどった特発性脳脊髄液減少症の治療経験

村谷忠利

清仁会洛西シミズ病院麻酔科

【症例】46歳男性.身長171 cm,体重82 kg.既往歴,特記事項なし.

【現病歴】1カ月前よりとくに誘引なく頭痛を自覚し,近隣施設の神経内科を受診した.精密検査を行った結果,両側硬膜下血腫と硬膜の肥厚が確認され,特発性脳脊髄液減少症を疑われた.診断と治療目的に当科転院となった.

【臨床経過】転院時,バイタルサインは安定した状態であったが,意識レベルはやや低下しており,JCS 10~20であった.入院翌日に全脊髄造影CTを施行したところ,頸部に髄液漏出を認めた.同日,第6~7頸椎間より硬膜外カテーテルを用いた硬膜外自己血パッチを行った.硬膜外自己血パッチ施行2日後より,意識レベルJCS-100まで低下し,いびき様呼吸となった.脳圧亢進と判断し脳神経外科にコンサルトしたところ,緊急穿頭血腫除去となった.術後2日目より意識レベルは徐々に改善し,術後24日後には日常生活を送れるまで回復した.しかし,回復が進むにつれ視野の異常を訴え始めた.眼科にコンサルトしたところ,一時的な右動眼神経麻痺と診断された.その後,薬物療法などは行わず経過観察を行った.約2カ月後に全ての症状は消失した.現在,半年以上経過しているが,異常なく経過している.

【考察】脳脊髄液減少症は,まれに急激な経過をたどることもあり,死亡例も報告されている.本症例で硬膜外自己血パッチ後に意識レベルが低下した原因として,硬膜外自己血パッチのため髄液の漏出量が減少し,脳圧亢進を誘発したと考えられた.動眼神経麻痺に関しては,硬膜外自己血パッチによる脳圧亢進が原因であったか,脳脊髄液減少症を発症したためかは判断できなかった.本症例のように,脳脊髄液減少症は急激な経過をたどる症例もあるため,慎重な対応が重要であると考えられた.

【結語】急激な経過を辿った脳脊髄液減少症の1症例を経験した.

脳卒中後中枢痛に対して釣藤散が効果を示した1例

佐野博昭 藤原俊介 城戸晴規 宮﨑信一郎 南 敏明

大阪医科大学麻酔科学教室

【はじめに】脳卒中後疼痛には,脳卒中後中枢痛(CPSP),スパスムによる痛み,肩の痛み,複合性局所疼痛症候群,頭痛などがあるが,CPSPが最も多い症状であり,主として視床や脳幹の障害後に起こり,耐え難い痛みで日常生活やリハビリテーションを行ううえで大きな障害となっている.CPSPの治療法としては,抗うつ薬,抗てんかん薬などの内服治療や脳深部刺激などの外科的治療などが行われているが,難治性であり治療に苦慮することが多い.今回,われわれはCPSPに対して,釣藤散が有効であった1症例を経験したので報告する.

【症例】72歳,女性,X年3月に視床出血後に左不全麻痺となった.左下肢痛はあったが自制内で経過していた.X+3年11月左顔面痛が出現,徐々に増悪してきた.X+4年4月左顔面痛は我慢できなくなり,近医神経内科を受診し,PSPと診断された.トラマドール・アセトアミノフェン配合薬などを処方されたが,効果乏しく,X+4年4月末に当科紹介受診となった.初診時,NRS 8左前額部にしびれ,痛みがあり,左顔面知覚低下,背部痛を認めた.イライラする様子と不眠なども認めたため,抑肝散を処方し,鍼治療を併用して行ったところ,発作痛の頻度は減少したが,痛みは残存していた.加えてプレガバリン,筋弛緩薬を処方したが,効果は乏しく,リハビリテーションも十分に行えなかった.X+5年7月頃より顔面の浮腫,熱感や腹痛,血圧上昇などがあり,近医入退院を繰り返していた.X+5年10月抑肝散から釣藤散へ変更したところ,血圧も安定し,痛みはNRS 2~3程度に軽減し,リハビリテーションも再開できADLの改善を認めた.

【考察】釣藤散は構成生薬である釣藤鉤に血管痙攣に対する鎮痙作用があり,方剤中の菊花・防風などの発散作用が相まって頭痛や顔面痛を軽減するとされており,石膏が加えられていることで熱証である必要がある.本症例では高血圧や顔面の熱感などがあり証として一致していたため効果を認めたと考えられた.

 
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