Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Clinical factors associated with opioid dosage in patients with cancer
Kaoru MAEDAMiho IKOMA
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2018 Volume 25 Issue 4 Pages 251-258

Details
Abstract

【目的】がん患者の痛みを緩和するために,オピオイドを漸増し,結果的に非常に高用量となる症例をしばしば経験する.今回,がん患者のオピオイド投与量に影響する因子について検討した.【方法】2009年1月1日から2014年12月31日までに新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した患者のうち,20歳以上で固形がんと診断され,オピオイドの処方を開始から死亡まで当院で行った症例について,電子カルテによる後ろ向き調査を行った.オピオイド徐放製剤の量に応じてA群(経口モルヒネ換算で120 mg/日未満),B群(同120 mg/日以上300 mg/日未満),C群(300 mg/日以上)の3群に分け,オピオイド量に影響する因子について検討した.【結果】対象は109名.A群は51名,B群は33名,C群は25名であった.C群では他群に比べ年齢が低く,オピオイドの投与期間が長く,増量幅が大きく,神経浸潤が多かった.【結論】がん患者において,若年,長いオピオイドの投与期間,オピオイドの増量幅が大きいこと,神経障害性痛の要素が,高用量のオピオイド投与に影響する可能性が示唆された.

I はじめに

がん患者にとって,痛みは大きな苦痛の一つである.痛みが緩和され,与えられた時間を穏やかに過ごすことは,患者のQOLに大きく影響する.また,患者のQOLは死別後の家族や介護者の心理面にも大きく影響する1)

がん患者の痛みのコントロールにおいて,オピオイドが果たす役割は大きい.しかし,痛みの緩和を目指してオピオイドを増量しても効果が得られず,結果的にオピオイドが高用量となる症例もしばしば経験する.その場合,痛みに加えてオピオイドによる眠気などの副作用も加わり,患者のQOLは低下してしまうことが多い.

近年,非がん性疼痛において,オピオイドの長期投与,高用量投与によって,オピオイド耐性や,性腺機能障害,免疫機能障害,依存などのリスクが生じると指摘されており,オピオイドの投与を見直す動きがある26).しかしがん性疼痛においては,痛みの度合いや患者に残された時間が患者によって異なることから,オピオイドの適正投与に関する統一した見解はなく,それぞれの患者に応じて,担当する医療者の判断に委ねられている.

オピオイド投与量に関連する因子について,非がん性疼痛においては報告があるものの2,5,79),がん性疼痛に関しては少ない10)のが現状である.本研究の目的は,がん患者に対するオピオイド投与量に影響する因子について検討することである.

本研究は,新潟大学医学部倫理委員会において承認された(承認番号:2128).

II 方法

2009年1月1日から2014年12月31日までに,新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した20歳以上の固形がんと診断された患者で,オピオイドを開始から死亡まで当院で処方された者を対象とした.患者それぞれの1日あたりのオピオイド徐放製剤量を,経口モルヒネ換算(oral morphine equivalent:OME)で計算した.この際,オピオイドの換算はガイドライン11,12)に従った.ただし,モルヒネの経口投与量:静脈内・皮下投与量=2:1,モルヒネの経口投与量:フェンタニルの静脈内・皮下投与量=1:0.01とした.投与期間における最大量をオピオイド最大投与量とし,患者それぞれのオピオイド最大投与量によって,文献を参考に13),A群(120 mg OME未満),B群(120 mg OME以上300 mg OME未満),C群(300 mg OME以上)の3群に分けた.

調査項目は,患者年齢,性別,がん種,転移・浸潤の有無と部位,オピオイド量と投与期間,オピオイド最大増量幅(最も大幅に増量された際の増加量),オピオイド最大増量率(増量前のオピオイド量とオピオイド最大増量幅の比),オピオイド・スイッチングの有無,非オピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬使用の有無,放射線治療や神経ブロック施行の有無とし,電子カルテによる後ろ向き調査を行った.なお転移,浸潤に関しては,放射線科の読影レポートをもとに判断した.

統計にはStatMate V Ver 5.01(ATOMS)を用いた.年齢,オピオイドの投与期間,オピオイド最大増量幅,オピオイド最大増量率に関してはKruskal-Wallis検定を行い,有意差が出た場合にはDunn検定を行った.それ以外の因子については,Pearsonのχ2検定を行った.有意水準は0.05と定めた.A,B群とC群において有意差のみられた因子について,ロジスティック回帰分析を行った.この際,変数減少法により説明変数を選択した.

III 結果

2009年1月1日から2014年12月31日までに新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した固形がんの患者は363名.このうち,20歳未満が2名,生存が85名であった.20歳以上で死亡した患者276名のうち,167名は当院以外でオピオイドを開始されるか当院以外で死亡しており,これらを除外した109名を対象とした.

患者背景,オピオイドの投与状況,オピオイド以外の鎮痛方法を表1に示す.対象患者109名のうち,A群は51名(全体の46.8%),B群33名(30.3%),C群25名(22.9%)であった.性別において群間の差はみられなかった.年齢は,A群に比べC群で有意に低く(P<0.001),B群に比べてもC群が有意に低かった(P<0.05).

表1 患者背景,オピオイドの投与状況,オピオイド以外の鎮痛方法
  A群
(N=51)
B群
(N=33)
C群
(N=25)
全体
(N=109)
P値
  A‐B A‐C B‐C
女性[n (%)] 31 (60.8) 18 (54.5) 17 (68.0) 66 (60.6)  0.6      
年齢(歳) 61.5±13.3 57.0±15.4 48.2±12.2 57.0±14.7 <0.01   <0.001 <0.05
オピオイド最大量
(mg OME/日)
60
(75‐30)
200
(210‐120)
510
(1,020‐405)
60
(245‐120)
       
オピオイド投与期間
(日)
37
(85‐17)
103
(269‐49)
235
(377‐111)
74
(227‐30.5)
<0.001 <0.001 <0.001  
オピオイド最大増量幅
(mg OME)
20
(30‐0)
60
(60‐42)
160
(220‐120)
40
(87‐20)
<0.001 <0.001 <0.001 <0.01
オピオイド最大増量率
(%)
100
(100‐0)
66.7
(100‐50.0)
60.0
(100‐43.7)
77.8
(100‐40.0)
 0.7      
オピオイド・スイッチング
[n (%)]
29
(56.9)
26
(78.8)
25
(100)
80
(73.4)
<0.001 <0.05 <0.001 <0.05
非オピオイド鎮痛薬
[n (%)]
34
(66.7)
25
(75.8)
25
(100)
84
(77.1)
<0.01  0.5 <0.01 <0.01
鎮痛補助薬
[n (%)]
14
(27.5)
19
(57.6)
19
(76.0)
52
(47.7)
<0.001 <0.05 <0.001  0.2
神経ブロック
[n (%)]
2
(3.9)
1
(3.0)
4
(16.0)
7
(6.4)
 0.2      
放射線治療
[n (%)]
9
(17.6)
11
(33.3)
16
(64.0)
36
(33.0)
<0.001  0.1 <0.001 <0.05

平均±標準偏差,中央値(四分位範囲)

OME:oral morphine equivalent(経口モルヒネ換算)

オピオイド最大投与量の中央値は,A群で60 mg OME(四分位範囲75~30 mg OME),B群200 mg OME(210~120 mg OME),C群510 mg OME(1,020~405 mg OME)であった.図1にその分布を示す.1,000 mg OMEを超えるものは6症例みられ,最大値は5,280 mg OMEであった.1,000 mg OMEを超えた症例については,表2にその詳細を示す.

図1

オピオイド最大投与量

オピオイドの投与開始から死亡までの間で,最も多く投与された定期オピオイド量

表2 最大オピオイド投与量が1,000 mg OMEを超えた症例
最大オピオイド
投与量
(OME mg)
年齢
性別
がん種 転移
浸潤
オピオイド
投与期間
最大オピオイド増加量
(OME mg)
その際のオピオイド
使用したオピオイド
5,280 35歳
男性
骨,脳 125 1,920
オキシコドン注
オキシコドン徐放錠・注
フェンタニル貼付剤・注
モルヒネ注
4,042 38歳
女性
子宮
リンパ節
469 1,270
フェンタニル貼付剤
オキシコドン注
オキシコドン徐放錠・注
フェンタニル貼付剤・注
モルヒネ徐放錠・注
メサドン錠
1,200 43歳
女性
子宮 骨盤内 665 576
モルヒネ注
オキシコドン徐放錠
フェンタニル貼付剤
モルヒネ注
1,200 48歳
男性
胆嚢 腹膜播種 206 768
オキシコドン注
オキシコドン徐放錠・注
フェンタニル貼付剤
1,152 58歳
女性
390 240
モルヒネ注
オキシコドン徐放錠
フェンタニル貼付剤
モルヒネ注
1,080 59歳
女性
食道 肺,肝
胸膜播種
97 400
モルヒネ注
フェンタニル貼付剤
モルヒネ注

OME:oral morphine equivalent(経口モルヒネ換算)

オピオイドの投与期間の中央値は,A群で37日(四分位範囲85~17日),B群103日(269~49日),C群160日(377~111日)であった.B,C群に比べて,A群で有意に短かった(P<0.001).

オピオイド最大増量幅の中央値は,A群で20 mg OME(四分位範囲30~0 mg OME),B群60 mg OME(60~42 mg OME),C群160 mg OME(220~120 mg OME)であった.A群はB,C群に比べて有意に小さい値を示した(P<0.001).B群もC群に比べて有意に小さい値を示した(P<0.01).図2にその分布を示す.500 mg OME以上増量されていた症例は4例あり,最大値は1,920 mg OMEであった.オピオイド最大増量率の中央値は,A群100%,B群66.7%,C群60.0%で,群間の差はみられなかった.

図2

オピオイド最大増量幅

*:P<0.05,**:P<0.01,***:P<0.001

オピオイドの投与開始から死亡までの間で,最も大幅に増量されたオピオイド量

オピオイド・スイッチングは,A群(P<0.001),B群(P<0.05)に比べてC群で有意に多かった.B群もA群に比べて有意に多かった(P<0.05).

非オピオイド鎮痛薬の使用は,A,B群に比べてC群で有意に多かった(P<0.01).鎮痛補助薬の使用はB群(P<0.05),C群(P<0.001)に比べてA群で有意に少なかった.放射線治療は,A群(P<0.001),B群(P<0.05)に比べてC群で有意に多く施行されていた.神経ブロックの施行は群間で差がみられなかった.

表3に患者のがん種を示す.膵臓がんはC群に比べてA群で有意に多かった(P<0.05).乳がんはC群に比べてB群で有意に多かった(P<0.05).

表3 患者のがん種
  A群
(N=51)
B群
(N=33)
C群
(N=25)
全体
(N=109)
P値
  A‐B A‐C B‐C
子宮
[n (%)]
5
(9.8)
6
(18.2)
8
(32.0)
19
(17.4)
 0.06      
膵臓
[n (%)]
12
(23.5)
3
(9.1)
1
(4.0)
16
(14.7)
<0.05 0.09 <0.05  0.4
大腸
[n (%)]
7
(13.7)
4
(12.1)
2
(8.0)
13
(11.9)
 0.8      
乳房
[n (%)]
7
(13.7)
5
(15.2)
0
(0)
12
(11.0)
<0.05 0.9  0.05 <0.05
卵巣
[n (%)]
8
(15.7)
3
(9.1)
1
(4.0)
12
(11.0)
 0.3      
食道
[n (%)]
1
(2.0)
3
(9.1)
3
(12.0)
7
(6.4)
 0.2      

[n (%)]
1
(2.0)
1
(3.0)
3
(12.0)
5
(4.6)
 0.2      
その他
[n (%)]
10
(19.6)
8
(24.2)
7
(28.0)
25
(6.4)
       

表4に転移,直接浸潤した部位を示す.転移,浸潤はA群の患者1名を除き,すべての患者で認められた.C群ではA,B群に比べ,有意に神経浸潤が多かった(P<0.001).骨盤内(P<0.01),胸膜(P<0.05)の転移,浸潤はA群に比べてC群で有意に多かった.

表4 患者の各がんにおける転移,直接浸潤
  A群
(N=51)
B群
(N=33)
C群
(N=25)
全体
(N=109)
P値
  A‐B A‐C B‐C
肝臓
[n (%)]
20
(39.2)
11
(33.3)
7
(28.0)
38
(34.9)
 0.6      

[n (%)]
15
(29.4)
11
(33.3)
7
(28.0)
33
(30.3)
 0.9      

[n (%)]
8
(15.7)
9
(27.3)
10
(40.0)
27
(24.8)
 0.06      
腹膜
[n (%)]
16
(31.4)
5
(15.2)
5
(20.0)
26
(23.9)
 0.2      
神経
[n (%)]
1
(2.0)
0
(0.0)
9
(36.0)
10
(9.2)
<0.001 0.4 <0.001 <0.001
骨盤内
[n (%)]
1
(2.0)
3
(9.1)
5
(20.0)
9
(8.3)
<0.05 0.1 <0.01  0.2

[n (%)]
2
(3.9)
3
(9.1)
3
(12.0)
8
(7.3)
 0.2      
胸膜
[n (%)]
0
(0.0)
2
(6.1)
3
(12.0)
5
(4.6)
<0.05 0.07 <0.05  0.4

ロジスティック回帰分析の結果を表5に示す.結果より,最大増量幅にはC群であることが最も影響していたが,オッズ比は1.05(95% CI 1.02~1.08)であったことがわかる.一方,神経浸潤では有意差はみられなかった(P=0.13)ものの,オッズ比は51.5(95% CI 0.32~8,374)であったことが示された.

表5 ロジスティック回帰分析の結果
説明変数 P値 オッズ比 95%信頼区間
下限 上限
年齢 0.29 0.956 0.879 1.04
オピオイド投与期間 0.17 1.01 0.998 1.01
最大オピオイド増量幅 <0.001 1.05 1.02 1.08
神経浸潤 0.13 51.5 0.316 8,373.78

IV 考察

本研究の結果より,いくつかの因子がオピオイドの投与量に影響することがわかった.

オピオイド投与量が多い群において,より年齢が若い傾向がみられた.これは文献的な報告とも一致している10,14,15).年齢の,薬物代謝やオピオイド耐性への影響14),精神面への影響15)などが,原因として考えられる.若年患者においては,特有のトータルペインが存在する.トータルペインへの対応として,医師のみならず看護師,薬剤師,理学・作業療法士,臨床心理士など多職種の連携も必要であると考えられる.

また高用量の群において,オピオイド投与期間がより長い傾向がみられた.長期にわたるオピオイド投与で,耐性が形成されたり,痛覚過敏が出現したりしたことが影響している可能性が考えられる2,3)

オピオイド投与量が多いほど,オピオイドの増量幅が大きかった.オピオイド徐放製剤の投与量が多いと当然増量幅は大きくなってしまう.一方でオピオイドの増量率は群間で差がなく,非がん性疼痛のオピオイドの使用について日本ペインクリニック学会が推奨し,がん性疼痛に対し日本緩和医療学会が推奨する,30~50%の増量率をいずれも超えていた6,11,12).最大増量幅が500 mg OMEを超える症例は4例あった.最も多い症例では1度に1,920 mg OME増量されており,増量前のオピオイド量に比べて80%の増量となっていた.レスキュー量を参考にしていることも影響していると考えられるが,増量に関するガイドラインが臨床の現場で反映されていない場合も多いことが示唆される.

非オピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬の使用,放射線治療はオピオイド量が多いほど併用される機会も多く,オピオイド・スイッチングもオピオイド量が多いほど行われていた.ここから,オピオイドの効きにくい痛みに対して多角的にアプローチしようとする医療者の努力がうかがえる.症例によっては,緩和ケアチームがオピオイド以外の鎮痛方法を調整する一方で,主治医側がオピオイド量を漸増するなど,主治医側と緩和ケアチームとの連携がとれていない場合もみられた.オピオイド量が1,000 mg OMEを超えてから,緩和ケアチームへ依頼された症例もみられた.オピオイドに関する知識の普及に加え,オピオイドが効きにくい患者を把握し情報を共有すること,オピオイドが増えすぎる前に痛みの専門家へコンサルテーションすることの必要性が示唆される2,6,11,12)

膵がんは腹腔神経叢に浸潤するなどして,場合によっては強い痛みを引き起こすと考えられるが,今回の結果ではC群では少ない傾向にあった.これは,比較的早期に緩和ケアチームに依頼があり,専門家の介入があったことが影響している可能性がある.

この結果より,神経浸潤があるとオピオイドが高用量となりやすいことが示された.また,骨盤内浸潤・転移,胸膜浸潤・転移,がん性胸膜炎においてもオピオイドが高用量になりやすい傾向がみられた.骨盤内や胸膜の浸潤や転移では神経障害性疼痛の要素が大きく,解剖学的にも裏づけられる.神経障害性疼痛の要素がある場合オピオイドが高用量となることは,文献的な報告と一致する10).非がん性痛においても,神経障害性疼痛が,オピオイド投与が高用量となることに影響しているという報告がある7).ロジスティック回帰分析において有意な結果は得られなかったものの,神経浸潤のオッズ比は高かった.有意差が認められなかったことには,標本数の問題や後述する本研究の限界も影響していると考えられる.今後の研究によってより現状を反映した結果が得られる可能性はあると考えられる.

骨浸潤・転移でもオピオイドが高用量となることが予想された16)が,結果としては群間での差がみられなかった.これは,骨病変に対する対応として,放射線治療やゾレドロン酸,デノスマブの投与などが積極的に行われていたことが影響していると考えられ,骨転移に対する対応は比較的知識が共有されていたことがうかがえる.

本研究において,いくつかの限界があげられる.一つは本研究のデザインが電子カルテによる後ろ向き調査であったため,電子カルテの記載,カルテからの情報抽出におけるバイアスの存在が懸念されることである.調査内容は可能なかぎりバイアスの影響がない因子を選択したものの,その存在は否定できない.

対象患者に関するバイアスとしては,全患者のオピオイドの投与状況を,本研究の対象患者が必ずしも反映しているわけではない点があげられる.ここで全患者とは,対象患者と除外患者を合わせたものである.大学病院の性質上,他院から紹介を受ける場合も多く,紹介先でオピオイドが開始されていた症例が存在した.また,転院や自宅退院などによる,当院以外での死亡例も存在した.転院や自宅退院となる症例は,比較的症状がコントロールされている場合が多い.これらの患者は本研究においては除外されるため,全患者に比べて対象患者のA群の割合は小さくなっている.一方で,高用量のオピオイドを使用している症例は,看取りまで当院で経過する場合が多く,除外されることが少ない.そのため,全患者に比べて対象患者ではC群の割合が大きくなっている.これらの点もバイアスの一つになっていると考えられる.

また,非がん患者におけるオピオイド量についての文献的な報告では,神経障害性疼痛の要素に加え,精神疾患の影響8,9),喫煙をはじめとした他の物質依存の報告がみられた7,9).今回もこれらの因子を含めた検討を行うべきであったが,患者背景の聴取にばらつきがあったこと,心理面に関する検査が統一して行われていなかったことから,調査項目に含めなかった.

痛みの評価についても,院内で評価方法が統一されていなかったため,今回は調査項目に含めなかった.レスキュー量については,入院中は医療スタッフによる記載がある場合が多かったが,外来通院中のレスキュー量の聴取が困難であることから,調査項目に含めなかった.今回のオピオイド投与量は徐放製剤の投与量をもとにしたため,レスキュー量を加えると,オピオイド最大投与量として示された結果に比べ,実際のオピオイド投与量はさらに多いものであったと推察される.

転移,浸潤に関しては,放射線診断医の画像レポートをもとにしたが,画像による評価,放射線診断医の評価それぞれに限界は存在すると考えられる.本研究での神経障害性疼痛とは,浸潤,転移によるものとしたが,がん治療に伴うものや,非がん性の神経障害性疼痛の影響は完全に除外することは困難であり,本研究の限界ではあると考えられる.また,神経障害性疼痛スクリーニング質問票17)やpainDETECT日本語版18,19)などを用いて評価することも,今後がん患者の神経障害性疼痛へのアプローチとして考慮したい.

今回の研究から,がん患者において,若年であること,オピオイドの投与期間が長いこと,オピオイドの増量幅が大きいこと,神経浸潤があることが,高用量のオピオイド投与に影響する可能性が示唆された.本研究の結果と限界をふまえ,オピオイドの投与量と関連する因子について,またオピオイドの増量方法や専門家に介入を依頼するタイミングなどについて,今後さらなる検討が必要であると考えられる.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第51回大会(2017年7月,岐阜)において発表した.

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