Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Use of combined radioisotope cisternography with SPECT/CT for identifying the site of cerebrospinal fluid leakage: a report of three cases
Mayu FUKAONobuhiko TANAKAMasaharu YAMAGAYumi WATANABEIsao TSUNEYOSHI
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2021 Volume 28 Issue 9 Pages 190-193

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Abstract

脳脊髄液漏出症の診断のための主な画像検査として,CTミエログラフィー,MRミエログラフィーと脳槽シンチグラフィー(radioisotope cisternography:RIC)がある.当院では,以前よりRICを実施してきたが,RIC単独で漏出部位を特定できる症例は少ないとされている.今回われわれは,RICに単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(single photon emission computed tomography:SPECT/CT)を併用することで,漏出部位を特定できた3症例を経験した.3症例とも,SPECT/CTを追加することで長軸および水平方向の漏出部位を正確に判定でき,硬膜外自家血注入で治癒した.脳脊髄液漏出症を診断する際,RICとSPECT/CTの併用は,鋭敏な検査法として選択肢の一つになりえる.造影剤アレルギー等によりCTミエログラフィーが実施できない症例などに対して良い適応であり,画像判定基準では明確な診断ができない場合には,検討すべき検査である.

I はじめに

脳脊髄液漏出症は,脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)が硬膜外腔へ漏出することにより,起立性頭痛,頚部痛,めまいや耳鳴などの症状を呈する疾患である.近年では慢性硬膜下血腫の原因の一つとしても知られている.安静臥床と補液による保存的治療で症状が改善しない場合,有効な治療法として硬膜外自家血注入(epidural blood patch:EBP)が選択されることが多い.

脳脊髄液漏出症の確定診断のための主な画像検査として,CTミエログラフィー(CT myelography:CTM),MRミエログラフィー(MR myelography:MRM)と脳槽シンチグラフィー(radioisotope cisternography:RIC)がある1).当院では,以前よりRICを実施してきたが,RICはスクリーニング検査法として位置づけられており,RIC単独で確実に漏出部位が特定できる症例は少ないとされている1)

RICに単一光子放射型コンピュータ断層撮影(single photon emission computed tomography:SPECT/CT)を併用し,RICでくも膜下腔に注入した放射性同位体インジウム(111In)DTPAの放射線分布を多方向から撮像し,CT画像とフュージョンさせることで,漏出部位の特定に有用であった3症例を報告する.

II 症例

【症例1】70歳代,男性.3年前,散歩中に転倒し外傷性くも膜下出血の診断で入院加療したが,退院後も頭重感,ふらつき,記銘力障害が持続していた.症状は歩行時に悪化し安静と飲水後30分で軽減することから脳脊髄液漏出症を疑われ,当科紹介受診した.RIC・SPECT/CTでT12/L1高位の漏出と診断した(図1).X線透視下にTh12/L1高位から硬膜外穿刺し,自己血15 mlを投与した.軽度のふらつきは残存したが,頭重感と記銘力障害は改善し治療10日後に退院となった.約4年後,症状は不変だったが本人希望でRIC・SPECT/CT検査を行い,漏出所見はなかった.

図1

症例1.注入1時間後RIC(a)およびSPECT(b)

(a)早期膀胱内RI集積,右腎上方に突出した集積あり.(b)T12/L1レベル右椎間孔に異常集積を示す.

【症例2】50歳代,男性.3カ月前から誘因なく頭痛が出現し持続するため近医を受診し,頭部CTで両側慢性硬膜下血腫の診断で入院加療された.血腫除去術の1カ月後に再び右硬膜下血腫を発症し,MRMで下位頚椎から上位胸椎に硬膜外水信号を認め,脳脊髄液漏出症の精査加療目的に当科紹介受診した.4時間後のRICで頚椎左方に異常集積を認め,48時間後のSPECT/CTでC1/2高位に異常集積を確認できた(図2).X線透視下にTh1/2高位から硬膜外穿刺し,造影剤10 mlでC1/2高位までの拡がりを確認後,自己血10 mlを注入した.1年後の再検査でCSF漏出や硬膜下血腫再発の所見はなかった.

図2

症例2.注入4時間後RIC(a)および48時間後SPECT(b)

(a)左頚椎レベルに突出した異常集積あり.(b)左環軸椎レベルに異常集積を示す.

【症例3】40歳代,女性.7年前に浴槽で転倒後,起立性頭痛と後頚部痛が持続していた.めまい,羞明,耳鳴も出現し,脳脊髄液漏出症が疑われ,当科紹介受診.頭部・脊髄MRIで明らかな異常所見は認めなかったが,本人の希望が強くRIC・SPECT/CTを実施した.RIでは早期膀胱内RI集積の所見(間接所見)のみで,明らかなCSF漏出の所見はなかったが,4,24時間後のSPECT/CTでL3からL5高位の椎間孔から傍脊椎へ突出するRI集積を認めた(図3:経時的に3方向の画像所見から総合的に判断したがここでは4時間後の横断面のみ提示).X線透視下にL4/5高位で硬膜外穿刺し,自己血20 mlを注入した.症状は改善し,10カ月後も再発はなかった.

図3

症例3.注入1時間後RIC(a)および4時間後(b-1),24時間後SPECT(b-2)

(a)早期膀胱内RI集積あり.L5レベル(b-1)とL3レベル(b-2)で椎間孔から傍脊椎への異常集積を示す.

III 考察

RICは,くも膜下腔に注入した111In-DTPAの放射線量に基づく白黒の平面撮像であり,画像は比較的粗く,撮影方向に一致する異常集積は検出できない欠点を持つ.神経根鞘や嚢胞への集積やくも膜下穿刺部からの薬剤漏出による偽陽性に加え,くも膜下腔以外への薬剤誤注入の報告がある2,3).神経根鞘による偽陽性が11%4),くも膜下穿刺部からの薬剤漏出が2.3~16%,くも膜下腔以外への誤注入が1.7~8%3)と報告されており,RIC単独でのCSF漏出の診断は画像判定基準でも「疑」~「強疑」にとどまっている.これらの欠点を補うため,当院では日常的に,RICとSPECT/CTを併用しており,L3/4高位からくも膜下へ111In-DTPAを1 ml注入後,1・4・24時間(所見により48時間)で同じ条件の下RICを撮像し,漏出が疑われた時点でSPECT/CTを撮像している.症例3は,RICの撮像方向と一致した前方への漏出である上,くも膜下穿刺と同じ高位のため,RIC単独では偽陽性所見と判断される可能性があった.25G針の単回穿刺4時間後に,針孔からのCSF漏出で神経根へ貯留するほどの薬剤が検出される可能性は低いこと,また,硬膜外腔への誤注入についても,実際に薬剤の拡がりが限局的で神経根は描出されなかった症例を過去に経験していたことから,髄液漏出の所見であると判断した.

SPECT/CTではRIのカウントが色調で表され,漏出の程度や水平方向の解剖学的位置を明らかにできることは診断の誤りを少なくする点で有用である.

脳脊髄液漏出症の診断に使用される画像検査として,RIC以外にMRMとCTMがあげられる.それぞれの検査法の陽性率を調べた報告2)によると,CTMで91.6%と最も高く,RICで81.7%,MRMで63.4%と最も低い.検査陽性率が最も高いCTMは放射線被曝を避けられず,くも膜下腔に投与する造影剤には複数の禁忌や重篤な副作用がある.一方,検査陽性率が最も低いMRMは放射線被曝がなく,薬剤をくも膜下腔に投与しないため,最も施行しやすい検査法である.

RICでは,使用する111In-DTPAに禁忌や副作用はほとんどなく,SPECT/CTを併用する場合も,同じ111In-DTPAで撮像するため新たな薬剤の追加はしない.撮像後にフュージョンさせるCTを撮影するため放射線被爆の機会は増えるが,SPECT/CTでは解剖学的位置を判別できればよいため,当院では通常のCTより低い放射線量で撮影している.患者の体格や各施設のCTの撮影条件によって異なるが,最大3回のSPECT/CTを追加しても,総線量は透視を含めたCTMより少ない.放射性医薬品を使用するための設備が必要であり実施できる施設が限定されること,撮像時間がRIとSPECT/CTそれぞれ20~25分程度であり患者への負担も課題である.

木下らの報告5)によると,同一患者でRICとCTMの両方の検査を行った結果,CTMの方がCSF漏出の診断には有用であったとしている.さらに,CTMを動的に撮影(dynamic myelography)することで漏出点の検出に有用であったとする報告もある6).しかし,RICにSPECT/CTを追加することでCTMと同等かそれ以上の結果が得られたとする報告7)もあることから,RICとSPECT/CTを併用することは,設備が整っており,患者の協力が得られれば有用である.

以上のことから,脳脊髄液漏出症の診断には,検査陽性率,放射線被曝や造影剤使用の可否を念頭において,自施設で実施可能な検査を選択していく必要がある.RICとSPECT/CTの併用は,鋭敏な検査法として選択肢の一つになると思われ,造影剤アレルギー等によりCTMが実施できない症例などに対しては良い適応である.画像判定基準で明確な診断ができない場合には,検討すべき検査であると思われる.

この論文の要旨の一部は,日本ペインクリニック学会第49回大会(2015年7月,大阪)において発表しており,投稿にあたっては当院の倫理委員会の審査を受けている(承認番号:c–0073).

投稿にあたり,線量測定等に協力していただいた当院放射線部の方々に深謝いたします.

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