2007 年 14 巻 4 号 p. 418-420
手術後の硬膜外鎮痛中に対麻痺が緩徐に発現した転移性硬膜外腫瘍が潜在した症例を経験した. 69歳の男性で, 胆石症で腹腔鏡下胆嚢摘出術が予定された. 第10, 11胸椎間から硬膜外カテーテルを留置し, 全身麻酔と硬膜外麻酔の併用で管理した, 術後鎮痛のために持続注入装置で0.25%ブピバカインを2ml/hrで投与した. 翌日, 左下肢のしびれと歩行障害があったので, ブピバカインの注入を中止し, 硬膜外カテーテルを抜去した. 3日目に下肢の筋力が軽度低下し, 5日目にはTh9以下の温覚を除いた感覚鈍麻, 完全対麻痺となった. MRIのT2強調画像で胸椎に多発骨転移を示唆する高信号があり, 脂肪抑制画像ではTh8レベルで硬膜外腫瘤による脊髄圧迫所見があった. 対麻痺の発現から6時間後に緊急椎弓切除・固定術が施行された. 腫瘍組織は低分化型腺癌で, 前立腺癌の転移であった. 手術2週間後の下肢徒手筋力テストでは右5/5, 左4/5に回復し, 2カ月後に正常歩行で退院となった.