1997 年 4 巻 4 号 p. 476-480
外来で行なった左下顎神経フェノール(Ph)ブロックで, 眩暈・悪心などを訴える非典型的経過を示した合併症を経験した. 頬骨弓中点直下よりアプローチし, 放散痛を得て1%リドカイン(Li)0.2mlを注入し下顎神経全領域に anesthesia が得られた. 局麻薬の注入では問題なかったが, 約20分後同量の10%(Ph)グリセリンを注入した30分後より眩暈・悪心などを訴えた. 症状は薬剤治療に抵抗し, 3時間後にピークを示し以後軽減, 約10時間でほぼ完全に消失した.
同神経支配領域の anesthesia は翌日にも確認できた. 本症状は(Li)あるいは(Ph)の耳管内浸入が考えられるが, 直接注入としては発症に時間をとりすぎる. 耳管内への浸潤も考慮される. また, なんら遺残症状を認めないことも理解しがたい. 神経破壊薬による内耳栄養血管の攣縮などの血管障害の可能性も否定できない. 神経ブロックはX線透視下にブロック針を当該神経の直近にまで導き, 必要最小量の薬剤を用いるべきである.