神経ブロックは優れた効果をもつ反面, 確実な手技の裏づけがなければ副作用や合併症のために, ときには生命に関わることすらある. そこで, 熟練した指導者のもとでの研修が必須となる. しかし著者は, 種々の理由から研修の機会に恵まれず教科書を唯一の頼りに神経ブロック療法を手がけてきた. その結果として多くの副作用や合併症を経験した. これらの経験は, 著者にとっては思い出すのも辛いが, その原因と対策を述べることは, 次代を担うペインクリニック医への警鐘となるばかりでなく, 同じ過ちを繰り返さないための道標ともなる.
合併症というと, 主として手技によるものを指すが, ペインクリニックでは患者との対応一つで人の生命を左右する場合がある. ある意味では技術的な合併症に勝るとも劣らない問題と考えられる. そこで神経ブロックの手技による合併症とともに, 対応の拙さが誘因と思われる不祥事についても自験例を中心に述べる.
本稿は, 第3回中国・四国PC研究会での「ペインクリニック20年における苦い経験」と題して行った講演ならびにそれをまとめて, 同じ題で「麻酔と蘇生」に掲載した文章と重複する旨をお断りしておく.