抄録
鎖肛において,良好な排便機能を有する肛門の形成は外科的治療の最終目標である. 近年,恥骨直腸筋係蹄を含む肛門括約筋群の三次元的包括的再建の普及により,その治療成績は機能面において大いに改善した. しかし,便秘,失禁などの排便障害,脱肛,肛門狭窄などの合併症を主訴に来院する症例も未だ散見され,本疾患治療の難しさを物語っているものといえる. これら予防には,前述の直腸部に対する処置のみならず,肛門形成に対しても新たな創意工夫が必要と思われる. われわれは3例の鎖肛症例に対し,Two flap anoplasty による肛門形成術を施行し,最長11年8ヵ月の経過観察において,形態的にも機能的にも満足すべき結果を得ている. 本法は,肛門作成部に作成するふたつの皮弁により肛門柱を作成するものである. すなわち,作成する肛門をより生理的状態に近づけるべく,内外胚葉系の境界部となる歯状線までの肛門柱を,健常皮膚により作成するもので,さらに陰部神経下直腸枝を含む知覚皮弁としての移行により,知覚を有した肛門柱を作成するものである. 良好な血行を有する皮弁のため感染に対する抵抗も強く,患児成長と共に皮弁も成長し,手技も容易で,脱肛症例に対しても適応可能など多くの利点をもつ. 鎖肛治療において考慮されるべき一手術手技と思われた.