2001 年 37 巻 4 号 p. 708-712
【目的】小児急性虫垂炎症例に対する診断確定以前の盲目的な抗生物質投与(以下, 受診前抗生物質投与)が, 虫垂炎の経過, 特に虫垂の穿孔・非穿孔にどのような影響を与えるかを後方視的に検討した.【対象・方法】1990年∿1999年までの最近10年間に当科で手術を施行され, 小児急性虫垂炎と診断された300例を対象とした.これらの症例に対し, 受診前抗生物質投与の有無と症例の諸因子 : 年齢, 性別, 術前有症期間, 入院時白血球数, 入院時CRP値, 虫垂の穿孔の有無, との関係を統計学的に検討した.統計学的解析にはロジスティック回帰分析, Student t検定, Χ二乗検定を用いた.なお統計学的解析は, カタル性の症例が14例と少なかったため, 進行例286例を対象に行った.【結果】受診前抗生物質投与群は87例, 非投与群は199例であった.両群の年齢, 性別には有意な差は認めなかったが, 受診前抗生物質投与群ではその投与法に関わらず術前有症期間が有意に長く, また穿孔例も有意に多かった.【結論】小児急性虫垂炎疑診例に対する診断確定以前の盲目的な抗生物質投与は, 虫垂炎の穿孔予防に対しては無効であり, むしろ術前有症期間の長期化から穿孔の危険因子にもなりうると思われた.