2006 年 42 巻 5 号 p. 601-605
顔面神経を温存し切除することができた耳下腺部乳幼児線維腫症(infantile fibromatosis)の1例を経験した.症例は10カ月男児で,4カ月前から急速に増大する左頬部の腫脹を認めた.画像診断では,一部嚢胞性部分を混じる最大径約8cmの充実性腫瘍であり,左耳下腺部から咽頭部まで進展していた.画像検査や生検でも診断がつかず,手術を施行した.腫瘍は耳下腺深葉部に存在し,顔面神経は腫瘍に貼りつくように圧排されていた.顔面神経各枝を剥離温存した後に,腫瘍を全摘した.腫瘍は病理診断にて,infantile fibromatosis (diffuse-type)と診断された.術後は一時的な顔面神経麻痺を認めたが,現在は改善している.Infantile fibromatosisは,乳幼児に発生する間葉系腫瘍であり,周囲への浸潤傾向があり手術後も再発しやすい.耳下腺部に発生したinfantile fibromatosisは極めてまれで,術前診断は困難である.手術部位が顔面神経に近く,これを損傷すれば,永久的で重篤な麻痺症状を呈することから,神経を温存することが重要であると考えられた.