2010 年 46 巻 1 号 p. 28-31
【目的】肥厚性幽門狭窄症(以下,本症)に対する従来の腹腔鏡下幽門筋切開術は繊細な手技が要求される比較的難しい手術であるが,難しさの一つの要因として幽門筋腫瘤(以下,腫瘤)を切開に最適な位置に固定することが困難であることがあげられる.そこで,腫瘤全体を確実に把持できる血管鉗子を用いた方法を導入したのでこの方法の有用性を検討した.【対象と方法】2008年4月〜2009年7月に当科で新生児用血管鉗子を用いた腹腔鏡下幽門筋切開術を施行した7例を対象とした.新生児用血管鉗子は右上腹部からstab法で挿入し,腫瘤全体を把持し幽門筋切開を行った.【結果】穿孔などの術中合併症はなく,開腹へ移行した症例もなかった.新生児用血管鉗子は約3mmの切開創からstab法で挿入した.腹腔鏡下幽門筋切開術を初めて行った二人の術者を含めた手術時間の平均は33.4分と従来法の40分と比較し短いものであり,術後合併症もみられなかった.【結語】本法は血管鉗子で腫瘤全体を把持し,最適な位置で腫瘤を安定して固定できるため,腹腔鏡下幽門筋切開術の初心者でも手術時間を短縮することができた.7例と症例が少なく今後も症例の蓄積が必要であるが,本法は手術時間の短縮や安全性の向上などにつながる腹腔鏡下幽門筋切開術における工夫の一つとして有用であると考えられた.