2010 年 46 巻 5 号 p. 862-866
われわれは診断までに時間を要した合成樹脂製玩具誤飲による腸閉塞症の1例を経験した.症例は1歳7か月の男児.頻回の嘔吐を主訴に当院を受診し,第3病日に発熱,下痢が出現し小児科に入院となった.入院後は下痢が消失し腹部膨満が増強した.第4病日の腹部単純X線写真で著明な小腸拡張像を認め,第5病日に施行した腹部CTで消化管異物による腸閉塞症と診断し緊急手術を行った.回腸内に異物を認め,これを摘出した.異物は直径25mmの弾性のある軟らかい球形玩具で,素材は合成樹脂TPE(thermoplastic elastomer)であった.なお,家族は患児が異物誤飲していたことに全く気付いていなかった.術前認めていた高熱は術後速やかに消失した.乳幼児の玩具誤飲は救急外来でしばしば経験されるが,腸閉塞症をきたし手術に至る症例はまれである.また乳幼児は自らの訴えを表出できず,誤飲する現場が確認されていない場合は診断の遅れにつながる.