抄録
間質性肺炎・急性肺傷害では, 肺胞中隔への炎症細胞浸潤と線維芽細胞の増加による末梢肺組織の線維化が認められる。肺胞I型上皮細胞(type I cell)が傷害されると肺胞II型上皮細胞(type II cell)が肥大・増生し、type I cellへと分化, 肺胞壁を被覆し修復する方向へ働く。type II cellから合成・分泌される肺サーファクタント蛋白質(Surfactant Protein;SP)のうち, 疎水性であるSP-B, SP-Cは, 末梢肺組織の線維化の契機の1つと考えられている肺胞の虚脱を防ぐ機能を担う。我々は間質性肺炎における血清マーカーとしてのSP-A, SP-Dの有用性を報告してきたが, 放射線起因急性肺傷害動物モデルを用いて生体内での各SPの推移を検討した結果, 放射線照射後にサーファクタント産生の増加を認めたが, SPのmRNA発現においては, SP-A mRNAに対するSP-B, SP-C mRNA発現の相対的低下を認めた。このことから, 急性肺傷害における肺サーファクタント組成の変化は肺胞表面張力上昇を惹起させ, 肺胞虚脱による呼吸状態の悪化や末梢肺組織の線維化の一因となることが推測された。最近ではARDSに対するサーファクタント補充療法等が報告され, 今後, type II cellからみた間質性肺炎・急性肺傷害の病態に関する新たな検討が期待される。