日本緑化工学会誌
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「河川における生物多様性に配慮した堤防植生管理」 研究集会「河川における生物多様性に配慮した堤防植生管理」の報告
山田 晋
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2016 年 42 巻 3 号 p. 425-427

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抄録

河川堤防は,洪水から国民の生命・財産を守るため,永年にわたり築堤や補修が継続的に行われている長大な河川管理施設である。この河川堤防の植生に求められる機能は,洪水を安全に流下させるための耐侵食機能である。また,河川巡視や堤防点検における視認性の確保の点からも,河川堤防における適切な植生管理が重要である。しかしながら,維持管理予算の縮減によって,河川堤防では,従来のような高頻度の刈取りによる堤防植生管理を行うことが困難となった。この堤防植生管理のあり方の変更は,河川堤防における外来植物の蔓延などの植生変化を招いている。外来植物の優占する河川堤防の耐侵食機能や河川巡視・堤防点検における視認性は,シバやチガヤが優占する河川堤防よりも劣ることが知られるため,河川堤防の管理上望ましい植生を維持・誘導するための効率的な堤防植生管理が求められている。一方,平成 20年に「生物多様性基本法」が制定された。河川堤防には,局所的ながら日本の四季を感じられる多くの在来植物が存在し,そこに多種多様な生物が生息している。このため,河川堤防の植生管理を通して,生物多様性の観点から河川堤防における植生の質を高めることも期待される。本研究集会では,河川堤防における植生管理に関するこれまでの経緯や,河川堤防に残存する在来植物の現状,植生管理の新たな取り組みを概観することで,今後の生物多様性にも配慮した河川堤防の植生管理の可能性を探るものである。この研究集会は,これまで多くの実践的活動がされてきたものの,緑化工学会では紹介事例が比較的少なかった「河川堤防」における植生管理について紹介することを目指した。発表では,河川管理者に近い立場であり,河川行政に精通している公益財団法人河川財団から 2名を招き,河川堤防における植生管理に関するこれまでの経緯や,植生管理の新たな取り組みについて紹介いただいた。また,河川堤防に残存する在来植物の現状と,河川堤防における生態緑化の可能性について,研究者 2名から報告した。以上より,今後の生物多様性にも配慮した河川堤防の植生管理の可能性を探ることを目的とした。

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