Daniels (1954) によって統計学に導入された鞍点近似法は,特性関数にLévy の反転公式を適用し密度関数を計算する際の簡便法である.今日の計算機環境はこのような方法に依存することなく,Lévy の反転法のような複素数を含む数値積分をも実行可能としている.本論文では数値計算例に基づきLévy の反転法と鞍点近似法の比較を行う.鞍点近似法の精度は前者より落ちるが,鞍点そのものにはLévy の反転公式と同等な式が存在することを示す.さらに鞍点には,漸近正規性を有する統計量について,極限分布からの乖離具合を自然な形で表現できるという特筆すべき能力がある(竹内 (2013, 2014)).核型密度推定量の各点における法則収束の早さを比較・評価する際,特にこの性質が有用である.