スポーツ社会学研究
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原著論文
スポーツ・ジェンダー研究の「まなざし」について
山口 理恵子
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2010 年 18 巻 2 号 p. 39-52

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抄録

 「ジェンダー論的まなざしと身体のゆらぎ」を主題とする特集の一論考に位置づけられる本稿は、まず、スポーツ・ジェンダー研究がこれまで「まなざし」を直接的にどのよう論じてきたのかを明らかにするため、スポーツのメディア表象を対象とした先行研究を手がかりとする。スポーツ・ジェンダー研究のメディア批評は、これまでメディアの送り手を「男の眼差し」と措定し、女性アスリートの女性性を強調するメディアのジェンダー・バイアスを批判してきた。この「男の眼差し」は、「見る男性」と「見られる女性」という非対称な関係図式に基づくものであるが、インターネットの普及やスポーツ・マーケティングの席巻などにより、「男の眼差し」を論拠とする視座では捉えきれない現象――消費し「見る」女性、「見られる」男性――が広がっている。多様な現象を捉えず、スポーツ・ジェンダー研究が「男の眼差し」を採用するならば、それは皮肉にも、男女の非対称な二元化を批判してきたスポーツ・ジェンダー研究が、その二元化に固執しているという「まなざし」を詳らかにしてしまう。
 今日のスポーツ界は、多様化し、錯綜し、階層化している。それを顕著に例証しているのが、セクシュアル・マイノリティの位置づけである。一部のセクシュアル・マイノリティは、厳密な条件の下にオリンピックへの出場が許可されるようになった。しかしそれは、セクシュアル・マイノリティを包摂する規定のようでありながら、物質的な身体の改変・加工を強要するものであった。またそれは、政治的、文化的、経済的な力によって左右され、セクシュアル・マイノリティの階層化を招く可能性がある。ジェンダーとそれ以外の因子とが複雑に絡まり合ったスポーツ界を批評するために、ジェンダー論的「まなざし」の重要性と精緻化がこれまで以上に求められている。

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© 2010 日本スポーツ社会学会
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