スポーツ社会学研究
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特別寄稿
高度成長期の勤労青少年のスポーツ希求はその後どうなったのか
―各種調査の再分析を通して―
広田 照幸河野 誠哉澁谷 知美堤 孝晃
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2011 年 19 巻 1 号 p. 3-18

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抄録

 本論文の目的は、高度成長期(1950~60年代)における若い低学歴労働者がスポーツに対する強い希求(あこがれ)を持っていたことを確認した上で、その希求がその後どうなったのかを、各種の社会調査の報告書を再分析して明らかにする。
 高度成長期には、まだスポーツ施設が十分作られていないだけでなく、若い低学歴労働者は所得が低く、生活時間に余裕がなかったため、十分にスポーツを楽しむことができなかった。特に男子の労働者たちは、余裕ができたらスポーツを思いっきりやりたいと考える者が多かった。1960年代後半~70年代には、スポーツ享受を阻んでいた上記の諸要因が次第に克服されていった。
 本稿で立てる問いは2つである。1)後続の若い世代、すなわち、1970~80年代の若者たちも、スポーツに対する同様の希求を保持していたのか。2)高度成長期に勤労青少年だった世代は、その後の人生でどうスポーツを享受していったのか。
 一つ目の問いへの答えは、次の通りである。後続の世代の若者も、同様にスポーツに対する強い欲求を示した。しかし、①彼らは、スポーツ以外のさまざまなレジャーや活動にも興味を拡大させ、その結果、スポーツがもっとも強いあこがれの対象ではなくなった。②彼らは、高度成長期の若者がやりたがっていたスポーツではない、新しい種類のスポーツを求めるようになった。
 二つ目の問いへの答えは次の通りである。①高度成長期に若者だった世代は、年齢の上昇につれて、次第にスポーツ実施率を低下させていった。②スポーツの種類もスポーツ活動の目的も、年齢の上昇につれて変化していった。③彼らが中高年の年齢層になると、軽い運動を頻繁に行う者からまったくスポーツをやらない者まで、ライフスタイルに関して大きな幅が見られるようになった。
 以上の考察から、本論文は、ある世代の若者がスポーツにどういう意義を見出すかは、その時代に固有の社会的条件によって強い影響を受けていること、及びスポーツが個人の人生で果たす役割は多様であることを主張する。

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© 2011 日本スポーツ社会学会
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