スポーツ社会学研究
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原著論文
アドヴァンスト・リベラリズムのもとでの地域スポーツの「統治」
―イギリス・ニューレイバー政権の地域スポーツ政策―
金子 史弥
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2012 年 20 巻 1 号 p. 63-75

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抄録

 本稿の目的は、イギリスのニューレイバー政権の下で展開された地域スポーツ政策を批判的に読み解くことで、昨今のイギリスにおける国家政策としての地域スポーツ振興の背後に存在する政治的思想、すなわち「統治性」を理論的に明らかにすることである。
 本稿は、ニューレイバー政権の地域スポーツ政策には「地域のクラブ、コミュニティやボランタリー組織を含めた『諸アクターとの協働』によるスポーツ振興」と「地域社会の再生やコミュニティの形成をはじめとした多様な役割を期待されてのスポーツ振興」という2つの特徴が見られることを、関連する政策文書の分析を通じて指摘した。その上で、ニューレイバー政権による地域スポーツ振興の背後にはミッチェル・ディーンやニコラス・ローズらが「アドヴァンスト・リベラリズム」と名付けた統治性が存在していたことを明らかにした。すなわち、ニューレイバー政権の下で、政府とスポーツイングランドは自らが直接地域スポーツを振興するのではなく、一方ではスポーツ競技団体や地方自治体などの「パートナー」に権限を与えながら、他方では政策目標の設定、助成金の分配、政策評価などの様々な「統治のテクノロジー」を駆使することによって各パートナーを「遠隔統治」することを目指していた。加えて、地域スポーツを含めた社会全体のアドヴァンスト・リベラルな統治を支える「個人」と「コミュニティ」を地域スポーツの振興を通じて構築しようとしていた。
 以上のような作業を通じて本稿は、ニューレイバー政権の下での地域スポーツの統治と前保守党政権の統治との間に存在する差異と連続性を理論的に説明した。さらに、ニューレイバー政権の地域スポーツ政策の主眼はもはや「スポーツ・フォー・オール」にはなく、アドヴァンスト・リベラルな統治を支える「個人」と「コミュニティ」を構築する「統治のテクノロジー」としての地域スポーツ振興にあると指摘した。

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© 2012 日本スポーツ社会学会
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