スポーツ社会学研究
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研究ノート
「見るスポーツ」の権利に関する一考察
高橋 豪仁
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2014 年 22 巻 1 号 p. 79-88

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抄録

 「スポーツ基本法」において、法文上初めて「スポーツ権」が明記されたことは、憲法13条の幸福追求に対する国民の権利がスポーツの次元においても存在することを根拠づけるものではあるが、その保障内容については議論の余地がある。本研究では、下記の訴訟事件を、スポーツを見る側の権利の観点から検討し、この裁判の過程で問題となったプロ野球の公共性について考察を加えた。 また、こうした私設応援団の排除や応援不許可を、単に反社会的勢力の排除の一環であるという表層的な見方で説明するのではなく、その背景に存在するスタジアムにおける管理・監視システムの視点から検討する。
 プロ野球暴力団等排除対策協議会は、2008年3月、ある私設応援団に所属する26人に排除命令、7つの応援団から構成される1団体には特別応援許可を出さないことを決定した。これに対して当該の応援団は、2008年6月、名古屋地方裁判所にNPB と12球団らを相手取り、入場券販売拒否と特別応援不許可の撤回を求める訴訟を起こした。
 原告らはプロ野球の公共性を根拠に「スポーツ権」を主張したが、プロ野球は営業の自由や契約自由の原則が適応される私的事業の領域であるとの理由でプロ野球の公共性は否定された。公的セクターには公共性があり、私的セクターにはそれがないとする判断であり、現在社会におけるスポーツのあり方を説明するには一面的である。また被告側の応援団や観客への関係性には自由な討論の場も公開性もなく、ハーバーマスの言う「市民的公共性」の観点から批判することができる。ここで取り上げた訴訟事件は、興行主である日本野球機構や球団が、プロシューマーである私設応援団を、データベース化と自己規律化に基づく管理によって、自らの生産活動の中に囲い込んでいるという構造を顕在化させている。

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© 2014 日本スポーツ社会学会
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