スポーツ社会学研究
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原著論文
男性高齢者の老いゆく身体と身体実践
―東京都Sジムにおけるボディビルダーたちの事例から―
竹﨑 一真
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2015 年 23 巻 1 号 p. 47-61

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抄録

 近年、高齢化社会の進展とともに、高齢者の間でスポーツの実施率の高まりやアンチ・エイジング市場の拡大など、老いゆく身体に対する身体実践が一般的になりつつある。先行研究ではこうした実践がクオリティライフの達成や社会関係の構築、アイデンティティ再獲得に繋がっており、高齢者にとっての価値となっていることを指摘した。しかしながら、こうした研究は、なぜ高齢者たちがその価値を求めているのか、そしてその価値をいかに構築しているのかを十分に捉えてこなかった。
 この問題意識から、本稿では東京都Sジムの男性高齢者ボディビルダーを事例に、彼らの実践に焦点を当て、彼らがいかにボディビルの価値を構築するのかを考察した。そして以下のことが明らかとなった。彼らは、ボディビルが必ずしも身体的な「老い」を解決するものではないと理解している。しかしながら、彼らはSジムに通う他の健康志向の高齢者に「普通の高齢者」像を投影することを通じて、自身の老いゆく身体を肯定的に意味づけ、自分たちから差異化することによってボディビルを価値づけていく。そして、「普通の高齢者」から差異化し続けるために、老いを受容することによって新たな身体観とその設計図を見出し、ボディビルダーであり続けようとしていた。
 最後に、高齢者の望ましい生の獲得は彼ら自身が老いを「異常な状態」と認識することによってなされる可能性があること、そして、老いゆく身体を持つがゆえに高齢者の文化として身体実践が位置づいていく可能性があることを示した。それゆえ高齢者の身体実践に関する議論は、価値論や是非論ではなく、高齢者の「生きられた経験」を捉えることから、老いゆく身体と身体実践がいかに結びついていくのかを問う必要性を指摘した。

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© 2015 日本スポーツ社会学会
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