スポーツ社会学研究
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原著論文
総合型地域スポーツクラブ政策の地域的「転換」過程
―縮小社会化する企業城下町・日立の事例―
嘉門 良亮
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2016 年 24 巻 1 号 p. 63-78

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抄録

 今日、総合型地域スポーツクラブ関連のものを筆頭にスポーツ振興政策は地域で支えるものという位置づけがなされ、地域での量的拡大を既に終えた。総合型クラブがスポーツを通じて「新しい公共」を担い、コミュニティの核となるということが標榜され、推奨されてきた。しかし、スポーツ振興政策はスポーツ組織と地域の生活課題、社会構造・生活構造の関係を考察してこなかった。なぜならスポーツの「界」は地域の生活課題の解決をあくまでスポーツ振興の手段や必要条件としかみなして来なかったからである。
 こうした問題意識を基に本稿は、少子高齢化と人口減少による縮小化に対応を迫られる企業城下町である茨城県日立市の滑川地区を事例に、総合型地域スポーツクラブと地域コミュニティ組織の関係から地域における生活課題とその対応を明らかにした。その上で、地域の実情に合わせて総合型クラブを改変することの意味を論じた。
 本稿の事例から明らかになったのは、上からのスポーツ振興政策に対し、地域住民が戦略的に読み替えを行い、総合型クラブを自らの生活課題に対応するための実務的な組織として運営していく取り組みであった。すなわち、既存の小学校区での地域コミュニティ活動の流れを汲みつつ、高齢者の生活問題などの課題に対応していく総合型クラブの姿であった。総合型クラブと住民組織の間には大きな性質の差異が認められつつも、その協力関係は、スポーツ振興と地域自治を繋ぐ一つの方策として機能していた。
 また、スポーツ振興を前提として地域に押し付けるのではなく、地域社会の文脈を継続的に読み取る必要性が明らかになった。

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© 2016 日本スポーツ社会学会
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