スポーツ社会学研究
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スポーツ組織活動参与とナショナリズムの生成過程
イギリス統治下のアイルランドを例に
海老島 均
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2004 年 12 巻 p. 61-70,108

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抄録

本論文では、アイルランドの独立運動において重要な役割を果たしたGAA (Gaelic Athletic Association) が様々な揺らぎを経験しつつも、最終的にナショナリズムの波に合流していく過程を、グラスルーツ・レベルのメンバーのメンタリティに焦点を当てて検証した。
GAAの各クラブは、アイルランドの近代史を語る上で重要なカトリシズム、さらにそのパリッシュ (小教区) をベースに設立された。また、土地解放運動を展開したINL (Irish National League) もGAAクラブ設立で重要な役割を演じた。カトリシズムと土地解放を中心とした自治権獲得運動、この二つのイデオロギーがGAA設立の大きなバックグラウンドであったといえる。
交通網及びマスメディアが未発達の当時は、聖職者を中心とするパリッシュが人々の生存の基盤であり、また支配者階級のイギリス人地主に対抗するためパリッシュ内の凝集性は極めて高いものとなっていった。「我がパリッシュ」という「われわれ」アイデンティティとパリッシュ住民の自己アイデンティティはほぼ同一であり、いわば極めて単層化に近い構成のメンタリティがそこには存在した。このメンタリティが、さまざまな外界との接点を通して「われわれ=われバランス」に変化を来した。GAA等の活動を通したパリッシュ間、カウンティ間の交流、さらにパリッシュあるいはカウンティを横断したナショナリスト団体との繋がりによって、彼らのメンタリティの中に存在していたナショナリストとしての「層」が強固なものとなった。特にGAAの理念の中心となっていったBan (外国ゲーム禁止令等の制限ルール) により、イギリスの文化的侵略に対する認識が高まった。このことで「われわれ=Irishness」のアイデンティティが先鋭化し、占領者、占領文化に対する強固な抵抗へと具現化していった。
分析の資料としてはGAAクラブ史に焦点を当て、今まであまり分析対象とされなかったグラスルーツ・レベルでの変化を検証し、独立運動へと向かった伝統スポーツの継承者たちの社会心理を浮き彫りにした。

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