スポーツ社会学研究
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若者下位文化と社会的排除
田中 研之輔
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2007 年 15 巻 p. 71-85

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抄録

若者下位文化研究の到達点であるポストサブカルチャーズ論は、“構造的に埋め込まれた不平等”という社会的コンテクストを看過している。この点を補う視角として注目されているのが、社会的排除論である。本稿では、以下の三点に留意して若者下位文化研究に社会的排除論の視角を導入していく。
第一に、社会的に不安定な境遇にあるとする若者を「新たな貧困層」として捉えるのではなく、「新たな社会層」として対象化すること。第二に、新たな貧困が社会的排除を生み出すという政策学的解釈図式から、新たな貧困と社会的排除がいかに相互に結びつきあっているのかを解き明かす社会学的関係図式へと認識論的に転回させること。第三に、プロセスとしての社会的排除が、たんに、グローバルな構造的要因によって暴力的に生み出されるものだけでなくて、ローカルな文脈のなかで、日々の営みをつうじて、生み出され、再生産される日常的な排除であると捉え直すこと。
具体的に本稿では、2001年以降、筆者が継続してきた土浦駅西口広場を利用する若年下位文化集団のフィールドワークのデータから、三人の若者の個人史的経路をとりあげる。三人に共通するのは、学校文化の対抗的で反抗的な担い手となるわけでもなく、地元の下請け工場に従順に組み込まれていくことも拒んできたことである。彼らは、ただただ、その状況に打ち負かされているわけでもなく、文化的生活に没入することで現実から逃避しているわけでもない。担い手たちは、それまで獲得してきた下位文化的身体資本をそれぞれにいかしながら、現状を打開しつつある。
つまり、この国の社会的排除とは、若者の文化的行為を中軸とした日常生活に埋め込まれている、いわば、間隙を幾重にもかかえる脆い構造として存立し始めているにすぎない。本稿の意義は、ポストサブカルチャーズ論の文化論的分析と社会的排除論の視角を架橋する関係論的記述に社会学的な社会的排除論の今後の展望を見出した点にある。

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