スポーツ社会学研究
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トライアスロンにおけるバイク種目のドラフティング・ルール解禁
商業主義の影響に関する一考察
増井 悟
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1997 年 5 巻 p. 85-91

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抄録

今日のスポーツ界は商業主義に大きく影響され, 競技スポーツは観客を楽しませる機能を持ち合わせていることが必要とされる。こうした現象はマス・メディアやスポンサー企業とスポーツとの在り方に起因すると考えられる。本研究では商業主義化がトライアスロンのレース形式, とりわけ競技ルールに与えた影響について明らかにする。
トライアスロンは一般的に「過酷な耐久スポーツ」として知られていたが, 近年になって世界的主要レースのエリート部門ではバイク競技においてドラフティング・ルールが解禁され,「見るスポーツ」の要素を持つようになった。本来トライアスロンは, 他の選手の力を借りずに個人の力でスイム, バイク, ランを遂行するスポーツであったが, 同ルールの解禁はトライアスロンの本質を変える可能性がある。以上の変容はトライアスロンがオリンピック正式種目として採用されたことに大きく関係している。即ち, 商業主義化が浸透したオリンピック・スポーツは利潤追求を目的とした広告・宣伝の競争手段として扱われ, 特に「見るスポーツ」としての機能性が求められている。トライアスロンも例外ではなく, ルールの変更はこの商業主義化の煽りを受けた結果と考えられる。
スポーツ界における商業主義化の浸透は社会における近代化と産業化の理論を反映している。資本主義社会のもとでは市場価値が重要な要素である。市場においては人々の相対的評価によってモノの社会的価値が評価されている。トライアスロンはドラフティング・ルールの解禁を中心としたレース形式の変化によって「見るスポーツ」に適合し, 市場価値の高揚につながった。スポーツ界の商業主義化はマス・メディアやスポンサー企業による競技内容の支配を生み出した。競技内容を決定する因子として「競技時間」,「競技空間」,「競技ルール」が考えられる。

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