スポーツ社会学研究
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昭和初期におけるスポーツ論争
「日本的スポーツ観」批判をめぐって
小野瀬 剛志
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2001 年 9 巻 p. 60-70,134

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抄録

本稿は、昭和初期におけるスポーツの本質について争われた論争 (スポーツ論争) に焦点を当てている。この考察の目的は、いわゆる「日本的スポーツ観」という通説の問題点を明確にすること、その通説を日本におけるスポーツに対する知識の歴史的形成過程から把握することである。特に、後者の視点は、われわれの無意識的研究「枠組み」を理解するの役立つだろう。以上の点から、日本において「スポーツ」という言葉が普及し始めた昭和初期の言説に着目した。
スポーツ論争は、教育主義と娯楽主義との間で行われたスポーツの本質をめぐる論争である。教育主義は、スポーツにおいて教育的価値が娯楽的価値より優先的であることを主張した。その論理の中で、「武士道精神」は使用されたのである。一方、娯楽主義は、娯楽的価値が教育的価値より優先的であると主張した。彼らは、スポーツは必ずしも教育的なものとしてのみ価値があるのではなく、スポーツにはスポーツ独自の価値があること、それこそスポーツの最も重要な価値であることを主張した (スポーツ・イットセルフ)。
この研究の結果、通説の三つの問題点が指摘できる。一つ目は、「勝利 (至上) 主義」、「修養主義」などの「日本的」と言われる等質的要素は、スポーツ論争においては争点であったことである。二つ目は、日本人がスポーツを娯楽として捉えなかったという結論が曖昧であること。三つ目は、「日本的」という概念が研究者の価値観の反映である可能性があることである。

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