2016 年 27 巻 1 号 p. 11-17
要約:血小板は止血において主要な役割を果たすが,一方でがんに対して促進的な効果が報告されている.とくに,がん細胞が血行性に転移する際,血小板はがん細胞表面を覆うことにより免疫細胞による攻撃からの回避に関与するとともに,血小板凝集を起点とした大きな腫瘍塊の形成は,転移先の毛細血管における塞栓形成を助長する.さらに,血小板は凝集の際,増殖因子やサイトカインを放出するため,がん細胞の増殖,転移能の亢進,転移初期のニッチ形成にも関与することが示唆されている.したがって,血小板を標的とした治療,とくに血小板とがん細胞の相互作用を抑制する方法は新規のがん転移治療薬の開発に繋がる可能性がある.本稿では,血小板とがんの関係,血小板凝集を介したがん転移促進機構,転移性がん細胞―血小板間相互作用を担う因子について概説するとともに,筆者らのグループが転移の治療薬の開発を目指して取り組んでいる血小板とがんの相互作用を標的とした転移抑制の研究の現状についても紹介する.