日本血栓止血学会誌
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特集:血友病のNon-factor replacement therapy
東京医大病院での診療経験を踏まえたemicizumabのリアルワールドデータ
近澤 悠志山口 知子天野 景裕
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2022 年 33 巻 1 号 p. 14-22

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Abstract

2020年度の凝固異常症全国調査では,本邦の血友病A患者におけるemicizumabの使用率は約8%と推計され,その使用は増えている.そこで東京医大病院における42例のemicizumab導入症例(インヒビター保有:4例,非保有:38例)を後方視的に解析した.インヒビター保有群,非保有群の両者でemicizumab導入後の年間出血回数の中央値は共に1であり,出血抑制効果が確認された.また,全例について大関節(肘・膝・足)のArnold分類Stage IV以上の関節症を評価したところ,平均で2.3±2.0ヵ所の関節症を有しており,特に足関節の関節症は31例(73.8%)にみられた.関節症を有してもemicizumab導入後に良好な出血抑制効果が得られる可能性が示唆された一方で,導入前に出血回数が多く導入後に十分な臨床効果がみられなかった症例も存在し,導入前に関節を含めた十分な評価が望ましいと思われた.ここではこれらの知見を含み,emicizumabのリアルワールドデータについて述べる.

1.はじめに

2018年に本邦でemicizumabが上市され,使用経験が増えてきている.令和2年度(2020年度)の血友病患者のQOLに関する研究1では,『注射の方法』,『注射の頻度』,『自宅生活での負担軽減効果』,『学校や職場など社会生活での負担軽減効果』などに関する満足度を調査したところ,血友病Aインヒビター保有患者の満足度が血友病Bインヒビターの満足度を大きく上回っていた.また同調査における血友病Aインヒビター保有症例の内93.8%はemicizumabを使用していたとされ,上記からは特に血友病Aインヒビター保有患者が実臨床においてemicizumabの恩恵を大きく受けていることが伺える.

また,令和2年度(2020年度)の血液凝固異常症全国調査2によると,本邦における血友病A患者は5,533人と報告されている.その中で,emicizumabの使用患者はインヒビター非保有例で383例,インヒビター保有例で73例の合計456例と報告されており,この調査時点で血友病A患者のemicizumab使用率は8.2%にも上ると推定され,血友病A治療の様相は急激に変化してきている.

このように,実臨床でemicizumabが広く用いられるようになった状況を鑑み,ここでは,2021年7月時点におけるemicizumabの使用状況に関して,既報告の文献情報および東京医大病院の診療状況を踏まえて述べて行きたい.

2.エミシズマブの出血抑制効果

1)血友病Aインヒビター保有症例

第3相試験では,インヒビター保有の血友病A患者の中で12歳以上の症例を対象としたHAVEN 1(n=109)3及び2歳~12歳未満の症例を対象としたHAVEN 2(n=88)4が行われた.HAVEN 1では治療を要した年間出血回数(annualized bleeding rate: ABR)の中央値は2.9であり,出血0は63%の症例で達成された.更に,健康関連QoLへの影響を質問紙法で評価したところ,emicizumabの定期投与による有意なQoLの改善が確認されており5,出血を抑制する効果だけでなく,患者の実質的な日常生活の好転が見込まれる可能性が示されている.

また,HAVEN 2では治療を要したABRの中央値は0.2であり,これは治験前のバイパス止血製剤投与時と比較して99%の減少を示した.そして,出血0は64.9%の症例で達成された.更に,対象症例及びそのケアギバーの健康関連QoLを評価したところ,その両者において健康関連QoLが改善したことが示されており6,emicizumabは患者家族を含めた生活の向上に寄与する可能性が示唆されている.

2)血友病Aインヒビター非保有症例

第3相試験ではインヒビター非保有の血友病A患者の中で12歳以上の症例を対象としたHAVEN 3(n=152)7と,12歳未満の症例を対象としたHOHOEMI(n=13)8が行われた.HAVEN 3では週1回もしくは2週に1回のemicizumab投与が選択され,治療を要したABRの中央値はそれぞれ1.5と1.3であった.また,対象症例に質問紙法を用いた満足度調査が行われ,emicizumab導入後から21週のフォローアップ期間を経て満足度の上昇傾向が確認されおり9,患者の視点からも臨床効果が実感されていることが示されている.

また,HOHOEMIでは,2週もしくは4週に1回のemicizumab投与が選択され,治療を要したABRの中央値はそれぞれ1.4と0.0であった.更に,Bargらにより0~18歳のインヒビター非保有症例22例に対してemicizumabが導入され,中央値で27週間の経過観察をしたところ,治療を要したABRの中央値が1であったことが示され10,HOHOEMIの結果に矛盾しないリアルワールドデータが報告されている.

3.Emicizumabの使用方法に関する提言について

1)血友病Aインヒビター保有症例

血友病患者に対する止血治療ガイドライン:2019年補遺版 ヘムライブラ®(エミシズマブ)使用について(以下血栓止血学会エミシズマブガイドライン)11を参照すると,出血時の第一選択薬は遺伝子組み換え型活性化第VII因子製剤(rFVIIa)であり,一回投与量は90 μg/kgとされている.海外のガイドラインを参照すると,2020年にGerman, Austrian, Swiss Society for Thrombosis and Haemostasis Reserch(GTH)の発出したガイドライン(以下GTHガイドライン)12及び2018年にThe United Kingdom Haemophilia Centre Doctors’ Organisationにより発出されたガイドライン(以下UKHCDOガイドライン)13でもemicizumabを導入した血友病Aインヒビター保有症例ではrFVIIaが第一選択とされており,いずれのガイドラインもほぼ見解は一致している.

尚,複数回のrFVIIa投与での止血困難例に対して,血栓止血学会エミシズマブガイドラインでは活性型プロトロンビン複合体製剤(aPCC)を用いる場合には,1回投与量を50 IU/kgかつ24時間以内の総投与量が100 IU/kgを超えずに使用すること,及び血漿由来第X因子加活性化第VII因子製剤(FVIIa/FX)を用いる場合には1回投与量をFVIIa換算で60 μg/kgとすることが推奨されている.FVIIa/FXに関しては本邦のみで入手可能な製剤であり,GTHガイドラインやUKHCDOガイドラインに記載はないが,aPCCに関してはいずれのガイドラインにも記載があり,GTHガイドラインではaPCC 15~25 IU/kgからUKHCDOガイドラインではaPCC 25 IU/kgからの少量投与の有効性に関しても明記され,使用の際には血栓症の発症に十分注意しながら過剰投与を回避することが促されている.

2)血友病Aインヒビター非保有症例

血栓止血学会エミシズマブガイドラインには,emicizumabと第VIII因子(FVIII)製剤の併用は相加効果があると記されており,出血時の補充は,日本血栓止血学会より発出されている『インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン:2013改訂』14の出血時補充療法に準じた施行が勧められている.また,GTHガイドラインにも同様に出血時には通常のFVIII製剤の使用が推奨されている.

FVIII製剤の補充量に関する一例として,インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン:2013改訂版では大手術の際のFVIII活性ピーク目標を100%以上とすることを定めている.この数値目標は2020年に世界血友病連盟(WFH)から発出されているWFH Guidelines for the Management of Hemophilia, 3rd edition15でもほぼ同じ推奨である.しかしながら,イタリアのAICE(Italian Association of Haemophilia Centres)というグループから発出されている,emicizumab投与下での血友病Aインヒビター非保有症例に対する周術期止血管理に関する推奨16では,大手術における初期のFVIII製剤投与量は50~100 IU/kgとされているが,一般的なFVIIIの生体内回収率は約2[(IU/dL)/(IU/kg)]程度と考えられる17ため,この推奨に則ると,emicizumabの投与に追加するFVIII製剤投与量はFVIII活性上昇が100~200%相当となる可能性がある.従って,各ガイドラインにおける推奨はあくまで目安と捉え,生体内回収率は症例によって異なることを鑑み,emicizumab投与導入前に各症例でFVIII製剤を用いた薬物動態試験を行い,個人の生体内回収率を把握しておくことが安全であろう.特に半減期延長型製剤はその活性測定に大きな試薬間格差が存在すること18も知られており,より適切な事前評価が求められる.

4.東京医大病院におけるemizcizumab使用患者のリアルワールドデータ

1)Emicizumab使用患者のプロファイル

2021年6月までの時点で,東京医大病院では47例の血友病A症例にemicizumabの導入を経験している.この47例のうち,emicizumab導入後に2021年6月時点で3ヵ月以上の経過観察期間が得られていない導入直後の症例が3例存在し,その他emicizumab導入直後に転院となった1例,導入後に悪性腫瘍悪化のため死亡の転機を辿った1例も存在するため,それらを除いた42例をここでは解析の対象とする.

重症度の内訳は,重症が34例,中等症が7例,軽症が1例であり,インヒビター陽性は4例(重症で2例,中等症で1例,軽症で1例)であった.年齢,体重,身長,Body mass index(BMI)をいずれも平均値で示す(表1).年齢は39.7±12.4歳,体重は67.7±14.9 kg,身長は168.4±6.2 cm,BMIは23.9±5.0 kg/m2であった.また,human immunodeficiency virus(HIV)陽性で抗HIV療法を行っている症例は5例でいずれもウイルスコントロール良好,hepatitis C virus(HCV)陽性例は20例であるが,血中のHCV-RNAは全ての症例において陰性化しており,非代償性肝硬変の症例は1例も含まれなかった.

表1 東京医大病院におけるemicizumab導入例(n=42)のプロファイル
インヒビター保有(n=4) インヒビター非保有(n=38) 総計(n=42)
Emicizumab前にFVIII定期投与(–)(n=11) Emicizumab前に定期投与(+)(n=27) P値【定期投与(–)vs(+)】
年齢(歳):平均値(SD) 48.0±8.2 43.0±10.5 36.5±12.3 0.13 39.7±12.4
体重(kg):平均値(SD) 68.1±13.7 71±13.6 66.2±15.8 0.382 67.7±14.9
身長(cm):平均値(SD) 161.8±6.4 168.5±5.7 169.3±5.9 0.676 168.4±6.2
Body mass index(BMI):平均値(SD) 26.0±4.6 25.0±4.0 23.1±5.3 0.32 23.9±5.0
重症(割合) 2(50%) 8(72.7%) 24(88.9%) 0.221 34(80.9%)
中等症(割合) 1(25%) 3(27.3%) 3(11.1%) 0.221 7(16.7%)
軽症(割合) 1(25%) 0 0 1(2.4%)
Emicizumab 週1回(割合) 3(75%) 3(27.3%) 10(37.0%) 0.429 16(38.1%)
Emicizumab 2週に1回(割合) 1(25%) 8(72.7%) 16(59.2%) 0.346 25(59.5%)
Emicizumab 4週に1回(割合) 0 0 1(3.7%) 0.711 1(2.4%)
HIV陽性の症例数(割合) 0 2(18.9%) 3(11.1%) 0.455 5(11.9%)
HCV罹患歴ありの症例数(割合) 2(50%) 7(63.6%) 11(40.7%) 0.178 20(47.6%)
HCV-IFNでSVRの症例数 2 3 9 0.516 14
HCV-DAAでSVRの症例数 0 2 1 0.196 3
HCV-自然治癒の症例数 0 2 1 0.196 3

HIV: Human immunodeficiency virus, HCV: Hepatitis C virus, IFN: Interferon, DAA: Direct acting antivirals, SVR: Sustained virological response

また,この解析集団において,emicizumab導入時の両足関節,両膝関節,両肘関節の合計6関節の関節X線検査をArnold分類で評価し,Stage IV以上の関節症を有するものを集計した(図1A).関節症が0の症例は42例中5例に止まり,2関節以上に関節症を有する症例が23例,4関節以上に関節症を有する症例が11例存在した.更に,関節症の部位に関しては,全42症例中,足関節に関節症を有するものが31例(73.8%),膝関節に関節症を有するものが14例(33.3%),肘関節に関節症を有するものが18例(42.9%)でみられた.

図1A

東京医大病院のemicizumab導入症例におけるArnold分類Stage IV以上の関節症(n=42)

6ヵ所の大関節(両足関節,両膝関節,両肘関節)の関節X検査のArnold分類を行い,Stage IV以上の関節症を有する症例を集計した.

2)血友病Aインヒビター保有症例のABR

解析対象の42例のうち,インヒビター保有症例が4例含まれており,emicizumab導入時の年齢は平均で48.0±8.2歳,導入直前のインヒビター力価の平均は20.1±19.8 BU/mLであり,4例ともにハイレスポンダーの症例であった.HIV感染症は4例ともに陰性であった(表1).両足関節,両膝関節,両肘関節のArnold分類stage IV以上の関節症は,重症血友病Aの2例ではそれぞれ6ヵ所及び4ヵ所,中等症血友病Aの1例で1ヵ所,軽症血友病Aの1例で2ヵ所であった.導入前にはいずれの症例もバイパス止血製剤の出血時投与もしくは予備的投与を行っており,治療を要するABRは中央値で18(IQR: 17~21.5)であった.導入後のemicizumabの投与頻度は,週1回が3例,2週に1回が1例であった.また,導入後の治療を要するABRは中央値で1(IQR: 0.5~9.5)であった(図1B).1例,40代の男性でemicizumabを週1回投与している方が痔出血に対して頻回にrFVIIa製剤の投与を要している症例が存在したが,同症例において関節内出血は年間1回に止まっていた.尚,全4例の出血はいずれもrFVIIa約90 μg/kgの投与で止血されており,痔出血で最大2回の投与を要した他は単回投与での止血が得られていた.

図1B

Emicizumab導入前後における治療を要した年間出血回数(インヒビター保有症例:n=4,インヒビター非保有症例:n=38)

Emicizumab導入前後における年間出血回数(annual bleeding rate: ABR)を,インヒビター保有の有無別に評価した.尚,血友病Aインヒビター保有症例に関しては,Emicizumab導入前にFVIIIの定期投与を行っていた群(n=11)と行っていなかった群(n=27)に分けて解析した.

3)血友病Aインヒビター非保有症例のABR

解析対象の42例のうち,38例がインヒビター非保有症例であり,重症度の内訳は重症が32例,中等症が6例であった.導入時の年齢は10代から60代まで幅があるが,年齢は平均で38.4±12.1歳であり,5例のHIV感染症が含まれていた(表1).両足関節,両膝関節,両肘関節のArnold分類stage IV以上の関節症が0であった症例が38例中5例含まれていた一方で,4ヵ所以上に関節症を認める症例が9例含まれていた.

またこの38例を,emicizumabを導入する前にFVIII製剤の定期補充療法をしていなかった群としていた群の2群に分け,導入前後の治療を要したABRに関して評価した.定期補充療法をしていなかった群は11例,していた群は27例がそれぞれ該当した.表1に示すように,年齢,身長,体重,BMI,足関節・膝関節・肘関節に有する関節症数に関して両群で統計学的有意差はみられなかった.定期補充療法をしていなかった群における,emicizumab導入前の,治療を要したABRは中央値で10(IQR: 3~13)であったが,導入後には1(IQR: 0~4)となり明らかな低下がみられた.また,定期補充療法をしていた群はemicizumab導入前後でABRが両者ともに1(IQR: 0~4)となり,不変であった(図1B).

4)Emicizumabの中止症例について

3)の解析に含んでいるが,38例のインヒビター非保有症例のうち,4例がemicizumabを6ヵ月以上使用した上で中止している.いずれの症例もemicizumab投与開始後にAPTTの短縮を速やかに認めており,経過中に抗emicizumab抗体の出現を疑うようなAPTTの再延長19もみられなかった.Emicizumabの中止理由は,FVIII因子製剤の定期投与時よりも出血頻度が増えた症例(症例A)が1例,足関節の疼痛がありemicizumabに切り替え後もFVIII製剤の定期補充にほぼ準じた投与を自ら併用した症例(症例B)が1例あり,その他はCOVID-19の流行により在宅勤務となり出血機会が減ったため本人の強い希望でFVIII製剤のオンデマンド投与に戻した症例が1例と治験薬導入のために治療薬を切り替えた1例であった.

症例Aは50代のインヒビター歴のない重症血友病Aの男性であり,右肘関節,右足関節に血友病性関節症を有していた.Emicizumab導入前は半減期標準型のFVIII製剤を36 IU/kgで週2回の定期投与としていたが,ABRは14程度で経過しており,emicizumabに変更したところABRが21程度に増加したため導入から11ヵ月でFVIII製剤の投与に戻した.仕事が忙しく,経過中にご本人の関節エコー検査やMRI検査の希望がなく関節の詳細評価ができなかったが,出血のほとんどが右足関節に集中して生じており,emicizumab切り替え前に適切な画像評価などで滑膜炎の有無や関節の状態を評価しておくことが望ましかったと思われた.

症例Bは60代のインヒビター歴のない中等症血友病Aの男性であり,両肘関節,左膝関節,右足関節に血友病性関節症を有し,常に右足関節の疼痛を自覚していた.Emicizumab導入前は半減期標準型製剤を35 IU/kgで週3回の定期投与としており,平素は農作業なども行っているもののABRは0で経過していた.Emicizumab導入後にも右足関節痛に対する不安があり,予備的補充を含めてFVIII製剤の週3回投与が続いたため,ABRは0で経過したものの,導入後6ヵ月でご本人と相談の上emicizumabは中止とした.自宅が遠方であるため,頻回の来院は難しく,経過中に関節の精査は希望されなかった.

5)インヒビター非保有症例の出血時対応

治療を要した出血に関して,出血部位及び止血時の対応の詳細について情報取得が可能であった14症例を抽出し,表2に示す.14症例で延べ79イベントの出血がみられたが,出血の内訳は主に70イベントの関節内出血と9イベントの外傷性出血に大別され,多くは関節内出血として治療されていた.止血に用いられたFVIII製剤は全例でemicizumab導入前に用いられていた製剤を使用しており,半減期標準型製剤が8例で,半減期延長型製剤が6例で使用されていた.生体内回収率は半減期延長型製剤使用例の全例でemicizumab導入前に確認されていた.ABRの最大値は21であり,その症例は4-4)で示した症例Aに相当し後にemicizumabが中止された(尚,症例Bは出血としては認識されていないFVIII製剤投与が全てであり,製剤投与数を出血回数としてカウントしなかった.).それ以外の表2に示した症例は2021年9月現在もemicizumabを継続している.

表2 東京医大病院においてemicizumabを導入したインヒビター非保有血友病A症例の出血時止血管理の実際(n=14)
年齢 関節内出血 その他の出血 血液製剤 生体内回収率[(IU/dL)/(IU/kg)] 投与製剤単位(IU/kg) 年間出血回数(止血時投与回数:対応回数) Emicizumab投与
20代 右足関節出血
右膝関節出血
(–) EHL 1.79 22.7 ABR 2
(単回:2)
継続
20代 左足関節出血 (–) SHL N.D. 39.2 ABR 1
(単回:1)
継続
20代 (–) 顔面打撲(外傷) EHL 3.19 28.6 ABR 1
(2回:1)
継続
20代 右足関節出血 (–) EHL 1.83 40 ABR 1
(単回:1)
継続
30代 左膝関節出血 (–) EHL 1.94 33.3 ABR 1
(3回:1)
継続
30代 右足関節出血
右膝関節出血
(–) SHL N.D. 37 ABR 21
(単回:21)
後に中止
30代 右足関節出血
左足関節出血
右足出血(外傷) SHL N.D. 16.1 ABR 4
(単回:4)
継続
30代 右膝関節内出血 左上腕筋肉内(外傷)
頭部(外傷)
右顎関節(外傷)
EHL 2.84 25.4 ABR 4
(単回:4)
継続
30代 両足関節 (–) SHL 4.2 20.4 ABR 3
(単回:3)
継続
30代 (–) 手指切創(外傷) SHL N.D. 14.7 ABR 1
(単回:1)
継続
40代 右股関節出血
(人工関節置換術後)
(–) SHL N.D. 45.5 ABR 12
(単回:10,2回:1,3回:1)
継続
40代 左肘関節出血
左足関節出血
(–) SHL N.D. 15.4 ABR 9
(単回:7,2回:2)
継続
40代 左膝関節出血 (–) SHL N.D. 43.5 ABR 10
(単回:9,2回:1)
継続
60代 左膝関節出血6回
歯肉出血2回
右足深爪(外傷) EHL 2.13 25.3 ABR 9
(単回:8,2回:1)
継続

診療記録から,出血の部位,及び止血管理の詳細が後方視的に十分確認できた14症例を対象として集計を行った.出血に関しては,関節内出血及びその他の出血に分類して集計した.いずれの症例も症例毎に出血時に同種類のFVIII製剤が用いられ,投与量も一定していた.また,年間出血回数を症例毎に集計し,更に出血時のFVIII製剤投与回数が単回,2回,3回であった出血イベント数を集計し,記載した.

EHL:半減期延長型製剤,SHL:半減期標準型製剤

また,延べ79回の出血イベントのうち,FVIII製剤の単回投与で止血できたのが71イベント(89.9%),2回投与で止血できたのが6イベント(7.6%),3回投与で止血できたのが2イベント(2.2%)であり,出血イベントの9割程度はFVIII製剤の単回投与で,95%程度は2回投与で止血されていた.

6)東京医大における自験例についての総括

本報告で解析したemicizumab導入の42例のうち,両足・両膝・両肘の関節X線検査で明らかな血友病性関節症を有していない症例は5例のみであり,全体の7割を超える31例で足関節の関節症を有していた.概ねemicizumab導入後もインヒビター保有症例では従来のバイパス止血療法よりも良好なアウトカムが得られ,インヒビター非保有症例でもFVIII製剤の定期補充療法に匹敵する出血抑制効果が得られており,ある程度複数個所の血友病性関節症を有する状況でもemicizumabは治療選択肢となり得ることが示唆された.また,インヒビター非保有症例において,これまでFVIII製剤の定期補充療法を行っていなかった群では有意なABRの低下がみられた.

更に,emicizumabを導入するとインヒビター保有症例では出血時には90 μg/kgを超えないrFVIIaの投与が推奨されているが,これまでの東京医大の経験では,早期の関節出血や痔出血は単回のrFVIIa投与でほぼ十分に止血されていた.また,インヒビター非保有症例においても9割程度の出血がFVIII製剤の単回投与で止血できており,95%程度の出血は2回投与で止血できていることが示唆され,リアルワールドにおけるemicizumabの出血抑制効果は大きく,出血時にも血栓止血学会エミシズマブガイドラインに則った治療が有効であると考えられた.

しかし,一方でemicizumabの実力価はFVIII換算で15~20%程度と考えられている20ため,出血の止血目的にはやや不十分であることも考慮する必要がある.実際に本報告でも,4-4)の症例Aのように関節の出血回数が多く,滑膜炎の存在も否定できないような状況ではemicizumab導入後に出血を繰り返す場合もあり得るため,導入前には十分な関節評価が望ましいと思われた.また,症例Bのように疼痛に対してFVIIIを過剰に併用してしまう症例も経験され,画像検査による客観的評価及び血友病性関節症に対する疼痛へのアプローチに関しても適切に行っていく必要があると考えられた.

5.まとめ

上述のように,インヒビター保有の血友病A症例はemicizumabの導入で明らかな出血抑制効果があることが示されている.また,インヒビター非保有の血友病A症例に関して,令和2年度の凝固異常症全国調査2によると,重症血友病Aの約9割が何らかの定期補充療法を受けている時代になってきているが,裏を返せば残り1割の定期補充療法を行っていない症例では未だに治療が不十分な可能性がある.このような定期補充療法の未導入例において,従来のFVIII製剤による定期補充療法に並んで,emicizumabも治療選択肢として十分に提示しうると考えられる.しかしながら,emcizumab導入前に頻回の関節内出血を来したまま導入したところ十分な止血効果が得られなかった症例も存在するため,導入前に関節を含めた十分な評価を行うことが望ましい.

また,治療の進歩により血友病の生命予後は飛躍的に上昇しており21,血友病治療は様々なライフイベントと並行して行う必要が出てきている.例えば,近年は筋力や持久力の上昇,QoLを上昇される観点からある程度の運動負荷は推奨されてきている22が,今後はemicizumab使用患者の運動負荷許容度を検証していく必要性があろう.更に,高齢化が進み,様々な合併症を生じる中で,血友病でありながらも併存疾患によっては抗血小板療法や抗凝固療法を導入する必要のあるシチュエーションでemicizumabを使用した報告もみられてきている2325ことなども,新たなdiscussionポイントである.

Emicizumabは利便性の高い選択肢であるが,ただ出血が少なくなって安心するだけでなく,症例毎に適切な治療効果評価を行い,一つ一つのリアルワールドデータを大切にしながら,有用かつ安全にその使用経験を重ねていくことが今後も望まれる.

著者の利益相反(COI)の開示:

天野景裕:講演料・原稿料(中外製薬,ノボノルディスクファーマ,武田薬品工業),臨床研究費(ノボノルディスクファーマ,サノフィ,KMバイオロジクス,中外製薬),寄付講座(CSLベーリング)

その他の著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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