Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Thrombosis after disaster in Japan
Progress report on the preventive medical examinations for economy class syndrome in Nagano medical region after the East Japan Typhoon Disaster in 2019 and recommendations for future disaster preparedness
Ken-ichi HOSHINobukazu TAKIZAWAMichiharu YAMADAToshio KURASHIMAShinichirou UCHIKAWATakashi MIURAMasaaki JITSUHARAYoshikiyo KOBAYASHI
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2022 Volume 33 Issue 6 Pages 667-674

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Abstract

令和元年東日本台風災害での長野医療圏エコノミークラス症候群予防検診が,長野県長野保健所及び長野市保健所の指揮の下,(一社)長野県臨床検査技師会,医療機関など関係団体が協働して行われた.災害対応での新たな取り組みを構築する際に,人と人との直接の対面による情報・意見交換・連携を図る場面が活かされたことが検診体制の整備につながった.一巡目は専門家からの指導のもと,日赤救護班,県検査技師会技師で探索的に行われた.さらに検査機器の中央管理とマニュアル等の整備がされ,二巡目は地域の病院単位の診療チームで広範に行われた.今後の災害時に備えて,一次予防としての早期からの疾病啓発と発生要因となる避難所環境の整備体制,二次予防としての検診の法的根拠の明確化,保健所と検査技師会による手順の整備,地元医療機関,さらに検査機器メーカーとの共同体制などの体制整備が望まれる.

はじめに

「ひとつまったく改善していない問題は,災害関連死の問題だと思います.どうしても支援が及んでいない,まだまだ不充分.どうやって支援をして災害関連死を無くしてゆくかは令和の災害医療の大きなテーマ.医師とか看護師だけでは無理で,多組織・多職種連携など支援を行うひとの連携をいかにつくってゆくか.それには急性期がおこってから手をつけるのではまったく遅いわけで,平時から支援のネットワークをどうつくっておくか,が大きなテーマである.」1

令和元年(2019年)10月13日に発生した東日本台風災害において,災害関連死に関係するエコノミークラス症候群と通称されている深部静脈血栓(deep vein thrombosis: DVT)の予防と早期発見のためのDVT予防検診が,準備ゼロの状態から保健所が中心となって関係団体が協働して行われた.その経過は,上記発言での支援を行うひとが連携した事例に相当すると考えられ,関係者と振り返り,問題点を検討し,提言する.

1.台風19号の概要

令和元年東日本台風は,令和元年(2019年)10月12日本州に上陸し,関東甲信東北地方などに記録的大雨,甚大被害をもたらした.政府は,激甚災害,特定非常災害,大規模災害復興法の非常災害の適用を行った.災害救助法適用自治体は過去最大の14都県390市区町村となった(2019年11月1日時点).土砂災害が20都県952か所(長野県43か所),堤防決壊が71河川142か所で発生した.長野県内では千曲川など計6か所,中でも10月13日午前5時頃に千曲川穂保の堤防決壊による浸水や,越水,内水氾濫等が発生し,長野市内では1.541 haが浸水,浸水深最大約4.3 m(推定値),死者2人,重軽傷者94人,全壊872棟を含む住家被害が4,074棟(令和2年2月29日時点).長野市開設の避難所(31箇所)と自主避難所(23箇所)の計54か所の避難所に6,191人が避難,12月20日閉鎖まで,被災地域の人々(以下「被災者」と記載)は,避難所等での生活を送ることとなった2, 3図1).

図1

避難所への避難者数及びDVT検診経過

2.経過

1)初動

10月14日(day2) 長野市保健所は厚生労働省5部局長等通知4を踏まえ,支援に全国から参集した保健医療福祉団体等の支援チームで構成する調整会議を長野県長野保健所と共同して設置,DMATなどの医療チームとの連携体制を構築した.

10月17日(day5) 被災者の医療と健康管理ための活動を行う団体等の連携,調整を図るため,長野県長野保健所と長野市保健所が共同で「長野地域災害保健医療調整会議(Health Association for Nagano Area: HANA)を設置し,連携と支援を行った.会議は朝・夕行われ,朝のミーティングでは1日の活動を確認し,夕刻は課題と今後の対応を協議するとともに,事例に関係する個別の検討を行った.DVT検診についても会議で提案され,実施方法等について検討した.なお,この会議により活動にあたった団体等は,外部から32団体延べ3,941人日,市保健所から10分野延べ751人日であった5.また避難者の健康状態の悪化を防ぐため,保健師等による避難所巡回や,避難所以外の避難者への訪問が行われた.

東日本大震災発生直後に考案された段ボールベッドは,体育館などの床に直接寝る従来の雑魚寝スタイルから一段高い寝床を設けることで,災害関連死につながるDVTや廃用症候群などの二次健康被害の予防,避難生活の質の向上を目的として様々な災害の避難所に導入されてきた6.今回の災害では経済産業省のプッシュ型支援として,段ボールベッドが避難所に配布された.しかし野積みされるなど活用されていない状況に対して,避難所・避難生活学会榛沢和彦理事(新潟大学大学院特任教授)は長野県健康福祉部部長,衛生技監兼保健・疾病対策課長等に面会し,段ボールベッドの有効性を説明した.小林良清長野市保健所長にも説明したが,長野市では避難所整備が危機管理防災課のため保健所長から同課に働きかけることとなった.

10月18日(day6) 長野県臨床検査技師会(以下「技師会」と記載)から長野県庁災害対策本部へ避難所等へのDVT検査への協力準備があることを電話連絡,同日同本部から同技師会へ必要に応じて連絡すると返答あり.

10月19日(day7) HANAにてDVT発症懸念に対して長野中央病院から自院職員で構成する検診チームを1週間派遣することが提案された.臨床検査技師派遣について筆者と長野赤十字病院臨床検査倉嶋俊雄,山田美智治技師が検討した.継続的かつ迅速に活動するには技師会の協力が不可欠と見込まれ,實原正明技師会会長(飯田市立)に電話で「現在,避難所DVT検診が検討中で,明日HANA朝の会議へ技師会としての出席が必要」と依頼し,技師会会長として出席することとなった.同時に県庁職員からもDVT検診の依頼があった.また避難所における段ボ一ルベッドの活用を進めるため,再度来市していた榛沢理事からDVT検診実施の助言が長野市保健所長に行われた.

2)第一期検診(混成チーム)

10月20日(day8) HANA朝の会議にてDVT検診が課題にあがり,実務に携わる検査技師が必要との発言に対して,技師会も本日出席していることが伝えられ,その場でDVT検診が承認された.市外からの支援者である技師会及び日赤救護班等の協力のもと同日からDVT検診が開始された.技師会では同理事の施設に協力要請し同施設から検査技師を派遣する方針となった.

10月20日から23日(day8~11) 1巡目のDVT検診が長野市9か所,須坂市2か所の避難所で行われた.想定対象者50~60人程度(避難者の約1割),1人当たり5~10分の検診時間,巡回リーダー榛沢理事,看護師2名,検査技師1名,ロジ2名計5名で行い,検診受診対象者を ①避難所支援チームが要注意者として選定した被災者 ②検診実施事前にアナウンスで集まった被災者 ③避難所で検診チームが訪問時に在席していた避難者を個別に訪問にして診察した被災者とした.エコー検査機器は支援チームが用意,弾性ストッキングは発災後寄付を受けたものを使う方針となった.

10月21日(day9) 内川慎一郎医師(安曇野赤十字病院循環器内科)を班長とする日赤救護班に加え,伊那中央,飯田市立,長野中央から検査技師が参加して検診が施行された.院外で使用できるポータブルエコー機がなく,メーカーからの貸与となり,長野赤十字病院内に機器管理センターを設置し貸出調整・メンテナンスなどを行うこととなった.

10月22日(day10) HANA朝の会議で日赤救護班内川医師から「DVT検診で受診指導した被災者の診療受入れについて,長野赤十字病院,長野市民病院,長野中央病院,篠ノ井総合病院,松代総合病院の担当医から内諾が得られた.また1巡目の検診の結果,避難所において活動不足が続くこと等から引き続きDVTのスクリーニング及び指導を要する被災者が多数存在する可能性がある」と報告された.

3)第二期検診(地域病院循環器内科チーム)

10月23日(day11) 1巡目の検診結果を受け,避難生活が長期化する見通しの中,DVT検診を引き続き実施する必要があると長野市保健所長は判断,2巡目を市内医療機関の協力を得て実施する方針がHANAの会議で決定された.長野市保健所長から長野市民病院院長に相談,同院循環器内科三浦崇医師が紹介された.

10月25日(day13) 三浦崇医師は市内医療機関の医師に状況を確認し,市内5病院が病院単位チームを編成してDVT検診を実施する方針となり,その準備を進めることとなった.人員及びエコー機器は各医療機関で用意する,D-dimer検査機器は業者から貸与を受け,検査キットは保健所が購入することとなった.診療を統一するマニュアルが不可欠なため,技師会長経由で日本臨床衛生検査技師会に日臨技DVT検診マニュアル7の使用申請し,許可をえたため本災害用のDVT検診検査マニュアル(HANA DVT検診マニュアル)を作成した.長野市保健所長から市内5病院(長野赤十字病院,長野市民病院,長野中央病院,南長野医療センター篠ノ井総合病院,長野松代総合病院)の院長に協力を要請し,循環器内科等の医師を中心とする病院単位のチームで検診を行うこととなった.

10月29日(day17) DVT検診の物品準備やマニュアルの整備,熊本地震のKEEP受援マニュアル8を参考に検診実施場所の選定等の検討を重ね,大腿部まで診察することを想定しプライバシー保護のため避難所で既に使用中のファミリールームを利用する方法,または個室を使用することを検討した.保健師等によるこれまでの避難所支援活動における被災者情報をもとに,1避難所あたりおよそ何人が受検するかを想定し,実施スタッフとして医師1名(診察,事後措置の判断),看護師1名(問診,採血,バイタル測定等),検査技師1名(エコー検査,D-dimer測定),理学療法士1名(弾性ストッキングの装着,DVT予防の指導),事務職員1名(検診の受付等)と役割分担を設定した.長野市保健所の理学療法士または保健師も同行することが検討された.

10月30日(day18) 長野市保健所長は市内5医療機関の院長へ正式な協力依頼を行い,31日までに了承を得た.11月1日にかけて長野市医師会,更級医師会,上水内医師会にも連絡した.

11月3日から9日(day22~28)(うち5日間) 2巡目のDVT検診が長野市10か所,須坂市1か所の避難所で実施された.検診が行われた日中は,被災住宅の片付け等で避難所を離れる人も多く,当初の想定人数より少なかった.血栓が確認された方には紹介状を発行,医療機関受診調整をその場で行った.

11月9日(day28) 以降はこれまで血栓が確認された人の割合を鑑み,息切れ等の症状がある場合の早期受診を勧奨することとしDVT検診は終了とした.

3.結果(表1,2)
表1 避難所におけるDVT検診実施結果一覧
避難所名 実施日 受付時間 避難人数 受診者 エコー 血栓あり Dダイマー 弾性ストッキング
第一次
 豊野西小学校・豊野児童センター 10月20日・21日 280 26 9.2 20 7.1 4 1.4
 昭和の森公園 10月21日 44 4 9.1 3 6.8
 篠ノ井総合センター 10月20日 16 1 6.2 1 6.2
 東条小学校 10月21日 11 1 9.1 1 9.1
 南長野運動公園 10月22日 40 4 10 3 7.5
 長野運動公園 10月22日 94 1 1.1 1 1.1 1 1
 北部スポーツレクリエーションパーク 10月22日 181 9 4.9 3 1.6
 須坂市ふれあいプラザ 10月22日 12 5 41.6 1 8.3
合計 678 51 6.6 33 4.8 5 0.7
第二次
 昭和の森公園フィットネスセンター 11月3日 16時~18時 53 6 11.32 6 11.32 0 0 3
 豊野西小学校 11月5日 17時~19時 221 15 6.79 13 5.88 1 0.45 2 7
 南長野運動公園 11月5日 16時~17時30分 33 8 24.24 3 9.09 0 0 0
 古里小学校 11月6日 17時15分~18時 26 7 26.92 7 26.92 0 0 6
 豊野東小学校 11月6日 16時~16時45分 31 3 9.68 3 9.68 0 0 3
 豊野児童センター 11月7日 16時45分~18時 45 7 15.56 7 15.56 0 0 0
 豊野北公民館 11月7日 16時~16時30分 15 4 100 4 100 0 0 0
 豊野区事務所
 長野運動公園 11月7日 17時~17時50分 102 4 3.92 2 1.96 0 0 2
 北部保健センター(福祉避難所) 11月7日 16時~16時15分 5 4 80 2 40 0 0 2
 北部スポーツレクリエーションパーク 11月9日 16時~18時 211 8 3.79 8 3.79 1 0.47 1 3
 (須坂市)北部体育館 11月5日 16時~18時 10 10 0 0 7
合計 742 76 10.4 65 9 2 0.27 3 33
表2 DVT症例一覧
DVT症例 診断日 避難所日数 避難所名 年齢 性別 車中泊 基礎疾患 紹介先
1 10月20日 9 豊野西 90 なし 心筋梗塞 長野赤十字
2 10月20日 9 豊野西 84 なし 高血圧 脂質 長野赤十字
3 10月20日 8 豊野西 74 なし 高血圧 長野市民
4 10月20日 9 豊野児童センター 85 なし
5 10月22日 10 長野運動公園 73 1日 前立腺がん 長野市民
6 11月5日 20 豊野西 67 なし 怪我 長野市民
7 11月9日 24 北部レクリエーション 85 なし 心筋梗塞 長野中央
平均 79.7

1巡目の検診(長野市外の避難所含む):受診者51人中5人に血栓(全避難者中約0.7%)を認め,受診指導等が行われた.2巡目:受診者76人中2人に血栓(全避難者中約0.27%)を認め,想定していた発見率を大きく下回った.両検診で発見されたDVT症例7名は基礎疾患も持つ高齢の被災者(平均年齢79.7歳),車中泊の方はほぼいなかった.

その後,長野市において,洪水が心疾患および脳血管疾患の発生に及ぼす影響を調べるために信州水害心血管イベント評価試験(The Shinshu Assessment of Flood Disaster Cardiovascular Events: SAVE)がおこなわれた.2017年,2018年,2019年の3年間,10月1日から12月31日までに長野市内の救急科を有する全5病院で心疾患または脳血管疾患で入院した患者2,426人を登録し,水害による心疾患および脳血管疾患の発生が評価された.疾患の発生状況が2週間ごとに集計され,2019年(洪水の年)のデータと2017年,2018年のデータを比較した.水害直後の2週間に心血管疾患および脳血管疾患が有意に増加(2019年149件vs過去2年平均116.5件,p<0.05),不安定狭心症は水害後1.5~2カ月,脳出血は水害後2週間に有意に増加していた9

4.考察・課題

1)災害時の避難所の環境整備とDVT

災害時のDVT発生に避難所環境が関係することは82年前から報告されている.第二次世界大戦中の1944年9月に開始されたロンドン空襲で地下鉄駅構内が避難所となり雑魚寝で避難する状態が2カ月続き,肺塞栓症による死亡が前年2例から24例(うち避難所21例)に増加,対策として避難所に寝台が必要であるとされた10.その後20万個の寝台が運び込まれ,翌年1月末には「心地よい消毒薬のようなにおいがしてすべてが清潔で整然としている」状態となった11

東日本大震災では,簡易ベッド導入1ヶ月後に,血圧,歩行機能などが改善し,特に血中D-dimer値が高い避難者ほど改善が見られる傾向を認め,静脈血栓性疾患の基礎疾患を持つ人にはベッドが有効である可能性が示唆された12.また同大震災後の宮城県,岩手県,福島県の避難所と新潟県,群馬県の遠隔地の避難所で行われたDVT検診では,アメリカ疾病予防対策センター(Center for Disease Control and Prevention: CDC)の災害急性期避難所アセスメントツール2011を用いて評価した避難所環境スコアとDVT陽性率は明らかに逆相関していた.さらに2015年東日本豪雨災害における常総市の洪水被災地では,簡易ベッド使用率とDVT陽性率が逆相関していた.これらの知見は内閣府の避難所運営ガイドラインに簡易ベッド使用が明記されることとなった要因になったという.また欧米の避難所で災害後に静脈血栓塞栓症(VTE)が多発したという報告はほとんどなく,簡易ベッド使用の有無が欧米と日本の避難所の大きな違いであると指摘されている13.これらを踏まえ,国の防災基本計画では,「市町村は,指定避難所における生活環境が常に良好なものであるよう努めるものとする.そのため,食事供与の状況,トイレの設置状況等の把握に努め,必要な対策を講じるものとする.また,避難の長期化等必要に応じて,プライバシーの確保状況,段ボールベッド,パーティション等の活用状況,入浴施設設置の有無及び利用頻度,洗濯等の頻度,医師,保健師,看護師,管理栄養士等による巡回の頻度,暑さ・寒さ対策の必要性,食料の確保,配食等の状況,し尿及びごみの処理状況など,避難者の健康状態や指定避難所の衛生状態の把握に努め,必要な措置を講じるよう努めるものとする.」とされている14

今回,DVT発生のリスクとして車中泊はほとんどなく,避難所での生活環境が主であった.DVTの一次予防として発災直後からの啓発活動や指導,二次予防としてDVT検診を同時に展開することが,DVT発症予防に寄与すると考えられた.特に一次予防では,発災直後の避難所環境整備(長野市では危機管理防災課)は不可欠で,平時からのTKB(トイレ・キッチン・ベッド)整備を,いわば建築基準法的に標準化されることが望まれる.

2)指揮命令系統:検診の法的根拠について

当初,DVT検診は保健所巡回診療として実施する方針だったが,長野県保健・疾病対策課から,「その場合には災害救助法の適用を受けられなくなる可能性がある」と助言があり,保健所から医療機関に協力依頼して実施する形に変更,各院長から了承をいただいた.災害救助事務取扱要領の医療分野の趣旨には「災害が発生した場合には,必要に応じ速やかに救護班を編成・派遣し,次により,災害のため医療の途を失った者に対して法による医療を実施すること.(中略)法による医療は,いわゆる応急的な診療であって,予防的ないし防疫上の措置は原則として対象とならないが,避難所生活が相当長期にわたっている場合で,予防的ないし防疫上の措置が必要と認められる場合においては,避難所に限り認められる.」と記載されている15.DVT検診は災害関連死を未然に防ぐ予防的措置が必要と認められる場合に該当すると思われ,災害発生時に国からの明確な指示が望まれる.

3)DVT検診には兵隊(医療チーム)と武器(超音波・Point of Care Testing)と精通者(検査技師)が必須である

チーム:支援活動が被災者により効果的・効率的に届けられるように保健所が保健医療福祉調整会議を開催し,関係するチームと協働して支援活動を展開したことが,DVT検診の実施につながった.災害対応での新たな取り組みを構築する際に人と人との直接の対面による情報・意見交換・連携を図る場面を大切にしたことが16被災者への健康福祉支援に対する思いを一つにすることとなり,HANAで職種の壁を越え,行政,医療関係者,メーカー,卸業者の協力のもと検診を行うことにつながった17

医療機関:内川医師の働きかけでDVT症例の医療機関搬送先が確立し,2巡目には地域の循環器内科の協力体制が提案され,さらに三浦医師により5病院での検診体制が整備されたことがより広範囲な検診につながった.平時からの災害時の共同診療体制の整備が望まれる.

検査技師:HANAから,技師会にDVT検査協力要請があり,それを承諾するとともに会長を中心に(縦のつながり),施設間の連携を取ることができた(横のつながり).現場での検査には検査技師だけでなく院外持ち出し可能なエコー機器が不可欠だが,第二期検診でもそれを有する施設はなかったため,メーカーから機器を貸与いただくことになり,窓口と管理を一元的化するセンターを開設した.また技師会と行政との接触が遅かったため,検診実施決定からの準備期間がなく,複数チームが同じ手順で行うための事前ミーティングができず,人員調整,支援環境も薄氷をわたる状態であった.今後,連絡網整備,検査手技統一,マニュアル作成,研修会開催など体制強化が必要である.

保健所:予防のためにはDVT検診はできるだけ早期に実施する必要があり,平時から関係機関(医療機関,技師会,理学療法士会等)と実施体制の検討を重ね,実施方法や物品の貸与先,購入先等の関係機関の連絡先等を把握明記したマニュアルを整えることが必要である.

情報管理:災害時の情報管理について,避難所に関しては「避難所情報日報・避難所避難者状況日報」に準じたものが使用され,個別支援については各団体が共通して長野市の「被災者健康相談表(継続要救護者)」が使用された.これらは紙ベースで作成・保管されたが,ICTを活用することでより効率的な対応が期待されることから,今後の災害に向けての準備が必要である.なお,救護所の設置や巡回診療がなく「災害診療機録」等はDVT検診で要精査となった場合以外では使用されなかった.

謝辞

検査機器を提供していただいたシーメンスヘルスケア株式会社,株式会社日立製作所ヘルスケア,富士フイルムヘルスケア株式会社,GEヘルスケア・ジャパン株式会社,キヤノンメディカルシステムズ株式会社,株式会社エム・イー,アズサイエンス株式会社,株式会社上條機器店,ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社,および弾性ストッキングを提供いただいたマツダ株式会社,福助株式会社ならびに検診活動に協力いただいた関係者に感謝いたします.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

文献
 
© 2022 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis

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