Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Current and future status of fibrinolysis testing
Structure/characteristics of thrombin activatable fibrinolysis inhibitor (TAFI) and its assay method
Taiichiro SEKITakashi HOSONO
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2023 Volume 34 Issue 3 Pages 310-316

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Abstract

Thrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)は,カルボキシペプチダーゼのチモーゲンとして主に肝臓で合成され,フィブリンのC末端リシン残基を除去することにより線溶を抑制する.TAFIは,トロンビン/トロンボモジュリンによって活性化されTAFIa(活性型酵素),その後TAFIai(不活性型:inactivated form)へと変化するが,遺伝子多型により4種類のアイソフォームが存在し,これらの安定性,血中半減期は異なる.TAFIaには生理的なインヒビターが存在せず,TAFIaiへの変換によりその作用が制御されている.したがってTAFI,TAFIa,TAFIaiを的確に区別して測定する必要がある.本稿では,ELISA,酵素学的な活性測定法,functional fibrinolysis assayによるこれらの分子種の測定法とその原理の概略,測定上の注意点について解説する.

1.測定物質TAFI(proCPU, proCPR, proCPB)について

Thrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)は,凝固系と線溶系両方にリンクした線溶制御因子である.線溶反応は,プラスミンによるフィブリンの部分加水分解によりフィブリン分子上に出現するC末端リシン残基を介してプラスミノーゲンやプラスミン,組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)がフィブリンに結合することにより著しく促進される.TAFIはフィブリンのC末端リシン残基を除去するカルボキシペプチダーゼであり,C末端リシン残基を除去することによりこれらの線溶系酵素のフィブリンへの結合を阻害して線溶反応を抑制する1

TAFI発見の経緯は複雑である1, 2.1989年に血漿カルボキシペプチダーゼNとは異なる不安定なカルボキシペプチダーゼ(unstable carboxypeptidase)が発見され,カルボキシペプチダーゼU(carboxypeptidase U: CPU)と命名された.この発見とは独立して凝固過程や炎症においてアルギニン残基を特異的に切断するカルボキシペプチダーゼが発見され,アルギニンカルボキシペプチダーゼ(arginine carboxypeptidase: CPR)と命名された.その後,1991年には膵臓カルボキシペプチダーゼBと類似したアミノ酸配列を有するプラスミノーゲン結合タンパク質が血漿中に発見され,plasma carboxypeptidase B(proCPB)と命名された.さらに1995年には,トロンビンによって活性化されるカルボキシペプチダーゼのzymogenが発見され,この酵素は線溶阻害活性を示すことからthrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)と命名された.その後,proCPU,proCPR,proCPB,TAFIはすべて同一酵素であることが明らかになった.TAFIはメタロカルボキシペプチダーゼの他のファミリーに属するタンパク質とは異なる特徴的な分子構造を有しており,これらの構造に起因するユニークな機能特性を示す35.本稿では,TAFI(不活性前駆体:zymogen),TAFIa(活性型酵素),TAFIai(不活性型)と表記するが,これらは,それぞれproCPU,CPU,CPUiと同義である.

TAFIは423アミノ酸残基からなるプレプロ酵素として主に肝臓で合成され,22残基のシグナルペプチドが除去された後,56 kDaのプロ酵素として循環血液中に分泌される6.ヒトTAFIをコードする遺伝子CPB2は,13番染色体(13q14.11)に存在し,11のエクソンを含んでいる7, 8.コード領域に見いだされた19の一塩基多型(SNP)のうち+505 G/Aおよび+1,040 C/Tは,それぞれ147Ala/Thrおよび325Thr/Ileのアミノ酸置換をもたらす9.その結果,TAFIにはTAFI-A147-T325,TAFI-A147-I325,TAFI-T147-T325,TAFI-T147-I325の4種類のアイソフォームが存在し,そのうち325Thr/IleはTAFIaの安定性に影響を与える10.すなわち,37°CでのTAFIa-T325の半減期は8分,TAFIa-I325は15分であり,それぞれ温度依存的に自然にTAFIaiへと変換される.

またTAFIは,血小板の前駆体である巨核球で合成され,トロンビン,ADP,コラーゲンによる血小板の活性化により放出される11.血小板に貯蔵されているTAFIは微量であるが血中総TAFIの0.1%を占めている.血栓内には血小板が高濃度で存在するため血小板由来TAFIaによる抗線溶作用が重要であることが示唆された11.実際,血小板から分泌されるTAFIは多血小板血栓における線溶に影響を与える可能性がある.一方,血小板由来のTAFIではなく,血漿に存在するTAFIの活性化が線溶抑制には不可欠であることが最近示された12.活性化TAFI(TAFIa)は,tPAとα2-アンチプラスミンのバランスにより生成される血漿中のプラスミン濃度に比例して抗線溶作用を発揮するが13, 14,少量のTAFIa,すなわち,全TAFIタンパク質の約1%の活性化により線溶阻害作用が現れる13

2.TAFI,TAFIa,TAFIaiの測定方法とその原理

TAFI,TAFIa,TAFIaiは,免疫学的測定法(ELISA),酵素学的測定法(活性測定),functional assayなどにより定量が可能である(図1).各々の方法には,利点・欠点があり,病態生理学的な機能を検討する際には,測定すべき分子形態を慎重に検討し,適切な測定法を選択することが重要である.

図1

TAFI,活性化ペプチド,TAFIa,TAFIaiとその測定法

TAFI(56 kDa)は,Arg92-Ala93のペプチド結合のトロンビン/トロンボモジュリンやプラスミンによる限定加水分解により,活性化ペプチド(20 kDa)を遊離して活性型のTAFIa(36 kDa)へと変換される.TAFIaの37°Cでの半減期は8~15分であり,立体構造の変化により活性のないTAFIai(36 kDa)へと変化する.この立体構造の変化によりTAFIaiのArg302がトロンビン/トロンボモジュリンやプラスミンの作用を受けやすくなり,25 kDaと11 kDaの断片へと分解される.TAFI,活性化ペプチド,TAFIa,TAFIaiは,それぞれに対する特異抗体を用いてELISAによって測定することができる.TAFI量は酵素活性を指標として測定することもできる.

1)TAFIa

(1)ELISAによるTAFIの定量

ELISAによる測定では,測定前にTAFIを活性化する必要がなく,また,血漿カルボキシペプチダーゼN(CPN)の影響を受けずに比較的簡単に測定でき,自動化も可能である15.ELISAの主な問題点は,TAFIに対して産生された抗体がTAFIのみならず,TAFIa,TAFIai,活性化ペプチド,その他のTAFI分解フラグメントと交差反応する点である16.また,ELISAに使用する抗体によっては動物種間の交差反応性が異なるので,動物実験等研究目的の使用には注意が必要である.さらに,キットによっては,Thr/Ile325の多型によるTAFIアイソフォームに対する反応性が異なり,測定値に影響を与える1618.Heylenらは,3種類の市販のアッセイキット(Zymutest® TAFI, Visulize® TAFI, Immunoclone® TAFI)が,Ile325アイソフォームに対して有意に低い反応性を示すことを明らかにし,遺伝子型により変動が大きくなる可能性を指摘している19.実際これらのキットは臨床研究にも広く利用されており,論文等に報告された結果に関しては,これらの問題点を踏まえて解釈する必要がある.これらのキットの説明書には,Thr/Ile325アイソフォームに対する反応性については言及されていない20.他のいくつかのメーカーもTAFI ELISAキットを提供しているが,これらのキットを臨床試験等で利用する場合にはTAFI,TAFIa,TAFIaiを区別して測定できるか,また,TAFI遺伝子多型によるアイソフォームに対する反応性について確認する必要がある.

(2)TAFI活性の測定による定量

TAFI活性を酵素学的な方法により測定することによってもTAFIタンパク質を定量することができる.これらの方法では,試料にトロンビン/トロンボモジュリンを添加してTAFIを定量的に活性化し,TAFIaの活性を測定する.TAFIa活性の測定には,C末端にアルギニンまたはリシンを含むTAFI特異的な基質を用い,放出されたアルギニン,リシンまたは他のフラグメントを高速液体クロマトグラフ(HPLC),分光光度計,蛍光光度計を用いて検出する.これらの測定に用いられる基質(hippuryl-L-arginine(Hip-Arg or Bz-Gly-Arg),anisolylazoformylarginine(AAFR))は,血漿に存在するCPNによっても分解されるので,血漿または全血を試料とした測定には適さない2123.一方,最近開発された合成基質N-benzoyl-ortho-cyano-phenylalanylarginine(Bz-o-cyano-Phe-Arg)は,CPNよりもTAFIa(CPU)に対する特異性がより高く,CPNによる干渉を受けにくい測定が可能になった24, 25.TAFIは,これらの小分子合成基質に対して微弱な酵素活性を示すが,これは上記のTAFI測定には影響を及ぼさない26, 27.酵素学的な活性測定法においては,TAFI由来フラグメントの影響は受けない26, 27.酵素学的な活性測定法を利用するもう1つの利点として,TAFIの活性化を25°C(室温)で行う場合,Thr/Ile325アイソフォームの影響を受けないことである.一方,37°Cでインキュベーションを行うと,2つのアイソフォームの安定性の違いにより,測定結果が影響を受ける可能性がある 28.さらに,TAFIaの活性を指標とした定量を正確に行うためには,インキュベーション時間の検討が重要である.低濃度の基質を用いた測定では,短時間の反応(測定)においてのみ正確な定量結果が得られる28

2)TAFIa

従来,循環血中のTAFIaの測定は困難であった.これは高濃度のTAFIとTAFIaの両者が存在する場合,酵素学的な活性測定やfunctional assayでは,感度,特異性の面から低レベルのTAFIaのみを特異的に測定することが不可能であったことによる15.また,従来のELISAでは,TAFIaとTAFIaiを区別して測定することもできなかった.その後,Heylenら,Kimらによりこれらの点を克服した方法が開発された29, 30.HeylenらはTAFIaをBz-o-cyano-Phe-Argを基質として25°Cでインキュベートし,生成されるBz-o-cyano-PheをHPLCで分離・定量し,酵素活性を測定する方法を確立した30.Kimらは,プラスミンを作用させて部分分解したフィブリンを共有結合させた担体と蛍光標識プラスミノーゲンを用いたfunctional assayを開発した29.この方法はフィブリン分子上にプラスミンにより生成・露呈されたC末端からTAFIaが切断するリシン残基を蛍光プレートリーダーにより測定することでTAFIaを定量できる.上述のHeylenらの直接的な酵素活性の測定法,Kimらのfunctional assayはpMレベルのTAFIaを高感度で定量することを可能にした29, 30

3)TAFIの活性化状態の測定

TAFIがTAFIaへと活性化される際に遊離される活性化ペプチド(activation peptide),また,TAFIa,TAFIaiの両者を測定することにより,TAFIの活性化状態を評価することができる16.これらのTAFI分解物は,体内での過去のTAFIの活性化,あるいは進行中のTAFIの活性化の指標となる.活性化ペプチドを定量するサンドイッチELISA16,TAFIa,TAFIaiの総量を測定するELISAが確立されている3135.現在市販されているキットは,Asserachrom® TAFIa/ai ELISA(Diagnostica Stago, Asnières, France)である.このキットは,TAFIaとTAFIaiに対して同等の反応性を示し,Thr/Ile325多型の影響は受けないが,トロンビンまたはプラスミンによるTAFI/TAFIaiの分解物は結果に影響を与える可能性がある.

4)線溶機能を指標としたTAFIの測定

TAFIaの生成を線溶率で間接的に評価するfunctional fibrinolysis assayが確立されている.血漿を用いた比濁法によるクロットアッセイをTAFIa阻害剤の存在下,非存在下で行いTAFIaが線溶に及ぼす影響を評価する36.この測定法は,TAFIの生理機能の解明,阻害剤の開発においても重要な手法であるが,血漿中の線溶系,凝固系因子の変動に非常に敏感に反応して測定結果に大きな影響を与えることが欠点である.

3.測定結果の解釈

血漿TAFI濃度は73~275 nM(4~15 μg/mL)である37, 38.個人差は市販のELISAキットの325Thr/Ileアイソフォームに対する反応性の差異による可能性がある17.さらにアイソフォームの影響を受けないELISAを使用して検討した結果では,TAFIの血漿濃度はTAFI遺伝子の非翻訳領域における遺伝子多型による転写レベル,mRNAの安定性に起因する可能性が明らかにされている9, 39, 40.近年,TAFIと血友病A患者における出血症状との関連が注目され,TAFIの検査が有効であることが示唆された41.TAFIの遺伝子多型,血中TAFI濃度と心血管危険因子(高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙)との関連性については最近の総説に詳しくまとめられているので参照されたい20

4.測定における注意点,ピットフォールと限界

1)採血

TAFIa測定用血液の採血には特に注意する必要がある.TAFIa測定用の採血管には,抗凝固薬としてクエン酸ナトリウムとクロロメチルケトン(D-phenylalanyl-L-propylarginylchloromethyl ketone(PPACK/FPR-CK)),D-Val-Phe-Lys chloromethyl ketone(VFK-CK)),アプロチニンなどを添加してex vivoでのTAFIの活性化を防止する42

2)検体の取り扱い

採血後のTAFIの分解を最小限に抑えるために,検体は直ちにアイスバスに入れる30.また,血漿分離のための遠心分離は4°Cで行い,血漿の長期保存は–80°Cで行う.溶血はTAFIa活性の測定を妨害するので注意する必要がある43

3)測定法の選択,測定上の注意点

TAFIa活性の測定はCPNの影響を受けること,ELISAは遺伝子多型の影響を受けることに注意する.特にTAFIaは37°Cでは不安定で半減期が短いことから,血漿TAFIa活性は限られた時間内でのみ測定できることを考慮する必要がある.病態とTAFIa活性の関係を正確に測定するには,疾患の急性期に複数の検体を収集する必要がある.さらに多施設が参加してTAFIを評価する臨床研究においては,検体の分析前の取り扱い,分析方法の詳細な手順に関して厳密な手順書を作成して共有しておく必要がある.

上述のようにTAFIには,異なる原理による複数の測定法が存在する(図1).測定結果の比較においては,国際的な標準物質の利用が重要である.現在,国際血栓止血学会(ISTH)のScientific and Standardization Committee(SSC):fibrinolysis subcommitteeは,TAFIに関してWHOの国際標準物質を作成するための国際共同研究を開始している44, 45.今後,この標準物質を利用することにより,多施設の研究結果をより直接的に比較することが可能になると考えられる.

最後になりましたが,執筆の機会を与えてくださいました慶應義塾大学病院・藤森祐多先生,東京都済生会中央病院・窓岩清治先生をはじめ関連の先生方に感謝申し上げます.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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