日本血栓止血学会誌
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特集:血友病患者のQOL向上を目指して
血友病患者に対する整形外科治療
竹谷 英之
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2024 年 35 巻 1 号 p. 38-44

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Abstract

血友病性関節症治療は,血液製剤の進歩とともに消極的から積極的な治療へと推移し,今では非血友病患者と同じような整形外科的治療が行えるようになった.そして定期補充療法やカスタムメイドの止血管理で,多くの患児はほぼ関節内出血がない状態で成長し活発な生活を送れるようになった.しかし無症候性出血や破綻出血,そしてスポーツの際の外傷性出血などを完全に予防することは難しい.このような出血を起点に関節症が始まれば,その後いかに厳密に止血治療を行っても小児期からの長い人生の経過の中で退行性変性による変形性関節症となってしまうことが予想される.つまり可逆性関節変化の段階での早期発見と治療や,不可逆性となっても末期関節症に至る前の整形外科的治療が,患者のQOLを維持・改善するには今後必要となってくる.そこで整形外科的治療の変遷を振り返り,今後求められる整形外科的治療や残された課題について考えたい.

1.はじめに

血友病患者に対して整形外科治療やリハビリテーション(以下整形外科的治療と総称する)が必要となる代表的な病態として,滑膜炎や関節症があげられる.このような病態は関節内出血を起点とすることから,いかに厳密に止血治療を行うか,行えるかが血友病治療の基本となっている.そして血液製剤の進歩や使用方法の改良によりZero Bleedingがほぼ達成される状況にまで,止血治療は向上してきている.そのような治療状況の中でも,関節痛を訴える小児が一定数存在していることから完全に無症候性の関節内出血や破綻出血が予防しきれているとは言えない1.また血友病患者のスポーツへの参加が進むにつれて外傷性出血も増加することが予想される.

このように止血治療が飛躍的に改善した現代においても,血友病患者の関節内出血は最も注意すべき症状の一つであることに変わりない.したがって血友病性関節症の治療の基本として,出血の有無,急性・慢性出血などの病態,関節症の程度そして機能障害の重度にかかわらず,関節機能や画像評価に基づきそれぞれの病態に合わせた適切な治療を考える必要がある.特に小児においては,関節内出血の影響が可逆性変化のうちに診断し治療が開始されることが重要である.もし不可逆性変化に陥ってしまった後に,厳密な止血管理を行ったとしても,その関節は長期間の退行性変性にさらされ二次性の変形性関節症(以下変形性関節症)として手術治療が将来必要となると推測されるためである.

そこでここでは血友病止血治療の変遷に応じて変化してきた整形外科的治療の歩みを概略し,現在行われている整形外科治療について簡単に説明した後,今後求められる整形外科的治療について考えてみたい.

2.血友病性関節症の成因から考えられる整形外科的治療

1)血友病性関節症の成因2

血友病性関節症は,関節内出血を起点とする関節内環境の悪化に伴う関節破壊の結果である.具体的には,関節内に波及した血液(特に鉄成分)が関節包の最内膜である滑膜を構成する貪食細胞を活性化する.その結果滑膜の絨毛化や滑膜内での血管新生が起こり,そして血管の透過性が亢進する.絨毛化した滑膜は,関節滑膜炎として慢性的な関節腫脹の原因となる.また血管が新生されることで関節内出血の危険性が増加し,関節内出血を繰り返す標的関節の原因となる.また血管の透過性の亢進は,関節内に通常存在しない細胞や化学物質の侵入を許し,関節痛や関節破壊の原因となる.そしてこれらの関節内での変化が相互に作用し,疼痛・腫脹・熱感などの関節症状が発症し,その症状軽減のための安静や不動あるいは関節腫脹や変形により,関節周囲筋の筋力や関節可動性の低下を招く.一旦このような悪循環に陥ってしまうと関節内出血を予防したとしても,これらの変化は徐々に進行し最終的に重度の関節変形になってしまう.

2)血友病性関節症に対する整形外科治療

これら様々な関節の病態に対して下記のような整形外科的治療が現在主に行われている.関節内に波及した血液の関節外への排泄(関節穿刺)や,関節内環境を整えるために関節内へのヒアルロン酸注入(関節内薬物注入)などの治療が外来治療として行われている.また関節内に増殖し絨毛化した滑膜炎に対しては,絨毛化した滑膜を除去する手術(滑膜浄化術や滑膜切除術)や,大量の灌流液で関節内に侵入した細胞や化学物質を関節外に排出する関節洗浄などが行われている.そして人工関節による関節置換術や関節固定術などの整形外科手術も比較的安全に行えるようになってきた.さらに術後だけでなく,出血や滑膜炎治療のため安静により低下した関節機能回復,あるいは多数の関節機能低下により身体機能自体が低下した患者の日常生活レベルの向上などを目的としたリハビリテーションも有効である.さらに関節への負荷を減らすために関節周囲筋肉の強化や心理的ストレス軽減を目的としたスポーツなども有効である.

しかし,この一連の経過の起点である関節内出血を,整形外科的治療では完全に予防することはできない.そして止血管理が行えない状況においては,いかなる整形外科的アプローチも有効な治療とはなりえないことは言うまでもない.

3.血友病患者に対する整形外科的治療の変遷

現在行われている「関節穿刺」「関節内薬物注入」「滑膜切除術」「関節洗浄」「リハビリテーション」「スポーツ」そして「整形外科手術」それぞれが,一般的に行われるようになってきたのは2000年以降である.これらの整形外科的治療が止血治療の変遷の中でどのように行われるようになってきたか,その変遷を概略する.

1)出血時治療(On demand治療)まで(図1
図1

On Demand治療

On demand治療が開始される前は,出血の関節に与える影響も強く変形が急激に進み,そして寿命も短かった.そのため身体機能が低下するような安静や不動が止血治療として優先され,整形外科的治療はほとんど行われなかった.

血友病治療の止血治療は,濃縮製剤が登場するまで,欠損因子を補充するために全血輸血など非効率かつハイリスクの治療しかなく,1960年代は20歳まで生きることができない病気とされていた.そのため関節内出血の治療は,関節包が腫れて緊満状態になることで出血部が圧迫止血されることを期待する治療であったため,関節内圧を下げる関節穿刺は,穿刺自体による出血リスクとともに関節内圧低下による出血助長につながるため禁忌とされていた.このように如何に出血させないかが治療であり,観血的な治療はもちろん止血治療ができない状況下では出血リスクがあるリハビリテーションなどの治療を行うことに消極的であった.

濃縮製剤が登場した1970年代以降になると,出血時に血液製剤の家庭内輸注(出血時治療)が可能となり,出血後早期に止血治療ができるようになった.しかし関節や身体の機能低下に対して積極的な整形外科的治療は普及しなかったものの,一部の施設で末期関節症に対する手術や進行した関節機能障害に対するリハビリテーションが行われるようになってきた.あわせてウイルス感染症の影響で観血的整形外科治療が敬遠された時期もあったが,1990年以降遺伝子組み換え製剤の普及とともに徐々に整形外科的治療が積極的に行われるようになってきた.具体的には止血治療としての不動や安静が見直され,出血後の機能回復リハビリテーションも行われるようになった.そして外来での関節穿刺治療や止血困難な関節内出血に対する滑膜切除も行われるようになってきた.しかし依然として治療の基本は保存的治療であった.

2)定期補充療法時代(図2
図2

定期補充療法

この時代になっても安静や不動といった消極的な治療は残っていたが,止血管理も適切となり出血の影響が抑えられるようになったこともあり,整形外科的治療が積極的に行われるようになった.それでもスポーツなどは出血リスクの少ない種目が選ばれていた.

1990年後半になると血友病の治療方法がOn demand治療から,欠損因子を定期的に補充する予防治療の概念に基づく定期補充療法へと推移していった.定期補充療法の主な目的は,関節内出血を予防し血友病性関節症の発症の予防や進行抑制である.この治療により関節内出血をはじめとする出血リスクが著しく低下し,特に小児では出血を自覚せず成長することも可能となった.また血友病患者の生命予後も健常男性と差がないことが示され,いかに老後まで機能障害が少なく日常生活を過ごすことができるかが治療の目的となった.そのため整形外科的治療の目的も,進行した関節症や関節機能障害に対する治療から,小児の関節症発症や進行の予防,末期関節症への進行予防などを目的とした整形外科手術として小児・学童に対する関節鏡視下滑膜切除も徐々に増加していった.またスポーツは以前から比較的関節負担が少なく,外傷性出血のリスクの低い水泳が推奨されていたが,身体負荷の多少強いスポーツであっても希望の種目を楽しむ患者も増えていった.また周術期の出血に対しても安定した止血管理が可能となり,非血友病患者と同じような整形外科治療が血友病患者に対して行われるようになってきたものの,手術を行う施設は限られていた.

3)カスタムメイド治療時代(図3
図3

カスタムメイド治療

現在のように患者の生活スタイルに合わせて止血管理ができるようになると,選択できるスポーツ種目も増え患者のQOLも改善してきている.出血の影響が少なくなったとはいえ,退行性変性による関節症変化を予防そして進行抑制を図るためには,初期関節症と進行期関節症での適切な整形外科的治療が課題となってきている.

半減期延長製剤や非因子製剤が使用可能になると,体育やスポーツそして仕事による身体の負荷を考慮し患者個人の日常生活に合わせた治療が可能となった.身体機能や関節機能を向上させることで出血しにくい身体を作ることができるスポーツは推奨され,かなり身体負担の大きいスポーツ種目へ挑む患者も目立つようになった.しかしその一方で外傷性の出血リスクも高まり,スポーツ強度に対する適切な止血管理方法についての議論は残っている.整形外科的治療は,小児の滑膜炎に対する関節鏡視下手術が積極的に行われ始め,人工関節置換術も多くの施設で行われるようになった.

4.主な血友病性関節症治療

1)関節穿刺・関節内薬物注入3

出血量に応じて関節への障害が強くなるため,関節内出血が発生した場合に積極的に関節外に血液を排出する関節穿刺を行うことで,血液暴露時間が短くなり関節変性を抑制できると考えられる.また穿刺排液による関節内圧の減少は,関節血腫による疼痛や可動域制限の改善も期待できる.さらに進行した関節症においては必ずしも関節腫脹が血液によるものではなく,血友病患者であっても関節液が貯留している場合もあり鑑別診断にも役立つ.このように十分な止血が可能な環境においては,関節穿刺は診断面あるいは治療面でその有用性は高い.血友病性関節内に対するヒアルロン酸やステロイドなどの注入治療に関しては,明らかなエビデンスはないものの,経験的に治療効果が認められた症例は少なくなく外来治療の一つとして有効な治療方法である.

2)滑膜切除術

関節内出血により増殖した滑膜を減らすことにより,出血しやすい関節環境を改善することと関節軟骨や骨の変性を抑制することが期待できる治療である.したがって滑膜炎はあるが関節軟骨の変形がない,あるいは少ない患者,すなわち関節内出血既往の少ない患児が最も良い適応となる.滑膜を減らす方法として,抗生剤や放射性同位元素を関節内に注入し焼灼する滑膜浄化術(Synoviothisis)と関節鏡視下に滑膜を切除する滑膜切除術(Synovectomy)の二つの方法がある.国際的にはイットリウムなどの放射性元素を用いて滑膜を焼灼する放射性滑膜浄化術(radioactive synoviothsis)が血友病性滑膜炎に対しての第一選択術式となっている.その理由として患者への負担が少なく,止血管理のしやすい低侵襲であることなどが主な理由である.この放射性滑膜浄化術を数回行っても改善が見られない場合に,関節鏡視下滑膜切除術が適応となる.一方抗生剤などを用いた化学的滑膜浄化術(Chemical synoviothsis)は,低費用ではあるものの,効果を得るためには抗生剤を関節内に複数回注入しなければならず,また関節注入時の疼痛も強いことから,発展途上国で主に行われている.本邦においては,放射性同位元素を関節内に注入することは保険的に認められていないため,関節鏡視下滑膜切除術が血友病性滑膜炎への第一選択術式である.このため整形外科的手術が消極的だった時期は,ほとんど関節鏡視下滑膜切除術は行われてこなかった.しかし関節症発症予防や進行抑制を目的とした定期補充療法の普及により,患児に対する関節鏡視下滑膜切除術も積極的に行われるようになった.

放射性滑膜浄化術では滑膜を低侵襲で焼灼することはできても,滑膜炎の結果関節内に浸潤した細胞や放出された化学物質,あるいは関節軟骨の変性にともなう浮遊組織などの関節にとっての異物を関節外に排出することはできない.一方関節鏡視下滑膜切除術では,大量の灌流液で関節内を充満させながら滑膜切除を行うため,同時に関節洗浄が行え,異物を関節外に排出することができる.また関節鏡では滑膜を直視下に観察することができるため,最近盛んに行われているMRIや超音波エコー(以下US)による滑膜炎の画像所見と比較することができる.このように滑膜浄化術と比べて,患者にとって負担は大きいもののその利点は多く,関節鏡視下手術は今後も積極的に行われていくべき手術と考える.

3)人工関節置換術

小児期の治療が十分受けられなかった時代,すでに青年期から末期関節症が多関節に及んでいる血友病患者は多く,著しい日常生活の障害に見舞われていた,このような患者に対して人工関節はとても有効な治療方法ではあったが,人工関節置換術が必要な患者年齢層が30~40歳代と若いこと,ウイルス感染症の影響そして術後感染などのリスクが高いことなど多くの問題が当初あった.しかし人工関節置換術が必要な患者の年齢の上昇,再置換率や感染症率の低下が見られ,少しずつ以前からの問題は解消されてきている.その一方で周術期の十分な止血管理により凝固が正常化されることにより,深部静脈血栓症のリスクについての報告など,今まで凝固異常症である血友病患者では注意が払われてこなかった合併症のリスクも報告されてきている4

4)リハビリテーション

安静や不動が関節や関節周囲に悪影響を及ぼすことも当初から指摘されていたものの,それらに頼る止血治療しかなかった血友病治療初期においては,身体機能維持や改善の治療は当初禁忌に近い状態であった.そのためリハビリテーションによる関節内出血の誘発を恐れて効果的なリハビリテーションが行える施設は少なかった.しかしリハビリテーション直前に血液製剤の輸注を行うことやリハビリテーションのレジュメや負担の変更を定期投与した日に行うなどの工夫をすることで,リハビリテーションによる出血のリスクを低減させ,療法士と患者双方の出血リスクに対する恐怖を減らすことで,効果的なリハビリテーションは普及し,安全かつ効果的な治療が多くの施設で行えるようになってきている.

5)スポーツ

スポーツを行う際の出血リスクについて,各種スポーツの出血リスクを5段階評価した一覧表がNational Hemophilia Foundationから公表されている5.その中で特に水泳は当初から推奨されるスポーツであったため,多くの血友病患者が経験している代表的なスポーツである.止血治療の格段の進歩改善により血友病患者が行うスポーツも多様化し,出血リスクの高いスポーツを行う患者も徐々に増え始めており,スポーツの普及による身体機能面だけでなく心理面でもその効果が期待される.しかし積極的なスポーツ参加を促すためには,出血リスクを適切に軽減させる必要がある.そのためには患者個人の身体機能やスポーツ種目ごとの身体負荷量などを踏まえたうえで,症状や関節内出血の有無をより客観的に判断し治療レジュメを工夫したカスタムメイド止血治療が求められている.またただ単にスポーツ参加を促す止血管理を考えるだけでなく,スポーツができない理由を判断するアンケートが前述のスポーツ出血リスク一覧とともに公表されており,日本語化もされている6.このようなツールを用いて,患者の望むスポーツを指導することも大切と考える.

5.今後求められる整形外科的治療

血液製剤の進歩により,安静や不動といった消極的な治療から積極的な治療へと推移し,非血友病患者と同じ適応基準で治療選択が可能となってきた.ただ血友病は先天性であるがゆえにその治療が遅れると,小児期から関節症に陥るリスクがあり,その後の長い一生関節症に悩まされることになる.つまりその長い期間中,前述の整形外科的治療を組み合わせて対応していく必要がある.しかし現状の血友病性関節に対する整形外科的治療において,症状のない関節と進行期関節症に対する治療方法が特に脆弱で,今後これらに対する整形外科的治療が求められている.また整形外科的治療とは言えないかもしれないが,整形外科治療に付随して今後検討していく必要がある周術期を中心とした疼痛管理についても触れておく.

1)症状がない関節の整形外科的治療

末期血友病性関節症に対する人工関節置換術さえ限られた施設でしか行えない時代もあったが,ようやく軽度の関節症であっても,いろいろな症状の程度に合わせて整形外科的治療介入が比較的円滑に行われるようになってきた.しかし軽度であっても不可逆性の関節症が小児期からのものであれば,その後の退行性変性の影響を考慮すると,それらは末期関節症予備軍とも考えることができる.また無症候性の関節内出血による関節症のリスクを考えると,血友病性関節症の治療としては,症状がでてからではすでに出遅れてしまっている可能性がある.つまりこれまで以上に整形外科やリハビリテーション科との親密な連携をとっていくことが求められている.

さらに血友病性関節症を発生や進行を予防するためには,症状の有無にかかわらず血友病患児の関節に,関節内出血がないか,滑膜炎がないかを定期的に評価しておくことが必要である.関節内出血や滑膜炎を評価する方法として,MRIがゴールデンスタンダードとしながらも,患児への負担が少なく簡便なUSによる関節検査が推奨されている7.そしてUSは外来診察医がその場で検査し評価できるpoint of careのツールとして国際的に大きな広がりを見せている.しかし慣れない関節US検査を小児科医が外来で定期的に行うことは難しく,US検査技師等の協力体制の構築も重要となってくる.また海外に比べてMRI検査を比較的行いやすい環境にある日本では,積極的なMRI利用も重要と考える.

2)進行期関節症に対する治療方法

血友病性関節症は,滑膜炎が主体の初期関節症,関節症が主体ではあるが人工関節置換術の適応前の進行期関節症,そして人工関節置換術が適応となる末期関節症の3期に分けることができる.血液製剤治療の進歩により非血友病患者と同等の平均寿命となった血友病患者において,一旦血友病性関節症に陥ると,その人生の大半を進行期関節症状態で過ごすことになる.しかし初期関節症の滑膜切除術,末期関節症の人工関節置換術といったその時期に合わせた積極的な治療方法が,この進行期関節症にはなくリハビリテーションなどの保存的整形外科治療が主体とならざるをえない.しかし保存的な治療では限界があり,厳密には適応ではない関節鏡視下の滑膜切除と関節内洗浄を関節内環境の改善を目的として行っており,一定の効果が得られている8.この治療は末期関節症だがまだ人工関節置換術には踏み切れない患者に対しても,Time savingの意味でこの治療を行いその効果を実感している.しかしどこまで行ってもこの治療効果はTime savingであり,より効果的な治療方法が求められている.関節内出血の予防や出血後の治療が十分に行えない時代では,間葉系幹細胞などを用いた再生医療治療の適応疾患とすることはできなかったが,その時代を脱した今の血友病性関節症であれば,再生医療適応疾患の資格は十分あると考えられる.その点で血友病性関節症への再生医療の広がりに期待したい.

3)周術期の疼痛管理

筋肉内出血のリスクから筋肉内注射となる局所ブロックや脊髄静脈叢を損傷し脊髄損傷を招く恐れのある腰椎麻酔や硬膜外麻酔(以下腰椎麻酔等)は禁忌とされ,小手術であっても全身麻酔が好んで行われてきた.これは止血管理が不十分であった時代のリスク対策であって,手術が安全に行えるレベルを維持することができる現在の止血管理環境下では理論的にそのリスクは低い.そのため局所麻酔下小手術による患者の全身麻酔負担の軽減,選択的神経ブロックの併用などによる術後疼痛の緩和などを目的に,注意深い術後観察を行いながら局所麻酔や神経ブロック症例を蓄積し,その安全性を確認していく必要がある.一方,腰椎麻酔等に関しては,どんなに注意しても静脈叢損傷の有無が確認できず圧迫止血もできず止血治療が遅れることが強く懸念されるため,敢えて腰椎麻酔等を選択するは必要ない.しかし保因者の帝王切開での出産時の腰椎麻酔や診断上必要な腰椎穿刺はすでに行われている.そして高齢化に伴い手術時麻酔として全身麻酔より腰椎麻酔等の方が安全な場合も今後増えてくるため,腰椎麻酔等の効果や安全性を確認するために,腰椎麻酔等が必要となった症例の蓄積も今後必要と考える.

6.さいごに

血友病性関節症の整形外科的治療は,血友病治療の歩みに従い治療に消極的な時代から積極的な時代へと推移してきたが,血友病性関節症発症以前からの介入や関節症の重症度に合わせた治療方法の開拓などが今後,QOLの維持・改善には重要になってくる.また血友病患者の高齢化に伴い,骨粗鬆症やフレイルやサルコペニアと称されるような身体機能低下の問題も血友病患者にとって無縁ではない.このように血友病患者が生涯を通じてより良い生活を過ごすための整形外科的な課題はまだまだ残っている.その課題解決には,血友病患者治療の中心となる小児科・内科と整形外科・リハビリテーション科との連携だけでなく,放射線科・検査科など今まで以上により広く多くの診療科との親密な連携が必要である.

著者の利益相反(COI)の開示:

講演料・原稿料など(中外製薬)

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