Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Management of the sepsis-associated disseminated intravascular coagulation
Transition of the criteria for disseminated intravascular coagulation
Tadashi MATSUOKAShunsuke YASUOToshiaki IBA
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2024 Volume 35 Issue 3 Pages 370-377

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Abstract

播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)は,敗血症患者に合併し,重篤な出血や臓器機能障害を引き起こす.1990年代に厚労省からDIC診断基準(JMHW-DIC)が発表され,以降,国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasis: ISTH)DIC診断基準(ISTH-DIC),急性期DIC診断基準(JAAM-DIC),sepsis-induced coagulopathy(SIC)基準と種々の基準が提唱されてきた.敗血症性DICに関する研究は,本邦からの報告が多く,使用される基準もJMHW-DICからJAAM-DICへと変化してきた.一方,海外ではISTH-DICが使用されている.これまでの研究結果から,近年の臨床試験では,患者選択に各種診断基準に加え重症度指標を付加する研究も増加してきた.各基準の目的に応じた使い分けが重要であり,本稿では,これまでの臨床試験で使用された診断基準の変遷を提示し,各基準の特性を理解することを目的とする.

1.はじめに

播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)は,重症患者,特に敗血症患者に合併し,重篤な出血や臓器機能障害を引き起こす13.凝固障害の重症度が高まるにつれて,敗血症および敗血症性ショック患者の死亡リスクが増加することが報告されている46.研究者によりさまざまであったDICの診断基準に関して,類似した特徴を持つ凝固障害の特定化や,死亡率,罹患率の同等の発生頻度をもつ集団の特定化を目的として,またDICに対する特異的な治療法を開始する一定の基準化のために,1983年に世界に先駆けて本邦から初の臨床症状と検査所見に基づいたDICの診断基準が提唱された7.その後この厚労省DIC診断基準を参考にして,国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasis: ISTH)からもovert DIC基準が発表され,海外でもDIC認知度が高まることになった8.以降,数十年にわたってさまざまな基準が提唱されてきているが,DIC診断のゴールドスタンダードは未だ定まっていない.

現在までに,敗血症性DICを対象とした多くの後ろ向き研究やメタアナリシスで,抗凝固療法と良好な転帰との関係が報告されているが,単独のランダム化比較試験(randomized controlled trials: RCT)においては,ほとんどすべての試験において,抗凝固療法の有効性は証明されていない934.しかしながら,対象集団や介入時期など様々な研究の問題点も指摘されており,本邦においては,抗凝固療法による生存率改善の恩恵を受ける特定の集団が存在するという考えが主張されているが11, 35, 36,その集団の特定にあたって,どの基準が最も妥当なのか,あるいは凝固異常のみならず臓器障害などの重症度も含めた基準が必要なのかは不明である.

本稿では,これまでに施行されたRCTもしくはその二次解析において使用された敗血症性DICの診断基準の推移を提示し,各基準の特性を理解することを目的とする.

2.DIC診断基準の変遷

敗血症性DICならびに敗血症を対象としたRCTで用いられたDIC診断基準の変遷を図1表1に示す934, 37.敗血症性DICに関連する臨床研究は,敗血症性DICを対象としたRCTと敗血症を対象としたRCTの中の二次解析の二つに分けることができる.敗血症性DICを対象としたRCTは,1990年代から本邦ではじまり,厚生省(JMHW)-DIC基準が用いられた.その後,複数のRCTがJMHW-DIC基準に基づいて行われた.その後,早期の診断,治療介入を目的とし,2006年に新たなDIC基準である日本救急医学会(JAAM)DIC基準が本邦から発表された.以降の敗血症性DICのRCTにおいては,JMHW-DIC基準に代わって,このJAAM-DIC診断基準が用いられるようになった.図1からも分かるように,敗血症性DICを対象としたRCTのほとんどは日本で実施されていたが,近年ISTHから提唱されたsepsis-induced coagulopathy(SIC)基準を用いた多国間でのRCTも施行され始めた.敗血症を対象としたRCTの二次解析はいずれも海外で実施された大規模な多国間RCTからの研究であり,二次解析のためのDIC診断にはISTHによるovert DIC基準を用いているものや,プロトロンビン時間(PT),血小板,D-dimerなど,凝固関連因子の単一パラメータにより定義しているものがある.これら研究デザインの違いは,本邦では,DICは敗血症が誘因となり発症する死亡率の高い合併症であるものの,抗凝固療法など適切な治療介入によって生存率の上昇が見込まれるという考え方であるが,諸外国ではDIC自体を疾患としてではなく,原疾患つまり敗血症の進行の結果としての病態であり,治療介入の対象とはならないと考えており,DICに対するそれぞれの国の考え方の違いが起因している.

図1

臨床研究で用いられる診断基準の推移

RCT: randomized control trial, DIC: disseminated intravascular coagulation, JMHW: Japanese Ministry of Health and Welfare, JAAM: Japanese Association for Acute Medicine, ISTH: International Society on Thrombosis and Haemostasis, SIC: sepsis induced coagulopathy, PT: prothrombin time, AT: antithrombin, LMHW: low molecular weight heparin, GM: gabaxate mesylate, TFPI: tissue factor pathway inhibitor, APC: activated protein C, rTM: recombinant thrombomodulin, UFH: unfractionated heparin, Vaso: the use of vasopressor, MV: mechanical ventilated, OD: the number of organ dysfunction(s).

表1

DIC関連臨床試験

発表年 著者 研究デザイン 地域 診断基準 重症度基準 薬剤 対照群 患者数 年齢
1993 Sakuragawa RCT Japan JMHW-DIC なし LMWH Heparin 125 NA
1993 Fourrier RCT France Original 昇圧剤使用を伴う循環不全 AT Placebo 32 52
1998 Baudo RCT Italy AT活性 昇圧剤使用を伴う循環不全または人工呼吸器使用 AT Placebo 100 60
1998 Eisele Subgroup International Jordan score 臓器障害:3臓器以上 AT Placebo 5 58
2000 Nishiyama RCT Japan JMHW-DIC なし GM Placebo 40 61
2001 Abraham Subgroup International PT-INR 臓器障害:1臓器以上 TFPI Placebo 146 61
2002 Aoki RCT Japan JMHW-DIC なし APC Heparin 132 59
2003 Abraham Subgroup International PT-INR 臓器障害:2臓器以上 TFPI Placebo 1,955 62
2004 Hsu RCT Taiwan JMHW-DIC なし GM Placebo 50 60
2004 DHAINAUT Post-hoc International ISTH overt DIC 臓器障害:1臓器以上 rAPC Placebo 454 60
2006 Saito RCT Japan JMHW-DIC なし rTM Heparin 234 NA
2006 KIENAST Post-hoc International ISTH overt DIC, Non-overt DIC 臓器障害:3臓器以上 AT Placebo 265 56
2009 Jaimes Subgroup Colombia D-Dimer なし UFH Placebo 240 56
2012 Ranieri Subgroup International Platelet 昇圧剤使用を伴う循環不全 rAPC Placebo 392 63
2012 Nishiyama RCT Japan JAAM-DIC なし AT GM 16 71
2013 Gando RCT Japan JAAM-DIC & AT活性 なし AT Placebo 60 70
2013 Vincent RCT International SIC(PT, Platelet) なし rTM Placebo 741 57
2016 Hagiwara RCT Japan JAAM-DIC 臓器障害:1臓器以上 rTM Placebo 92 76
2016 Pappalardo Subgroup Italy ISTH overt DIC 臓器障害:2臓器以上 Protein C zymogen 37 65
2019 Mori RCT Japan JAAM-DIC なし rTM Placebo 60 74
2019 Vincent RCT International SIC(PT, Platelet) 昇圧剤使用を伴う循環不全または人工呼吸器使用 rTM Placebo 800 61

DIC: disseminated intravascular coagulation, RCT: randomized control trial, JMHW: Japanese Ministry of Health and Welfare, JAAM: Japanese Association for Acute Medicine, ISTH: International Society on Thrombosis and Haemostasis, SIC: sepsis induced coagulopathy, PT: prothrombin time, AT: antithrombin, LMHW: low molecular weight heparin, GM: gabaxate mesylate, TFPI: tissue factor pathway inhibitor, APC: activated protein C, rTM: recombinant thrombomodulin, UFH: unfractionated heparin

3.DIC診断基準の比較

各診断基準を表23に示す.各基準の項目は比較的類似しているが,フィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)やD-dimerなどのフィブリン関連マーカーの種類や各パラメータのカットオフ値には若干の違いが認められる.フィブリン関連マーカーに関しては,JMHW-DICとJAAM-DIC診断基準ではFDPが主として採用され,D-dimerのFDPへの換算値を参考にすることも許容されているが,ISTH over DICではいずれのフィブリン関連マーカーも同等に扱われ,カットオフに関しては,moderate increase/strong increaseといった分類を採用している.そのため各試験において,JMHW-DICとJAAM-DIC基準がDIC診断に用いられている際には,フィブリン関連マーカーとしてFDPが採用され,D-dimerは採用されておらず,ISTH overt DIC基準においてはFDPまたはD-dimerのいずれかが指定されていた.これはD-dimer検査キットが複数存在し,FDPとの換算が各キットにより異なるため,試験においては混乱のないように画一化を目指したためと想定される.また,新しい基準が確立されるにつれて,臨床現場において簡便性を重視し,診断基準の項目数が減少する傾向にある8, 38, 39.SICにおいては,血小板数とprothrombin time international normalized ratio(PT-INR)という日々の検査で測定される2項目で診断可能であり,極めて簡易であることが分かる.これら基準の診断精度の比較は,これまでに幾つかの研究が行われており,死亡率を対象とした比較では,JAAM-DICやSICは感度が高く,ISTH overt DICは特異度が高いと報告されている3941.これらの特性に基づき,日本版敗血症性診療ガイドライン2024では,早期DICの診断や治療開始判断にはJAAM-DICやSIC診断基準を用い,進行期DICの診断や死亡予測にはISTH overt DIC基準を用いるなど,目的に応じて使い分けることを推奨している.これまでいずれのガイドラインも診断基準の具体的な使用方法に関して言及したものはなく,日本版敗血症性診療ガイドライン2024はこれまでのものと一線を画すものと言える.

表2

DIC診断基準ならびに重症度指標(RCT)

発表年 著者 薬剤 診断基準 項目数 PT Plt DD FDP FNG AT Other 重症度指標 重症度
APACHE II SOFA SAPS
1993 Sakuragawa LMHW JMHW-DIC 4 なし
1993 Fourrier AT Original 3* Factor V, FM 昇圧剤使用を伴う循環不全 19
1998 Baudo AT AT activity 1 昇圧剤使用を伴う循環不全または人工呼吸器使用 16
2000 Nishiyama GM JMHW-DIC 4 なし
2002 Aoki APC JMHW-DIC 4 なし
2004 Hsu GM JMHW-DIC 4 なし 17
2006 Saito rTM JMHW-DIC 4 なし
2012 Nishiyama AT JAAM-DIC 3 なし 7
2013 Gando AT JAAM-DIC & AT 4 なし 21 8
2013 Vincent rTM SIC(PT, Platelet) 2 なし
2016 Hagiwara rTM JAAM-DIC 3 臓器障害:1臓器以上 19 8
2019 Mori rTM JAAM-DIC 3 なし 22 8
2019 Vincent rTM SIC(PT, Platelet) 2 昇圧剤使用を伴う循環不全または人工呼吸器使用 22

●: 必須項目.DIC: disseminated intravascular coagulation, RCT: randomized control trial, JMHW: Japanese Ministry of Health and Welfare, JAAM: Japanese Association for Acute Medicine, ISTH: International Society on Thrombosis and Haemostasis, SIC: sepsis induced coagulopathy, PT: prothrombin time, Plt: platelet, DD: D-dimer, FNG: fibrinogen, AT: antithrombin, FM: fibrine monomer, LMHW: low molecular weight heparin, GM: gabaxate mesylate, APC: activated protein C, rTM: recombinant thrombomodulin, APACHE II: acute physiology and chronic health evaluation II, SOFA: sequential organ failure assessment, SAPS: simplified acute physiology score.

表3

DIC診断基準ならびに重症度指標(二次解析)

発表年 著者 薬剤 診断基準 項目数 PT Plt DD FDP FNG AT 重症度指標 重症度
APACHE II SOFA SAPS
1998 Eisele AT Jordan score 4 臓器障害:3臓器以上 14
2001 Abraham TFPI PT-INR 1 臓器障害:1臓器以上 24
2003 Abraham TFPI PT-INR 1 臓器障害:2臓器以上 25
2004 Dhainaut rAPC ISTH overt DIC 4 臓器障害:1臓器以上 27
2006 Kienast AT ISTH overt DIC and/or Non-overt DIC 4 臓器障害:3臓器以上 49
2009 Jaimes UFH D-Dimer 1 なし 10
2012 Ranieri rAPC Platelet 1 昇圧剤使用を伴う循環不全 25
2016 Pappalardo Protein C zymogen ISTH overt DIC 4 臓器障害:2臓器以上 25 12 62

●: 必須項目,■: いずれか1項目.DIC: disseminated intravascular coagulation, RCT: randomized control trial, JMHW: Japanese Ministry of Health and Welfare, JAAM: Japanese Association for Acute Medicine, ISTH: International Society on Thrombosis and Haemostasis, SIC: sepsis induced coagulopathy, PT: prothrombin time, Plt: platelet, DD: D-dimer, FNG: fibrinogen, AT: antithrombin, TFPI: tissue factor pathway inhibitor, APC: activated protein C, UFH: unfractionated heparin, APACHE II: acute physiology and chronic health evaluation II, SOFA: sequential organ failure assessment, SAPS: simplified acute physiology score.

4.重症度指標

上記DIC診断基準に加えて,RCTでは少ないが,二次解析において重症度指標が比較的多くの研究で付記されていることがわかる.研究毎の用いられた重症度基準を表23図1に示す.二次解析では,DIC診断基準に加えて臓器障害の存在やacute physiology and chronic health evaluation(APACHE)2スコア,sequential organ failure assessment(SOFA)スコア,simplified acute physiology score(SAPS)などで中等度以上の重症度を規定している研究が多かった.これまで多くの後方視的研究で,臓器障害を有し,重症度の高い敗血症性DICは,抗凝固療法の転帰の改善効果があることが報告されており,これらの結果からも,敗血症そのものを対象とした海外の研究では,DICに加えて重症度の高い集団を二次解析の対象としていると想定される36, 42.一方,敗血症性DICを対象としたRCTでは,患者選択のための重症度基準を設定していない.これらのRCTはほとんどが日本で実施され,JMHW-DICまたはJAAM-DIC基準が用いていられており,これらの基準には,診断項目内に重症度因子,つまりJMHW-DICでは臓器機能障害の有無,JAAM-DICではSIRSスコアが含まれているため,重症度基準を追加する必要はないと考えられていたと想定できる.しかし,これらのほとんどの研究で,抗凝固療法の転帰の改善効果は確認できておらず,RCTを対象としたメタアナリシスで,より重症の集団ほど抗凝固療法に対する反応が良好であると報告されており11, 42, 43,直近の研究では,血管作動薬よる循環管理や人工呼吸器による呼吸管理の要する患者を対象とするようになってきた12, 23

5.まとめ

DICの診断に関して,RCTで使用される基準は,JMHW-DIC基準からJAAM-DIC基準へと数十年の間に変化しており,ISTH overt DIC基準は二次解析で使用され続けている.また,時代の変化に伴い,DIC診断基準は簡略化される傾向にあり,抗凝固療法の効果を検証する研究では,対象患者にDIC診断基準に加え,重症度基準が追加されてきている.また,試験内の評価項目に関して,特に欧米においては,死亡率のみが議論されることが多い.しかしながら,本邦からの多くの研究でDIC離脱が臓器障害改善や死亡率改善のsurrogate markerであることが示されており14, 20, 44,死亡率に固執した研究設定だけでなく,DIC離脱や出血合併症など総合的な効果判定を視野に入れた研究デザインを本邦から世界に発信していくことがDIC発展国である本邦に課せられた責務でといえる.しかしながら,現時点では抗凝固療法の恩恵を受ける集団の特定化に最適な診断基準は確立されていない.更なる検証を重ね,同集団の特定化ならびに治療開始判断となる基準を決定する知見を創造していくことが今後の課題である.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

松岡 義:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(日本血液製剤機構)

射場敏明:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(JIMRO)

その他の著者の利益相反の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

文献
 
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