Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Novel therapies for ITP and TTP
Caplacizumab in the treatment of acquired thrombotic thrombocytopenic purpura
Hideo YAGI
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2024 Volume 35 Issue 4 Pages 440-447

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Abstract

カプラシズマブはVWFのA1ドメインを標的とする低分子抗体薬であり,von Willebrand factor(VWF)と血小板の結合を阻害することで血小板血栓形成を抑制し,急性期における早期死亡や血栓症の発症を予防する.2018年にEU,2019年に米国,本邦では2022年12月に後天性血小板減少性紫斑病(後天性thrombotic thrombocytopenic pupura: TTP,または免疫原性TTP(immune-mediated TTP: iTTP))に対して保険承認され,初発並びに再発症例に対して血漿交換療法並びに免疫抑制療法に併用して投与することが可能となった.しかしながら本邦における使用経験は未だ乏しく,治療効果判定や投与中止のタイミング,さらに出血症状などの副作用対策について試行錯誤しているのが現状である.海外での5年以上の使用経験から血小板数の早期回復並びに血漿交換回数の削減効果があり,出血症状を助長することなくiTTPの死亡率を6%以下に改善し,ADAMTS13活性が20%以上に回復してから中止することで再燃並びに再発を抑えることが明らかとなった.

1.はじめに

カプラシズマブはvon Willebrand factor(VWF)のA1ドメインを標的とする低分子抗体薬であり,血小板数の早期回復,血漿交換からの早期離脱,そして血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic pupura: TTP)関連死亡,再発,血栓塞栓症を減少させる効果が認められ,2018年にEU,2019年に米国,本邦では2022年12月に免疫原性TTP(immune-mediated TTP: iTTP)に対して保険承認された.すでに国内でも170例以上の症例に投与が行われているも,実際にはiTTPは希少疾患であるためカプラシズマブを有効かつ適切に使用することは想像以上に難しく,治療効果判定や投与中止のタイミング,さらに出血症状などの副作用対策について試行錯誤しているのが現状である.そこでカプラシズマブの臨床試験並びに国内外でのリアルワールドで使用経験について解説する.

2.iTTP

TTPは1924年にMoschcowitz1により初めて報告された原因不明の血栓性疾患である.その症例は16歳の女性で上肢の脱力感を初発症状として発症し,貧血と発熱,さらに上下肢不全麻痺と顔面麻痺が出現し,最終的には一週間の経過で肺水腫と昏睡にて死亡した.その病理解剖の結果は肺を除く,脳,心,肝,腎など全身諸臓器の細小血管に血栓が形成されており,この結果から当初ヒアリン膜血栓症と命名されていた.しかし,その後も同様の症例報告が相次いだことから,1966年にAmorosiとUltmannら2が自検例16例と既報告の類似する255例を解析し,特徴的な臨床症状として細血管性溶血性貧血,血小板減少性紫斑病,精神神経症状,腎機能障害,発熱の5徴候を呈する疾患をTTPと呼ぶことを提唱した.1982年,Moakeら3は慢性再発性TTP患者4症例の検討により,患者血漿中には正常ヒト血漿中に存在する高分子量VWF重合体(large VWF multimer: L-VWFM)よりはるかに大きな超高分子量VWF重合体(unusually large VWF multimer: UL-VWFM)が寛解期に出現し,急性期もしくは再発時には消失する事を発見した.新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)もしくはクリオ上清を用いて血漿交換療法を行なうとUL-VWFMは消失することから,TTPの発症にはUL-VWFMが重要な役割を果たしており,患者ではこれらを分解する酵素活性の低下が関係していることが推察された.この未知の酵素こそが後に同定されたADAMTS13(a disintegrin-like domain, and metalloprotease, with thrombospondin type 1 motifs 13)である4.iTTPの発症率は2人/100万人/年で男女比はほぼ2:3と女性に多い.発症時の年齢は40歳前後で基礎疾患を認めない原発性が60%と最も多く,二次性として自己免疫疾患,感染,妊娠,薬剤,移植が挙げられる5.TTPの病因はVWFを分解するADAMTS13活性の低下であり,先天性TTPではこの酵素の遺伝的異常,後天性TTPでは抗ADAMTS13抗体(インヒビター)の産生により発症する.TTPの病態はADAMTS13酵素活性が著減しているために,血管内皮細胞から血中に分泌されたUL-VWFMが分解されずにそのまま循環血中に存在し,細小血管内に生ずるずり応力によって活性化され,血小板表面に存在するVWFのレセプターであるGPIbを介して血小板と結合する.これに引き続いて細胞内シグナル伝達により血小板が活性化され,堅固な血小板凝集塊が形成される.そして形成された血小板凝集塊は微小血栓として血管を狭小化するため,消費性血小板減少の傍ら臓器障害が引き起こされ,さらにそこを通過する際に赤血球が破砕され,溶血性貧血が引き起こされる6

3.これまでのiTTP治療

iTTPでは無治療の場合は90%以上死亡する極めて予後不良な疾患であったが,血漿交換療法と免疫抑制療法としてステロイド療法を併用することで80%前後の生存率が得られるようになった.具体的な方法としてはFFPを置換液として患者循環血液量の1~1.5倍の血漿交換を1日1回連日で行い,治療期間としては血小板数が正常化(15万/μL以上)して2日後までとされている.血漿交換の開始と同時にインヒビターの産生を抑える目的でステロイドパルス療法もしくはプレドニゾロン内服を開始し,臨床症状の改善と抗ADAMTS13抗体力価を指標に漸減する.iTTP患者において血漿交換療法が有効な理由として①ADAMTS13酵素の補充,②ADAMTS13に対するインヒビターの除去,③正常なサイズのVWFの補充,④UL-VWFMの除去,⑤過剰なサイトカインの除去などが想定されている7.しかし,治療開始により一旦血小板数が上昇するも,ほどなく血小板数が再度低下する症例が散見され,その原因として血漿中のADAMTS13が刺激となり,インヒビター力価が再上昇することが判明している.このような症例ではステロイド療法よりも強力な自己抗体産生抑制が必要であり,リツキシマブ(リツキサン注®)がこれらの難治例に有効であることが報告されている8.本剤は,抗CD20キメラ型モノクローナル抗体であり,抗体を産生するBリンパ球に結合して細胞を傷害することでADAMTS13に対するインヒビター産生を抑制する.本邦における対象としては難治例もしくは再発例が推奨されているが,海外では初回の標準治療に追加することで血漿交換の回数を少なくなり,入院期間が短縮できることや再発を抑制する効果が報告されている9.しかしながら,これらの治療を行っても治療開始1ヶ月以内の早期死亡(10%)を改善できないことが課題として残されており,その原因としてADAMTS13活性が回復してくるまでに引き起こされる血栓症による臓器障害が挙げられ,VWF依存性血小板血栓形成を抑制するカプラシズマブの開発が行われた.

4.カプラシズマブ臨床試験

カプラシズマブはVWFのA1ドメインを標的とした単一の可変領域からなるヒト化抗体製剤(ナノボディ)であり,VWFと血小板の結合を阻害することで血小板血栓形成を抑制し,急性期における早期死亡や血栓症の発症を予防する作用を有する新規治療薬である.カプラシズマブのiTTPに対する有効性と安全性については海外第II相治験(TITAN study)において従来の標準治療である血漿交換療法と免疫抑制療法に加えてカプラシズマブを血漿交換療法中並びに終了後30日間投与するカプラシズマブ群(36例)とフラセボ群(39例)について比較検討が行われた.結果としては血小板数の正常化に要する日数は有意にカプラシズマブ群にて短縮(カプラシズマブ群:3.0日 vs フラセボ群:4.9日(中央値))され,血漿交換終了後30日以内の血小板減少を来す再燃はカプラシズマブ群3例(8%)に対してプラセボ群11例(28%)であり,血漿交換終了後30日以降の血小板減少である再発はカプラシズマブ群11例(31%)に対してプラセボ群3例(8%)であり,再燃並びに再発症例の多くはADAMTS13活性が10%以上に回復していないことが示された.初回治療で寛解となる症例はカプラシズマブ群で29例(81%)に対してプラセボ群で18例(46%)であり,血漿交換を要した日数はそれぞれ5.9日と7.9日(中央値)であった.安全性については出血イベントがカプラシズマブ群で19例(54%)に対してプラセボ群で14例(38%)に認められ,そのうちの83%が軽症,14%が中等症,3%が重症であった.重篤な有害事象がカプラシズマブ群で13例(37%)に対してプラセボ群で12例(32%)であり,出血についてはそれぞれの群に2例ずつ認められた10.次に海外第III相治験(HERCULES study)ではTITAN試験にてカプラシズマブ投与群で再発並びに再燃が多かったことからカプラシズマブを血漿交換療法終了後30日投与し,さらに28日間の追加投与を許可することでフラセボ群と比較したところ,血小板数正常化までの期間は有意に短縮(カプラシズマブ群:2.69日 vs フラセボ群:2.88日,P=0.01)し,TTP関連死亡,再発,血栓塞栓症も有意に減少することが示された.そして臓器障害を反映するバイオマーカー(LDH,トロポニンI,血清クレアチニン)も早期に改善することが認められた.一方,有害事象としては鼻出血や歯肉出血などの粘膜出血がカプラシズマブ投与群で多く認められる(65% vs 48%)もそのほとんどが軽症であり,特別な介入が不要であったことが報告された.両試験の併合解析ではカプラシズマブ投与群で有意に死亡例の減少(0% vs 3.6%)と難治例の減少(0% vs 7.1%)が認められた.治療期間中の再燃はカプラシズマブ投与群にて有意に減少(5.6% vs 34.8%)するも,治療終了後の再発はカプラシズマブ投与群にて有意に多かった(13.0% vs 0%).カプラシズマブ投与群にて再発が多かった理由として,再発した14例中13例でADAMTS13活性が10%以下でカプラシズマブ投与が終了となり,10日以内に再発していたことが示された.HERCULESS試験ではカプリシズマブ投与の延長が認められたためTITAN試験と比較して再発が減少し,最終的に併合解析の結果ではTTPの再燃もしくは再発はカプラシズマブ投与群で有意に減少(17.6% vs 34.8%)することが示された.安全性の評価では血漿交換に関連する有害事象はカプラシズマブ投与群と非投与群でそれぞれ40.6%と45.5%であり,重篤なものは3.8%と6.4%であった.出血イベントはその多くが軽度から中等度の粘膜出血であり,カプラシズマブ投与群と非投与群で58.5%と42.7%,重篤な出血イベントは11.3%と1.8%であった.死亡はHERCULESS試験にて試験終了後に脳梗塞による1例が認められた11

5.カプラシズマブのリアルワールドデータ

英国:対象は2018年から2020年に英国でカプラシズマブ治療を受けたiTTP患者85症例(小児4例)で,年齢(中央値)は46歳(3~82),性別は女性が56例であった.85%の症例で血小板数は3万/μL以下であり,76%でトロポニン値の上昇を認め,66%で神経症状が認められた.26%の症例で多臓器障害を呈しており,26%の症例では治療開始前に神経症状の悪化により人工呼吸管理が行われていた.治療効果は血小板回復(中央値)が血漿交換開始後4日(標準治療群:6日),血漿交換施行期間(中央値)は7日(9日),入院期間は12日(14日)とカプラシズマブ治療群で良好であった.TTPの再発・再燃は6%(5例)で,2例が再燃,3例が再発であった.ADAMTS13活性(中央値)は血漿交換終了時12.4 IU/dL,カプラシズマブ終了時49.3 IU/dL,カプラシズマブ終了後1週間58.3 IU/dLであり,再発・再燃した症例では全例で血漿交換終了時10 IU/dL以下であった.カプラシズマブ投与期間は血漿交換終了後0~92日(中央値28日)で,32%の患者で30日以上の投与が行われていた.一方,55%の患者は30日未満であった.小児例は全ての症例でリツキシマブ投与が行われており,カプラシズマブ治療にて再燃並びに死亡は見られなかった.

安全性の評価では26症例に計31回の有害事象が認められ,15症例に17回の出血イベントが認められ,その多くは歯肉出血と消化管出血であった.重篤なものは歯肉出血,関節出血,上部消化管出血がそれぞれ1例ずつであり,頭蓋内出血は2例に認められるも広範な脳梗塞後の二次性頭蓋内出血であった.非出血イベントとして最も多いのが静脈血栓塞栓症で5例に認められた.死亡例は5例(6%)で発症時から重症で4例に人工呼吸管理が必要であった.3例ではカプラシズマブ開始が血漿交換開始後7日目以降(8~21)であり,生存群と比較して有意に遅かった.1例が脳梗塞後の頭蓋内出血で死亡した.以上の結果から治療効果は臨床試験と同様に良好であったが,安全性については重篤な出血イベントの出現が報告された.さらに死亡例も5例認められ,その原因として発症時すでに重症化していることやカプラシズマブ開始時期の遅れが指摘された12

イタリア:対象は2018年9月から2021年8月にイタリアにてカプラシズマブ投与を受けたiTTP患者26症例であり,初発が15例,再発・難治例が11例であった.血漿交換を行わなかった軽症の1例以外は全例で血漿交換とステロイド治療に併用して投与が行われた.リツキシマブ投与は67%の患者で行われていた.患者の年齢(中央値)は53歳(47~60),性別は女性が20例であった.血小板数(中央値)は1.4万/μLでヘモグロビン値(中央値)は9 g/dL,LDH値(中央値)1,243 IU/Lであった.15例(57.7%)に精神神経症状,12例(46.2%)に出血症状,5例(19.2%)に心血管症状が認められた.血漿交換からカプラシズマブ投与までの日数(中央値)は1日(0~8日)で,血漿交換終了後の投与期間(中央値)は26日(18~30日)で,70%の症例が30日以内に終了していた.カプラシズマブ開始後から血小板数の正常化までの日数(中央値)は4日(3~4日)であり,全例で奏功が得られた.奏功までの血漿交換の回数(中央値)は7回(6~14回)であり,入院期間(中央値)は18日(9~29日)であった.カプラシズマブ投与終了時のADAMTS13活性は20 IU/dL以下が6例(27.3%),20~45 IU/dLが7例(31.8%),45 IU/dL以上が9例(40.9%)であった.再燃は1例(4.3%)であり,死亡例は認められなかった.安全性の評価ではカプラシズマブによる重篤な出血イベントとして喀血並びに消化管出血がそれぞれ1例あり,カプラシズマブの投与が中止されていた13

ドイツ:対象は2018年6月から2019年12月にカプラシズマブ投与を受けたiTTP患者60例で,初発が46例,再発14例であった.患者の年齢の平均値は45.7歳(22~83歳)で,性別は女性が42例であった.血小板数の中央値は1.3万/μL(0.3~8.5万/μL)でヘモグロビン値の中央値は8.2 g/dL(5.0~13.6 g/dL),LDH値の中央値は985 IU/L(316~2,588 IU/L)であった.8例(13.3%)に明らかな精神神経症状が認められた.PLASMICスコアは全例が4点以上であり,13例(60%)が7点,22例(36.7%)が6点もしくは5点であり,4点は1例(1.7%)のみであった.32例でtroponinが測定されており,27例(84%)で正常上限より高値であり,心筋障害が示唆された.3例でクレアチニン値が2.0 mg/dL以上の腎障害が認められた.44例(73.3%)がICU入室にて治療が開始され,ICU在室期間の中央値は4日(0~46日)で,入院期間の中央値は18日(5~79日)であった.治療としては血漿交換とステロイド治療がほぼ全例に行われ,リツキシマブ投与は48例(80%)で,内11例(18.3%)では治療開始とともに投与が開始された.発症からリツキシマブ投与までの期間の中央値は7日(0~35日)であった.血漿交換の実施日数の中央値は9日(2~41日)で,カプラシズマブ開始後は4日(0~22日)であった.カプラシズマブ投与回数の中央値は34回(2~89回),投与期間の中央値は34日(2~211日)で,発症から投与開始までの中央値は3日(0~27日)であり,72時間以内の投与は35例(58.3%)で行われた.奏功は56例(93.3%)に認められたが,2例(3.3%)でカプラシズマブ投与期間中の再燃が認められた.治療抵抗性を示した症例は19例(31.7%)でカプラシズマブ非投与時に認められ,再発は2例(3.3%)であった.診断から血小板数の正常化までの日数の中央値は12日(3~152日)で,カプラシズマブ開始後から血小板数の正常化までの日数の中央値は3日(1~13日)であった.死亡は1例(1.7%)であり,重篤な出血症状は1例に認められ,赤血球輸血が必要とされた.出血症状の多くは鼻血や歯肉出血であり,カプラシズマブ投与の中止には至らなかった.6例で皮下注射部位の発赤が認められた14

スペイン:対象は2018年6月から2020年12月にカプラシズマブ投与を受けたiTTP患者77例で,初回治療として投与されたのが44例,治療抵抗性の19例,再燃の14例は2次治療として投与されていた.患者の年齢の平均値は47.1歳で,性別は女性が58例(75%)であった.臨床症状は貧血が53.2%,精神神経症状が55.8%,troponin値の上昇が50%,出血症状が58.4%,腎障害が34.7%の患者に認められた.血小板数の中央値は1.2万/μL(0.3~9.4万/μL),ヘモグロビン値の中央値は8.7 g/dL(5.7~16.6 g/dL),LDH値の中央値は1,040 IU/L(169~7,334 IU/L),クレアチニン値は0.95 mg/dL(0.45~2.78),ADAMTS13活性は0%(0~13),抗ADAMTS13抗体は3.3 BU(0~112.2)であった.ICU在室期間の中央値は2日(0~4日)で,入院期間の中央値は12日(9~15日)であった.血漿交換回数の中央値は8.5回(6~12.5回)であった.リツキシマブ投与は65例(84%)に行われ,初回治療として35例(54%),治療抵抗並びに再燃時に投与されたのが,それぞれ19例(29.2%),11例(16.9%)であった.血漿交換開始からカプラシズマブ投与までの日数の中央値は5日(2~11日)であり,投与期間の中央値は35日(31~40日)であった.カプラシズマブを初回治療として投与されたのが44例(57%)であり,治療抵抗並びに再燃の33例では2次治療として投与が行われた.奏功が得られるまでの期間の中央値は8.5日であり,初回治療並びに2次治療ではそれぞれ5日,15日であり,有意に初回治療が優れていた.そしてカプラシズマブが血漿交換開始から3日以内に投与されていた症例での血小板数の正常化にかかる日数の中央値は4日であり,投与が4~6日目であれば5日,7日目以降であれば14.5日かかることからカプラシズマブを早期に投与することで速やかな治療効果が得られることが示された.カプラシズマブを初回治療として投与された44例中,42例(95.5%)で寛解が得られ,再燃並びに治療抵抗を示した症例はそれぞれ2例(4.5%)ずつであった.死亡例は2例(4.5%)で,カプラシズマブとの関連性は認められなかった.安全性の評価では36%の患者に有害事象が認められ,16例(20%)の症例でカプラシズマブ投与後に出血症状をきたしたが,グレード2以上の出血症状は2例のみであった.出血症状の多くは歯肉出血(19%)と不正出血(10%)であり,半数は一時的な出血で,残りの半数はカプラシズマブの48時間以内の休薬のみで止血された15

フランス:対象は2018年9月から2019年12月にFrenchスコアが1もしくは2点にてTTPが疑われ,ADAMTS13活性が10%以下であることから診断が確定したiTTP患者90例で,患者の年齢の中央値は45歳(34~57歳)で,性別は女性が63例(70%)であった.初発が78例,再発が12例であった.臨床症状は精神神経症状が61%,心筋障害が56%,血小板数の中央値は1.2万/μL(1.0~2.0万/μL),ヘモグロビン値の中央値は8.9 g/dL(7.5~10.2 g/dL),LDH値の中央値は5.1 U/L(4.0~6.5 U/L),クレアチニン値は92 μmol/L(71~120),ADAMTS13活性は10%以下,抗ADAMTS13抗体は78 U/mL(39~91)であった.治療としてはまずは血漿交換とステロイド治療が開始され,続いてカプラシズマブが追加され,そしてFrenchスコアが2点であればリツキシマブの追加が行われた.そしてFrenchスコアが1点の場合にはADAMTS13活性が10%以下であることを確認したのちに4日目までにリツキシマブの追加投与が行われた.結果としてカプラシズマブが血漿交換と同時に開始されたのは47例で,開始後1日目が24例,2日目が8例,3日目が6例,4日目が5例であった.カプラシズマブの総投与期間は33日(29~38日),血漿交換後の投与期間は32日(28~37日)であった.12例でADAMTS13活性が20%以上となったため投与が30日未満で終了となった.80%の症例はFrenchスコアが2点でリツキシマブ投与が3日目までに行われ,Frenchスコアが1点の症例ではADAMTS13活性の結果を待って,4日目までに行われた.血小板数の回復は4日(4~6日),血漿交換の回数は5回(4~7回),ADAMTS13活性が20%以上に回復するのは28日(14~42日),入院期間は13日(9~19日)であった.治療抵抗性が1例(1.1%),再燃が3例(3.4%),再発が1例(1.1%)であり,死亡が1例(1.1%)であった.安全性については46例(51%)に有害事象が認められ,出血症状は30例(33%)に認められた.その多くは軽微な鼻出血や歯肉出血であり,懸念される重篤な出血は2例,非重篤な出血は11例に認められた.注射部位の腫脹は6例に認められ,血小板増加は19例に認められ,血小板数45~60万が11例,60~90万が7例,90万以上が1例であった.血栓症は11例(12%)に認められ,肺塞栓が5例,下肢深部静脈血栓症が3例,カテーテル関連血栓症が4例であった16

日本:対象は2019年1月以降に奈良医大のTMAレジストリーに登録されたiTTP患者の内,カプラシズマブ投与を受けた後天性TTP患者14例で,患者の年齢の中央値は71歳で,性別は女性が6例(42.9%)であった.血小板数の中央値は1.1万/μL(0.8~1.2万/μL),ヘモグロビン値の中央値は8.1 g/dL(7.5~9.1 g/dL),LDH値の中央値は1,086 IU/L(931~1,282 IU/L),クレアチニン値の中央値は1.01 mg/dL(0.68~1.51 mg/dL),総ビリルビン値の中央値は3.9 mg/dL(2.6~4.8 mg/dL),精神神経症状は11例(78.6%)に認められた.ADAMTS13活性は全例が0.5%以下であり,抗ADAMTS13抗体は8.0 BU(4.6~12.7 BU)であった.治療としては血漿交換療法並びにステロイド療法が全例に行われ,リツキシマブの投与は11例(78.6%)に行われた.カプラシズマブは血漿交換開始日もしくはその翌日から投与が開始されており,投与期間の中央値は49日(39.5~59.5日)であった.血漿交換の実施期間の中央値は8日(7~16.5日)で,血小板数の正常化にかかる日数の中央値は6日(5~7日)であり,血漿交換開始後からADAMTS13活性が10%以上に回復する日数の中央値は42日(31~55日),最終血漿交換日からでは35日(11.3~41.3日)であった.カプラシズマブ非投与群(16例)と比較検討にて血小板数の早期回復と血漿交換回数の減少が有意に認められた.その一方でADAMTS13活性の回復遅延が指摘され,その要因として血漿交換療法からの早期離脱により,抗ADAMTS13抗体が残存する可能性が指摘された17.カプラシズマブ治療例でのADAMTS13活性の回復遅延は英国からも報告18されているが,その一方でフランスやイタリアなどでは認められないことからさらなる検討が必要と考えられる(表1).

表1

Comparison of randomized controlled trial and real-world evidence data in caplacizmab-treated iTTP patients

Cohort/trial TITAN HERCULES UK Italy Germany Spain France Japan
Patiets (n) 36 72 85 26 60 77 90 14
Age (year) 41 (19–72) 45 (18–77) 46 (3–82) 53 (47–60) 45.7 (22–83) 47.1 45 (34–57) 71 (62.8–80)
Female (%) 67 68 66 77 70 75 70 42.9
Normalization of PLT (day) 3 2.69 3 4 3 4 4 6
TPE (day) 5.9 5 7 7 9 8.5 5 8
Refractory (%) 19 0 Not reported 0 31.7 6.5 1.1 Not reported
Exacrebation (%) 8 4 2 4.3 3.3 5.2 3.4 Not reported
Relapse (%) 31 8 3 Not reported 3.3 Not reported 1.1 Not reported
Death (%) 0 1.4 6 0 1.7 3.9 1.1 Not reported
Bleeding, any (%) 54 65 18 Not reported Not reported 20 33 Not reported
Bleeding, severe (%) 5.6 4.2 5.9 7.7 1.7 2.6 2.2 Not reported

6.カプラシズマブ再投与

対象はHERCULES試験に登録された104例で,75例がカプラシズマブ投与群(55例:カプラシズマブ投与割り付け,20例:非投与割り付けから病状悪化によりカプラシズマブ投与),29例が非投与群であった.観察期間中にカプラシズマブ投与群では11例(15%),非投与群で8例(28%)の計19例に再発が認められ,投与群で8例,非投与群で5例の計13例にカプラシズマブの再投与が行われた.残りの6例では妊娠や緩和医療への移行,担当医の判断などの理由により投与は行われなかった.再発時の治療効果はカプラシズマブが投与された全例で症状の改善が認められ,非投与例では6例中4例に改善が認められた.再々発は計6例で全例にカプラシズマブが投与され,奏功が得られた.安全性の評価ではカプラシズマブ投与群の91%に有害事象が認められ,頻度が高いものとしては頭痛(21%)とADAMTS13活性低下(17%)が挙げられた.出血イベントはカプラシズマブ投与群で21%,非投与群で31%であり,両群とも重篤なものは認められなかった.血栓塞栓イベントはそれぞれ3%と10%,死亡はそれぞれ0%と3%であった.カプラシズマブ再投与が行われた9例に出血イベント並びに血栓塞栓イベントの増加は認められなかった.認知機能並びにQOLの評価ではカプラシズマブ投与群が非投与群と比較してスコアの改善は良好であったが,臨床的には両群に有意差は認められなかった.以上の結果からカプラシズマブは再投与を含めて治療効果は良好であり,非投与群と比較して再発率が高くならないことが示された.安全性に関しても非投与群と同等であり,重篤な出血イベントは認められなかった.さらに再投与例においても重篤な有害事象を認めなかったことからカプラシズマブ再治療の有用性が示された19

7.まとめ

これまでの臨床試験並びにリアルワールドのデータを総合的に解析するとiTTPの死亡率は0~6%に低下していることが明らかとなった.そして出血イベントについてはカプラシズマブ投与により増加するも,重篤な出血イベントは1.7~7.7%であり,非投与群と比較してもほぼ同等であることが報告された.その主たる要因としてiTTP患者の5~12%に脳梗塞の合併があり,これがカプラシズマブ投与の有無に関わらず脳出血のリスクとなりうることが報告された20.いずれのコホートにおいても治療効果はカプラシズマブ投与群で良好であり,ADAMTS13活性回復の遅れがあってもADAMTS13活性が20%以上に回復していることを確認してから投与を終了することで再燃並びに再発を抑えられることが示唆された.

著者の利益相反(COI)の開示:

講演料・原稿料など(サノフィ)

文献
 
© 2024 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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