日本血栓止血学会誌
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特集:血液凝固制御系の基礎と臨床
血液凝固系と凝固制御系
秋田 展幸林 辰弥
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2024 年 35 巻 5 号 p. 572-580

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Abstract

血液凝固系は傷害局所の血栓形成による止血に重要であるが,血液凝固制御系によりその血栓形成は傷害部位に限局される.血液凝固系は,血漿中のセリンプロテアーゼ前駆体から活性型への逐次的活性化反応により進行し,フィブリノゲンがフィブリンに変換されることにより凝固塊を生成する.凝固制御系には,プロテアーゼインヒビターによる凝固制御系とプロテインC凝固制御系がある.プロテアーゼインヒビターによる凝固制御系においては,主にアンチトロンビン,組織因子経路インヒビターなどが関与している.またプロテインC凝固制御系においては,プロテインCが血管内皮細胞膜蛋白質のトロンボモジュリンと複合体を形成したトロンビンによって活性化され開始される.本稿では,血液凝固系とともにプロテアーゼインヒビターによる凝固制御系やプロテインC凝固制御系について,その生理的役割とともに構造と機能について概説する.

1.血液凝固系と凝固制御系

1)血液凝固系

血液凝固は,血管傷害部位の止血および創傷治癒に重要な役割を果たす反応である.生理的な止血機序は,血管壁の傷害により露呈された傷害組織基底膜のコラーゲンに血小板が粘着および凝集することにより血小板血栓が形成される1.次いで,傷害内皮に凝固開始因子である組織因子(tissue factor: TF)が露呈され,血液凝固第VIIa因子がTFと複合体を形成し,生成した複合体が第X因子および第IX因子を活性化することにより凝固反応が活性化される.このようなTF依存性に開始される凝固反応は外因系凝固経路と呼ばれる.一方で,粘着・凝集により血小板が活性化された際に血小板からの放出反応が惹起されるが,その際放出されたポリリン酸,あるいは血管傷害部位のコラーゲンなどの種々の陰性荷電物質の存在下で第XII因子が第XIIa因子に活性化され,生成した第XIIa因子はプレカリクレインをカリクレインに活性化し,生成したカリクレインはさらに第XII因子の第XIIa因子への活性化を促進する.一方で,第XIIa因子は第XI因子を第XIa因子に活性化した後,外因系凝固経路との共通経路である第IX因子の第IXa因子への活性化,続いて第X因子の第Xa因子への活性化につながる.この第XII因子の活性化により開始される反応はTFと複合体を形成した第VIIa因子により開始される外因系凝固経路に対して内因系凝固経路と呼ばれる.外因系凝固経路,内因系凝固経路ともに,最終的にはプロトロンビンが第Xa因子により活性化されることによるトロンビンの生成につながり,トロンビンによる部分分解により可溶性のフィブリノゲンから不溶性のフィブリンが生成し,同時に,トロンビン(IIa)は第XIII因子を活性化し,生成した第XIIIa因子はフィブリンを架橋型フィブリンとし,安定化する(図1).さらに,トロンビンは血小板を直接活性化することにより,血管損傷部位の血小板リッチプラグの形成を促進する.第VII因子,第X因子,第IX因子およびプロトロンビンは,それらのN末端側にγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基を有するビタミンK依存性の凝固因子であり,Gla残基が陰性荷電を有することから,これらの因子の活性化の際には血中のカルシウムを介して陰性荷電リン脂質上で濃縮されるため,これらの因子の活性化反応はリン脂質により著しく促進される.トロンビンの生成は,外因系凝固経路による共通経路の活性化によりさらに促進される.すなわち,TFと第VIIa因子の複合体は第IX因子を活性化するが,TFと第VIIa因子と第Xa因子の複合体は第VIII因子を活性化することができる2.また,生成したトロンビンはポジティブフィードバック機序により内因系凝固経路の第XI因子を直接活性化することにより,さらにトロンビンの生成を促進する3.このような増幅機序も相まって,生体は創傷部位において迅速かつ効率的な止血栓を形成することができる4

図1

血液凝固系とその制御系

AT:アンチトロンビン,HCII:ヘパリンコファクターII,ZPI:プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター,PN1:プロテアーゼネキシン1,C1INH:C1インヒビター,TFPI:組織因子経路インヒビター,EPCR:血管内皮プロテインCレセプター,PCI:プロテインCインヒビター.

一方で,凝固の過剰な活性化は,心血管疾患や脳血液疾患の要因となることが知られており,その上,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)や肺塞栓症(pulmonary embolism: PE)を含む静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)などの血栓性障害の誘因となる5.これまでに,ワルファリン,トロンビン阻害剤や第Xa因子阻害剤などが血栓症治療薬としては実用化されているが,最近では,第XI(a)因子に対する様々な阻害剤が開発され,臨床試験が実施されている6

2)凝固制御系

(1)プロテアーゼインヒビターによる制御系

プロテアーゼインヒビターによる制御系では,凝固系の活性化により生成した活性型向凝固プロテアーゼを,その出来高に応じてそれぞれのプロテアーゼに特異的なプロテアーゼインヒビターが阻害する(図1).その系には,セリンプロテアーゼインヒビター(SERPIN)に分類されるアンチトロンビン(AT),ヘパリンコファクターII(HCII),プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター(ZPI),プロテアーゼネキシン1(PN1),C1インヒビター(C1INH),α1アンチトリプシン(α1AT),プロテインCインヒビター(PCI)およびKunitz型インヒビターに分類される組織因子経路インヒビター(TFPI)などが含まれる.表1には,種々のSERPINの標的プロテアーゼと阻害速度定数を示す.SERPINは3つのβシートと8~9つのαヘリックスからなる二次構造から形成されるコア構造ドメイン(図2)を保持し7,加えて,SERPINはそれぞれのプロテアーゼ特異性の決定に重要である反応中心ループ(RCL)を含んでいる8.RCLはSERPINの反応中心を含む16~17個のアミノ酸残基である(図29.標的プロテアーゼはSERPIN分子中のRCLを介してSERPINに結合し,可逆的な複合体を形成する.RCLはプロテアーゼによる切断部位(反応部位)を含んでおり,プロテアーゼによる切断部位のC末端側をP’,切断部位のN末端残基をPと表現する(図210

表1

主な凝固制御セルピンと標的酵素

Protein Gene Molecular Weight (kDa) Coagulation targets Rate constant (M-1 s-1) Non-coagulation targets Rate constant (M-1 s-1)
α1AT SERPINA1 53 FXa 1.3 × 102 NE 1.3 × 107
FXIa 1.0 × 102 PR3 8.1 × 106
CG 4.1 × 105
PCI SERPINA5 46 FIIa 2.4 × 106tm
APC 1.5 × 106h
FXIa 7.4 × 105h
PKa 1.8 × 105h
FXa 9.0 × 104h
ZPI SERPINA10 72 FXIa 7.7 × 105h
FIXa 5.4 × 105
FXa 3.6 × 105h
AT SERPINC1 58 FIIa 6.1 × 107h
FXa 4.4 × 107h
FIXa 9.0 × 106h
PKa 1.9 × 105h
FXIa 1.5 × 103ds
HCII SERPIND1 65 FIIa 4.5 × 108h
FXa 3.0 × 105h
PN1 SERPINE2 50 FIIa 1.2 × 109h Trypsin 1.0 × 107h
FXIa 1.7 × 106h uPA 9.6 × 105
FXa 3.5 × 105h Plasmin 1.0 × 105h
C1INH SERPING1 105 PKa 2.9 × 106 C1r
FXIIa 4.3 × 105 C1s 3.4 × 105
FXIa 2.1 × 105ds Plasmin
FIIa 1.3 × 104 tPA

tm:トロンボモジュリン存在下  h:ヘパリン存在下  ds:デルマタン硫酸存在下

α1AT:α1アンチトリプシン  PCI:プロテインCインヒビター  ZPI:プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター

AT:アンチトロンビン  HCII:ヘパリンコファクターII  PN1:プロテアーゼネキシン1  C1INH:C1インヒビター

APC:活性化プロテインC  NE:好中球エラスターゼ  PR3:プロテイナーゼ3  CG:カテプシンG

uPA:ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ(文献2から引用,改変)

図2

セルピンと反応中心ループ

(A)プロテアーゼがアクセス可能なRCLを持つATのネイティブコンフォメーションにおける結晶構造.(B)RCLが埋もれアクセスできない潜在的コンフォメーションにおける結晶構造.(C)ヘパリン存在下でのATとトロンビンとの複合体の結晶構造.(D)RCLのP4-P4’領域にあるSEPRINのアミノ酸残基.α1AT:α1アンチトリプシン,PCI:プロテインCインヒビター,ZPI:プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター,AT:アンチトロンビン,HCII:ヘパリンコファクターII,PN1:プロテアーゼネキシン1,C1INH:C1インヒビター.(Steven P, et al. F Cardiovascular Medicine, 9, 1–20, 2022から引用,改変)

AT,C1INH,HCII,PCI,PN1を含むほとんどのSERPINのプロテアーゼに対する阻害活性は,ヘパリンのような陰性荷電を有するグリコサミノグリカン(GAG)と結合することによって数千倍にも増強される(図311ことが知られており,臨床的に未分画ヘパリン製剤や低分子ヘパリン製剤などの血栓症予防薬としてVTE予防に活用されている12.本稿では,紙面の都合上,SEREPINに絞って概説する.

図3

内皮細胞上のセルピンの機能部位

AT,HCII,ZPI,C1INH,PCIは血漿中に存在するが,PN1は血小板α顆粒に存在し血小板の活性化により放出される.内皮表面のグリコサミノグリカン(GAG)または蛋白質補酵素と結合し,標的プロテアーゼの阻害を増強する.AT:アンチトロンビン,HCII:ヘパリンコファクターII,ZPI:プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター,C1INH:C1インヒビター,PCI:プロテインCインヒビター,PN1:プロテアーゼネキシン1.(Steven P, et al. F Cardiovascular Medicine, 9, 1–20, 2022から引用,改変)

①アンチトロンビン(AT)

ATは,肝臓で産生される血液凝固制御セルピンであり,トロンビン,第Xa因子,第XIa因子,第IXa因子(表1)などのほとんどすべてのプロテアーゼ凝固因子を阻害するが,生理的にはトロンビンおよび第Xa因子の阻害因子として重要である.AT分子上には,既述のように凝固因子の活性部位との相互作用に関与するRCLと,ヘパリンとの相互作用に関与するヘパリン結合部位があり,ヘパリンは,この部位を介してATとトロンビンを橋渡しすることによりAT活性が増強される(bridging mechanism).またAT欠損症は,SERPINC1遺伝子の異常に起因し,大きく量的異常(I型欠損症)および質的異常(II型欠損症)に分類され,ヘテロ接合体のAT欠損症であっても,血栓症のリスクを有意に増加させることは様々な研究で明らかになっているおり13,全VTE事象の1~2%がAT欠損症と関連している14こと,およびAT欠損症患者では,50歳までに50%の確率でVTEを発症する15ことが報告されている.

②ヘパリンコファクターII(HCII)

HCIIは,トロンビンを強力に阻害するが,第Xa因子に対する阻害活性は著しく弱い(表116.ATと同様に,ネイティブHCIIのトロンビン阻害活性は低く,GAGに結合すると,不活性型HCIIは活性型へとコンフォメーションが変化し,部分的に取り込まれたRCLが分子表面に露呈され,標的プロテアーゼに対する阻害活性が著しく増強される(allosteric mechanism)17.HCIIはヘパラン硫酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸を含む多くのGAGによって活性化される18.HCIIは,抗凝固機能に加え,血管保護機能が報告されている19.ヘテロ接合体またはホモ接合体のHCII欠損マウスでは,損傷を受けた動脈での内膜過形成が観察され20,両マウスをApoE欠損マウスに交配すると,動脈硬化病変の進展が亢進することが示されている19

③プロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター(ZPI)

ZPIは,ビタミンK依存性プロテインZ(PZ)と複合体を形成し,第Xa因子,第XIa因子を阻害する(表121.ZPIの第Xa因子と第XIa因子に対する阻害活性は,リン脂質,カルシウムおよびヘパリンにより増強される22.ZPI欠損マウスあるいはPZ欠損マウスでは,塩化第二鉄誘発性の頸動脈閉塞モデルによる閉塞率および死亡率が増加すること23,第VIII因子欠損ZPI欠損マウスあるいは第VIII因子欠損PZ欠損マウスでは,血漿トロンビン生成が亢進することにより出血時間を有意に短縮された24ことから,ZPIあるいはPZの抗凝固活性の調節の血友病治療への応用が期待される.

④プロテアーゼネキシン1(PN1)

PN1は,トロンビンと第XIa因子を強力に阻害する一方で(表125,トリプシン,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ,プラスミンに対しても弱い阻害活性を示す26.他のSERPINと同様に,PN1の標的プロテアーゼに対する活性はヘパリンによって著しく増強される26.しかしながら,ほとんどの抗凝固SERPINとは異なり,PN1は肝臓では産生されないため,血漿中には検出可能なレベルのPN1は存在しないが,PN1は脳,心臓,脾臓,腎臓,肺を含む他の多くの組織で発現され,血小板や単球にも存在する27.PN1欠損マウスでは,腸間膜静脈および動脈血管の塩化第二鉄傷害モデルにおいて血栓形成が著しく亢進することが報告されている28

⑤C1インヒビター(C1INH)

C1INHは,主として肝臓で産生されるが,血小板α顆粒にも存在し血小板の活性化により放出される.C1INHは,主に第XIIa因子,第XIa因子および血漿カリクレインを阻害する(表1)が,プラスミン,組織プラスミノーゲンアクチベータなども阻害する29.C1INHの第XIa因子阻害活性はGAGにより促進され,第XIIa因子阻害活性はGAGにより抑制される30, 31.また,C1INHによる補体系プロテアーゼであるC1sの阻害はポリリン酸により促進される32.ヒトではC1INHをコードするSERPING1遺伝子の異常により遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)と呼ばれる病態が引き起こされるが,C1INH欠損ではその量的異常(I型欠損症)あるいは質的異常(II型欠損症)により,そのヘテロ接合体性の欠損症においても血漿カリクレインによるブラジキニンの過生成に起因する血管透過性の亢進を来し,それにより浮腫が引き起こされ,ホモ接合体性の欠損では重篤な場合には窒息死に至ることもある33.加えて,第XII因子遺伝子の異常に伴うgain of functionによりHAEを発症した例も報告されている34.ごく最近のC1INH欠損マウスを用いた研究では,C1INHは静脈における血栓形成を調節していることも明らかになっている35

⑥α1アンチトリプシン(α1AT)

α1ATは,主に肝臓で産生されるが,単球やマクロファージでもその産生が確認されており,主として好中球エラスターゼの生理的阻害因子として機能し,弱いが第Xa因子と第XIa因子も阻害する(表1).また,α1ATはプロテイナーゼ3やカテプシンGを含む他の好中球関連プロテアーゼの強力な阻害因子としても機能する.GAGは多くのSERPINのプロテアーゼ阻害活性を高めるが,α1ATでは,ヘパリンによりそのプロテアーゼ阻害活性が抑制されることが報告されている.一般的にα1AT欠損症では肺気腫を発症することが知られているが36,最近の臨床研究により,健常人に比較して,重度のα1AT欠損症がVTEを発症するリスクの増加に関わることが報告されている37, 38

⑦プロテインCインヒビター(PCI)

PCIは,トロンビン-TM複合体および活性化プロテインC(APC)の生理的な阻害因子で,プロテインC凝固制御系の行き過ぎを制御していると考えられている39が,その欠損症の報告はない.加えて,PCIはトロンビン-TM複合体によるTAFIの活性化を制御する.一方で,PCIはトロンビン,第Xa因子,第XIa因子,血漿カリクレインを含むいくつかの向凝固セリンプロテアーゼも阻害することにより抗凝固因子としても機能する(表140.PCI遺伝子欠損マウスの雄では精子不全形成が認められることから,PCIは生殖機能,特に精子の形成過程に重要であり,不妊症患者ではPCI発現が低下するとの報告もある41

(2)プロテインC凝固制御系

プロテインC(PC)とプロテインS(PS)は,主として肝臓で産生・分泌されるビタミンK依存性のタンパク質であり,プロテインCはセリンプロテアーゼ前駆体で,血管内皮細胞上のTMと複合体を形成したトロンビンにより限定分解を受け,活性型プロテインC(APC)となる.APCは活性型凝固補酵素蛋白質である第Va因子や第VIIIa因子を分解・失活化するが,その際,補酵素として機能するのがPSであり,PSは血液中ではその約40%が補体系制御因子であるC4b結合蛋白質との複合体型として,約60%が遊離型として存在し,遊離型のみがAPCの補酵素として機能する.一方,血管内皮細胞上にはTMとともに,PC/APC受容体(EPCR)が存在し,EPCRはトロンビン-TM複合体によるPCの活性化を促進するとともに,血管内皮細胞上にAPCを濃縮する役割を有する.

①プロテインC(PC)

PCは,ビタミンK依存性のセリンプロテアーゼ前駆体であり,トロンビン-TM複合体により活性化され,生成したAPCは第Va因子および第VIIIa因子を分解・失活性化することにより凝固を抑制する.PCはまた,炎症と敗血症の制御にも関与することが知られており,細胞保護機能が明らかにされているが,その保護機能の発現には,プロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)のトロンビンにより切断される部分とは異なる部分での切断が関与していることが報告されている42.先天性PC欠損症はPROC遺伝子の突然変異に起因し,これまでに多数のPROC遺伝子変異が報告されており,PCの量的異常(I型欠損症)あるいは質的異常(II型欠損症)を示し,ヘテロ接合体性の異常では軽度のPC欠乏症を引き起こし,血栓症のリスクとなるが43,ホモ接合体の変異を有する個体は重度のPC欠乏症を呈し,出生時に電撃性紫斑病を発症する例も報告されている44

②トロンボモジュリン(TM)

TMは,血管内皮細胞上のトロンビン受容体であり,抗凝固セリンプロテアーゼ前駆体であるPCのAPCへの活性化のコファクターとして機能することにより抗凝固因子として機能し,トロンビンによるTAFIの活性化のコファクターとして機能することにより抗線溶因子としても機能する.TAFIは部分的に分解されたフィブリンのC末端リジンを切断し,プラスミノーゲンのフィブリン表面への結合を阻害することによりその活性化を阻害する.TMは,細胞外領域,膜貫通領域,細胞内領域の3つの領域から構成され,細胞外領域は,N末端C型レクチンファミリーに相同性の高いレクチン様ドメイン,6個のタンデムに繰り返される上皮成長因子(epidermal growth factor: EGF)構造を含むEGF様ドメイン,セリンあるいはスレオニン残基に結合した糖鎖に富むO型糖鎖結合ドメインからなる.これまでに,トロンビンによるPCの活性化には第4~第6EGF様構造が,TAFIの活性化にはそれに加えて第3EGF様構造のCループが重要であることが明らかになっている45.TM欠損マウスでは胎生期における致死が観察されていること46から,その血液凝固制御における生理的重要性については不明確であったが,最近,2例の先天性TM欠損症が報告された.両者ともホモ接合体性の欠損症として報告されており,いずれにおいても凝固線溶マーカーは増加するが出血症状を呈していたことからTMの血液凝固制御における役割に興味が持たれる47, 48

③プロテインS(PS)

PSは,APCによる第Va因子と第VIIIa因子の不活化を促進する補酵素として機能する.PS欠損症は,PROS遺伝子の突然変異に起因し,そのヘテロ接合体性の欠損症でも血栓症を発症し,他の凝固制御因子異常症とは異なり,量的異常(I型欠損症),質的異常(II型欠損症)および活性を有する遊離型PSの低下(III型欠損症)に分類される.分子異常PS徳島では第2EGFドメイン上のLys155がGluに変異することによりAPCコファクター活性が消失していたことから,PSの第2EGFドメインがAPCとの相互作用に重要であるという報告49がある一方で,PSの第1EGFドメイン中のAsp95もAPC補酵素活性に重要であることが明らかになっている50.APCは,第Va因子のArg306およびArg506を切断することにより失活化するが,プロテインSは,APCによるArg306の切断を促進する51.一方で,PSはTFPIの補因子としても機能するが,PSはその性ホルモン結合グロブリン様領域を介してTFPIの第3クニッツドメインに結合することにより,TFPIの第Xa因子阻害活性を4~10倍促進することが報告されている52, 53

④血管内皮プロテインC受容体(EPCR)

EPCRは,単球,好中球,好酸球などの白血球に存在し,トロンビン-TM複合体によりプロテインCの活性化を促進する54.APCの受容体としても機能することから,APCによるPAR-1の切断にも関与する55.EPCR欠損症の報告はないものの,ホモ接合体性のEPCR欠損マウスでは胎盤梗塞による胎生致死が明らかになっていることから,EPCRの血液凝固制御および発生における重要性が示唆されている56.加えて,最近では凝固第VIIa因子の受容体としても機能し,PAR-1と共に第VIIa因子依存性の抗炎症作用発現にも関係することが報告されている57.また,マラリア原虫感染において,寄生虫がEPCRに結合することにより重症化する可能性が示唆されている58

2.おわりに

血液凝固系および凝固制御系について概説した.プロテインC凝固制御系に関わる因子の詳細については本号における他稿に譲るとして,本稿では,特に,プロテアーゼインヒビターによる凝固制御系に関わるSERPINについて,最新の知見をふまえて概説した.血栓症予防薬として,活性型凝固因子阻害剤と共に標的凝固プロテアーゼに対する選択性と特異性を変化させたSERPINの開発・研究も続けられており,今後も血液凝固系,凝固制御系に関する研究の益々の進展が期待される.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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