2024 年 35 巻 6 号 p. 666-674
オートファジーは主要な細胞内分解システムであり細胞の恒常性維持に働く.近年,ヒトの重篤な疾患にオートファジー関連遺伝子の変異が同定されたことや,オートファジー関連遺伝子改変動物を用いた疾患・老化モデルでの検証から,オートファジーの調節不全が様々な疾患や老化の進行に関与することが明らかとなった.またオートファジーが老化の進行を抑制する機構についても解明が進み,選択的な基質の分解やinflammagingの抑制によることが明らかになりつつある.さらには食事や運動など健康のために重要とされている生活習慣が,オートファジーの活性化を介して長寿や健康増進をもたらしうることも判明した.本項ではこれら明らかになりつつあるオートファジーと疾患・老化・生活習慣に関する最新の知見を概説した上で,最後にオートファジーの創薬への応用の可能性と現状の課題について述べる.
オートファジーはプロテアソーム系と並ぶ細胞内の主要な細胞内分解システムであり,その細胞内での主な働きは,栄養が不足した際に細胞が自身の一部を分解することにより栄養素を自給自足する働き,常時少しずつ起こっている細胞成分の代謝回転(新陳代謝),細胞内の不要あるいは有害な物質を分解することによる細胞内の恒常性を保つ働き,の3つに大きく分けられる.このようなオートファジーの働きのうち,栄養源確保・代謝回転に関しては細胞内の非選択的な分解である「非選択的オートファジー」が主体となり行われる一方で,細胞内恒常性維持に関してはタンパク凝集体・病原体やミトコンドリア・小胞体などのオルガネラを選択的に分解する「選択的オートファジー」が主体となり行われる.
また近年オートファジー関連遺伝子欠損マウスを用いた解析などにより,細胞内にとどまらず生体内でのオートファジーの働きについても研究が進められてきた.その結果オートファジーは細胞成分分解に伴う栄養源確保により飢餓や低酸素などのストレス時の生体恒常性維持に働くと同時に,凝集タンパクや異常な細胞内小器官(ミトコンドリアや小胞体)の除去を介した細胞内浄化作用により様々な疾患に関わることが報告された(詳細は「3. オートファジーと疾患」の項参照).さらにオートファジーは発生・分化,自然免疫,抗原提示やがんにも関わることが明らかとなった.
オートファジーはその過程においてまず隔離膜が形成され,その後隔離膜は細胞成分を取り囲みながら伸長していった後,閉鎖しオートファゴソームとなる.形成されたオートファゴソームはリソソームと融合しオートリソソームが形成され細胞成分は分解される.このような多段階からなるオートファジーの各過程はオートファジー関連遺伝子(Autophagy related gene: Atg)群をはじめとする多数の遺伝子群の精密な働きにより遂行される.オートファジーの分子機構の詳細については他の総説1)を参照されたい.その中でも①オートファジーの生体内での役割を検討するための研究で広く用いられてきた「オートファジー不全マウス」の多くは,隔離膜伸長に関与するAtg5やAtg7を組織特異的に欠損したマウスモデルであること,また②隔離膜伸長・閉鎖に関与するATG8(酵母;哺乳類ではLC3やGABARAPなどATG8の複数のホモログが存在)はオートファゴソーム膜上にも安定して存在するためオートファゴソームのマーカーとして広く用いられていること,は重要である.
選択的オートファジーに関しては長らくその分子機構は不明点が多かったが近年の研究によりその詳細が解明されつつある.詳しい知見については他の総説2)を参照されたいが,選択的オートファジーの機構としてはおおまかには,①選択的オートファジーによる分解標的基質(=カーゴ)がユビキチン化を受ける,②アダプタータンパクがユビキチン化を受けたカーゴを認識する,③アダプタータンパクがカーゴをオートファゴソーム内に隔離する,ことにより進行する.なおアダプタータンパクはp62,NBR1,OPTN,NDP52,TAX1BP1など複数知られており,これらのアダプタータンパクはユビキチン化結合部位とAtg8結合配列(Atg8-interacting motif: AIM)をもつため,ユビキチン化を受けたカーゴとオートファゴソームの両方と結合し,カーゴをオートファゴソーム内へ隔離することにより選択的オートファジーを可能とする(図1A).なお近年の研究からアダプタータンパクを介さない選択的オートファジーも明らかになった.例えばミトコンドリアや脂肪滴,小胞体の膜上に存在するタンパクや一部の転写共役因子の中にはタンパク自体にAIMをもち,アダプタータンパクを介さず直接オートファジーにより分解されることが明らかとなった(図1B).

選択的オートファジーの分子機構.選択的オートファジーにはユビキチン化を受けたカーゴがアダプタータンパクを介して分解される機構(A)とアダプタータンパクを介さずに,カーゴに存在するAtg8結合配列を介して直接分解される機構(B)とが存在する.
近年,①オートファジー関連遺伝子の変異がヒトの疾患と密接に関連することが判明したこと,②全身あるいは細胞種特異的にオートファジーを欠損した動物モデルでの詳細な検証により,オートファジーが様々な疾患と密接に働くことが判明した.
1)ヒトにおけるオートファジー関連遺伝子変異近年オートファジー関連遺伝子の変異がヒト疾患,特に神経変性疾患の原因遺伝子として相次いで報告されている.具体的にはオートファジーの遂行に必須の遺伝子であるAtg5やAtg7の変異により小児期からの神経変性疾患が生じることが明らかとなった.また選択的オートファジーに関わる遺伝子の変異によっても疾患が生じる.マイトファジー(ミトコンドリア選択的オートファジー)に関わるPink1やParkinの異常ではParkinson病が生じること,選択的オートファジーに関わるp62・Optnの変異では筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患が生じること,ERファジー(小胞体選択的オートファジー)に関わるFam134bの変異ではニューロパチーが生じることが明らかとなった.さらには遺伝子多型とヒト疾患との関連の研究はオートファジー分野でも広く行われており神経変性疾患のみならず自己免疫疾患とオートファジーとの密接な関連も明らかとなった.具体的には全身性エリテマトーデスはAtg5・Atg7・Map1lc3b,Crohn病はUlk1・Atg4c・Atg9a・Atg16l1などの遺伝子多型により生じることが明らかとなった.そのほかにも様々なヒト疾患とオートファジー関連遺伝子との関連が近年次々と判明している(表1)1).
オートファジー関連遺伝子とヒト疾患との関連
| オートファジー関連遺伝子の変異が原因となる遺伝性疾患 | ||
|---|---|---|
| 疾患 | 遺伝子 | 遺伝子の働き |
| Core ATG | ||
| 神経性疾患 | Atg5(発達遅滞を伴う運動失調),Atg7(知的障害,運動失調,振戦),Wipi2(知的障害,低身長,骨格異常),Wipi3(痙攣性四肢麻痺,神経発達障害),Wipi4(神経変性症) | オートファゴソーム形成 |
| 選択的オートファジー関連遺伝子 | ||
| 筋萎縮性側索硬化症 | p62,Tbk1,Optn | 選択的オートファジー |
| 小児発症神経変性疾患・遠位型ミオパチー | p62 | |
| 骨ページェット病 | p62 | |
| 緑内障 | Tbk1 | |
| パーキンソン病 | Pink1,Parkin | マイトファジー |
| 遺伝性感覚神経障害 | Fam134b | ERファジー |
| Troyer症候群 | Spartin | リポファジー |
| オートファジー関連遺伝子の多型が危険因子となる疾患 | ||
| Core ATG | ||
| クローン病 | Ulk1,Atg4c,Atg9a,ATtg16l1,Atg16l2 | オートファゴソーム形成 |
| 全身性エリテマトーデス | Atg5,Atg7,Map1lc3b,Atg16l2 | |
| Huntington病 | Atg7,Atg16l1 | |
| 気管支喘息・Behcet病・脳性麻痺 | Atg5 | |
| 代謝異常関連脂肪性肝疾患,胆管癌 | Atg7 | |
| 慢性閉塞性肺疾患 | Atg16l1 | |
| 選択的オートファジー関連遺伝子 | ||
| クローン病 | Ndp52 | 選択的オートファジー |
| 骨ページェット病 | Optn | |
| 肺線維症 | Tollip | |
これまでに判明している組織特異的オートファジー欠損マウスの解析によりオートファジーが関わるとされる代表的な疾患の一覧を表2に示した3).この動物実験の結果からは,①分裂能の乏しい終末分化細胞(神経・心筋細胞や記憶T細胞)はそのプロテオスタシスの維持のために,オートファジーが他の細胞よりも相対的に重要であること,②オートファジーは特に加齢性疾患に密接に関わること,が推察される.一方で前項で述べたようにオートファジー関連遺伝子変異・遺伝子多型で起こってくる疾患はこのうちのごく一握りである.それでは遺伝子変異・多型解析によりオートファジー関連遺伝子との関係性を認めなかった疾患はヒト疾患とは関係ないのであろうか.表2に示した疾患の多くはオートファジーが加齢や食事などの生活習慣をはじめとする環境因子により調節不全をきたすことが近年の報告により示されており,このことから考えると,これらの疾患はオートファジーが根本原因ではないにせよ実際の患者においてはオートファジーの調節不全が起こり,病態の発症・増悪に関与しているものと類推される.
動物実験から判明した,オートファジーが関わるとされる代表的な疾患
| 臓器 | 疾患 |
|---|---|
| 神経変性疾患 | Alzheimer病,Parkinson病,筋萎縮性側索硬化症 |
| 心血管疾患 | 虚血再灌流障害,心筋症,動脈硬化症 |
| 肺疾患 | 慢性閉塞性肺疾患,肺線維症 |
| 肝疾患 | 慢性肝炎,肝硬変 |
| 腎疾患 | 急性腎障害,慢性腎臓病 |
| 生殖機能障害 | 男性不妊,女性不妊,子宮内膜症 |
| 筋骨格疾患 | サルコペニア,変形性関節症,骨粗鬆症 |
| 癌 | 乳癌,メラノーマ,膵癌,肺癌 |
| 免疫疾患 | 細菌・ウィルス感染,自己免疫性腸疾患,SLE |
| 代謝性疾患 | 肥満,2型糖尿病,代謝機能障害関連脂肪肝疾患 |
上記のように遺伝子改変マウスを用いた研究(表2)からオートファジーが特に加齢性疾患に密接に関わることが示唆されたが,この要因はわかっているのであろうか.近年の研究により,オートファジーの異常が老化の要因となることが判明している.すなわちこれまでの研究から①オートファジーは加齢により低下すること,②様々な長寿モデルにおいてオートファジーが活性化しており,これら長寿モデルの寿命延長にはオートファジーの活性化が必要であること,③オートファジーの障害は老化を増悪する一方でその活性化は老化を抑制すること,が明らかとなっている.実際昨年10年ぶりに改訂された “Hallmarks of aging”4)においてオートファジーの異常が「老化の12の要因」の一つであることが追記され,このことからもわかるようにオートファジーの異常が老化・加齢性疾患において中心的な役割を果たすことは広く認識されている.
1)オートファジーの加齢による影響と長寿パラダイム近年多くの生物において加齢とともにオートファジー活性の異常をきたす5)ことが判明している.一方で加齢に伴うオートファジーの異常が生じる機構は一つではなく,オートファゴソーム形成異常,Rubicon増加,リソソーム機能低下,などからなる複数の病態の組み合わせにより生じると考えられる6, 7).
加齢によりオートファジー活性異常が生じる一方で,長寿パラダイム(生物種を超えて保存された老化を遅らせ寿命を延ばすことができる多くの遺伝的経路や環境介入.食事制限,AMPキナーゼの活性化,mTORの活性低下などが含まれる.)では共通してオートファジーの活性化を認めることが明らかとなっている.さらに長寿パラダイムの寿命延長はオートファジー関連遺伝子を必要とすることから,この寿命延長はオートファジー活性の亢進を介すると考えられる8).またヒトでも百寿者のリンパ球におけるオートファジーの活性化が報告されており9),長寿とオートファジー活性化との関連が示唆されている.
2)オートファジーの障害・活性化と老化多くのモデル動物を用いた実験により遺伝学的にオートファジーを欠損すると,老化や加齢性疾患の増悪を認める一方でオートファジー関連遺伝子の過剰発現により老化が抑制されることが判明している.マウスではオートファジー関連遺伝子の全身ノックアウトは発生期や生後すぐに死に至るため老化の表現型は長らく不明であったが,最近開発された脳以外の全身Atg5を薬物誘導性に抑制可能なマウスモデルを用いて2ヵ月齢からオートファジー不全を誘導したところ,複数の臓器の加齢性変化と寿命の短縮(中央値6ヵ月齢で死亡)を認めた10).また組織特異的オートファジー不全マウスを用いた多くの研究により,加齢に伴う臓器機能低下や加齢性疾患モデルがオートファジー不全により加速することが明らかとなった3).さらにAtg5の過剰発現11),Becn1-Bcl-2複合体形成の阻害(Becn1F121A/F121A)12),オートファジーの負の制御因子Rubiconの欠損6, 13)によるオートファジー活性化マウスモデルでは寿命の延伸,運動能の改善,加齢性疾患の改善を認めた.以上からオートファジーの活性化は,多様な生物種間で保存された,老化を遅らせ健康寿命を促進する効果的なアプローチである.
オートファジーが臓器や個体の老化を抑制する機構として,近年選択的なオートファジーを介する機構やinflammagingとよばれる加齢に伴う慢性的な低グレードの炎症状態をオートファジーが制御するという知見が集積しつつある.
1)選択的オートファジーと老化老化や加齢性疾患は損傷オルガネラの蓄積と関連しており,細胞や臓器の恒常性を維持するためには機能不全に至った損傷オルガネラを適切に除去する必要があるため選択的オートファジーによる損傷オルガネラの除去は老化と密接に関わる.ここでは老化に関わる選択的オートファジーを3つ紹介する14).
まず第一にオートファジーによる選択的な損傷ミトコンドリアの除去を示すマイトファジーであるが,マイトファジーの活性は老化に伴い低下し,老化や多くの加齢性疾患に共通して認める特徴である機能不全ミトコンドリアの蓄積の根本的な原因となる.同時にマイトファジーの遺伝的阻害が線虫やショウジョウバエの運動能低下や寿命短縮につながる一方で,マイトファジーの誘導はショウジョウバエの寿命延長や加齢性疾患の改善につながることからマイトファジーの老化への関与が示された.さらに老化におけるinflammagingの増悪には損傷ミトコンドリアからの細胞質へのミトコンドリアDNAの放出が重要な役割を果たすことが近年明らかとなったが,マイトファジーは細胞質へのミトコンドリアDNAの放出を抑制することによりinflammaging,引き続く老化の進展を抑制する働きをもつ15).
第二に細胞内の脂肪滴を分解するリポファジーもまた老化を制御する.老化に伴いリポファジー活性の低下が生じる一方で,長寿変異体の線虫や食事制限でリポファジーは活性化する.リポファジーによる寿命制御機構としてはリポファジーの結果リソソームで分解・産生される脂質種が重要な役割を果たす.すなわちリポファジーにより産生された脂質種の一つOEA(fatty acid oleoylethanolamide)が,核に移行し核ホルモン受容体49(NHR-49)やNHR-80を活性化することにより長寿に至る16)とする報告や,脂肪組織のリポファジーにより産生された脂質種であるdihomo-γ-リノレン酸(DGLA)が神経系に運搬され神経系でのNHR-49を活性化しニューロペプチドNLP11の産生を促進する作用により寿命を延長する17),という報告がされている.
最後に損傷リソソームの選択的除去であるリソファジーは特に近年老化との関わりで注目されている.従来哺乳類におけるリソソーム損傷は,痛風や珪肺症のようなごく限られた病態でのみ認める特殊な現象であると考えられてきたが,近年細胞老化や加齢性疾患に共通して認める特徴であると報告された18).また従来から線虫の長寿変異体ではリソソームの分解能が高いこと7),線虫のリソソーム膜タンパクの機能障害は寿命短縮と関連していることなどリソソームと老化との関連は示唆されていたが,近年損傷リソソームがリソソーム酵素の細胞質への漏出を介してリソソーム細胞死やインフラマソーム活性化,炎症細胞の活性化を惹起することにより老化と深く関わることが次々と判明した.これらの知見から,老化の進展と強く関連する損傷リソソームの除去に働く機構であるリソファジーは,健康寿命や寿命延伸のために重要な機構であると考えられ,今後の検討が待たれる.
2)オートファジーとinflammaging加齢に伴う慢性的な低グレードの炎症状態はinflammagingと呼ばれ,生体の老化の進展と関連する.InflammagingはNLRP3インフラマソームやcGAS-STING経路などの自然免疫応答の活性化に加えT細胞の制御もある.オートファジーは自然免疫応答やT細胞のホメオスタシス維持と密接に関連しinflammagingを制御する.
まずNLRP3インフラマソームとオートファジーに関しては,オートファジーは①NLRP3インフラマソームを活性化するミトコンドリア活性酸素種や細胞質DNAを除去すること,②NLRP3インフラマソームを活性化するリソソーム膜の不安定化,引き続くリソソーム酵素の細胞質漏出をリソファジーにより抑制すること,③インフラマソームの構成成分を直接分解すること,によりNLRP3インフラマソームの活性化を抑制する.
cGAS-STING経路は,細胞質DNAを感知し1型インターフェロンをはじめ様々な炎症性サイトカインの産生に関わる経路であり,老化過程においては内因性の細胞質DNAに応答して活性化しinflammagingを引き起こすが,近年DNA感知センサーであるcGASはAIMを有しておりオートファジーアダプターとして働くことが明らかとなった19).すなわち老化過程において生じた内因性の細胞質DNAに対して,オートファジーがcGASを介して分解することによりcGAS-STING経路の活性化,引き続くinflammagingが抑制されると考えられる.
老化したT細胞は,①炎症性サイトカインの分泌によるinflammagingの増悪と,②健常なT細胞の持つ免疫監視機構の破綻により老化細胞除去ができないこと,により老化の進展に関わるが,近年オートファジーは制御性T細胞のホメオスタシスを維持し炎症性サイトカインの分泌を抑制する20)と同時に,メモリーT細胞のホメオスタシスを維持しその免疫監視機構能を保つことにより,inflammagingの増悪を抑制する21)ことが報告された.
以上のようにオートファジーは様々な選択的オートファジーならびに精密で多段階からなるinflammagingの制御により老化を抑制している(図2).

オートファジーが寿命・健康寿命を延伸する機構.オートファジーは選択的なオートファジーやinflammagingの制御を介して老化を抑制する.
食事や運動などの生活習慣はオートファジー活性を制御することにより長寿や健康長寿と密接に関わることが明らかとなってきたため本項で概説する.
2)オートファジーとカロリー制限カロリー制限は寿命や健康寿命延伸のためのゴールドスタンダードである.すなわちカロリー制限は酵母からヒトに至るまで幅広い生物種で寿命を延長し,様々な加齢性疾患を予防する.カロリー制限はmTORC1の抑制,AMPKやsirtuinの活性化など複数の経路に影響しオートファジーを活性化する一方で,カロリー制限の抗老化作用はオートファジー不全の誘導により消失する.そのため現在カロリー制限の寿命延長効果(の少なくとも一部)はオートファジーの活性化を介するとされている14).
3)オートファジーと時間制限食(Time-restricted feeding: TRF)カロリー制限を実践している多くのヒトが毎食のカロリーを減らすのとは対照的に,カロリー制限を受けているマウスは1日1回の制限食を短時間で食べ尽くしその後長時間の絶食に入る.近年カロリー制限ではなく,この1日のうち特定の時間帯に食事摂取を制限する時間制限食,特に概日リズムに沿った時間制限食こそが寿命延伸に関わると報告された.重要なことに概日リズムに沿った時間制限食による寿命延伸効果はオートファジーを介する.すなわち時間制限食による寿命延伸効果は概日リズムに沿ったオートファジーの活性化により説明可能である22).
4)オートファジーと運動運動は代表的な老化を抑制する介入であり,実際フレイルや様々な加齢性疾患に対して運動は有用で,健康長寿に直結する.これまで運動は,①筋肉においてオートファジーの活性化を介して運動耐用能を改善すること,②肝臓をはじめとする代謝臓器のオートファジーの活性化を介して糖代謝を改善すること23)が報告されている.さらに運動は神経変性疾患の抑制や認知能の向上,神経の炎症の抑制,神経新生の促進など神経保護的に作用するが,これらの神経保護効果の少なくとも一部はオートファジーの活性化を介すると考えられている.
オートファジーの異常は「老化の12の要因」の一つであり,オートファジーを制御する治療アプローチが健康長寿や加齢性疾患に対する治療実現において有望であることは疑いようがない.また古くから健康長寿のために実践されてきた健康的な食事や運動などの生活習慣が,オートファジーの活性化を介して健康長寿に繋がりうるという最近の知見の集積は,オートファジーの活性化が最も生理的で副作用の少ない健康長寿を目指すアプローチであることを示すものである.重要なことに健康的な食事や運動の継続的な実施はコンプライアンスの側面や副作用の側面(過度なカロリー制限は筋力や生殖能力の機能,免疫機能の低下につながる,運動療法は体調不良や体力低下のある高齢者には困難)から困難である.このことを考えると,健康的な食事や運動と同等の効果をもたらす代替治療戦略としてオートファジー活性化薬が有望なアプローチであることは明らかである.さらにオートファジー活性化薬は感染症にも対抗しうる.高齢者は易感染性であることから健康長寿のためには感染症に対抗することも重要である.一般的に現状開発が進められている抗老化を目指す創薬(IL1阻害薬やIL6阻害薬)は感染症に対する副作用が懸念される一方で,オートファジーは細胞内病原体を分解する働きがあることなどから,オートファジー活性化薬は易感染症という副作用が少なくむしろ感染症に対しても治療薬となることも期待できる.
このようにオートファジー活性化薬は有望であり,その開発は世界的に活発に行われているものの,現状課題も存在する.
まず第一の課題として非侵襲的にオートファジー活性をモニタリングする手法がないことである.近年オートファジーの過剰な誘導は老化を促進させることが報告されており24),また生物学的な個人差の大きな高齢者にはオートファジー活性も大きな個人差があると推察されることから,高齢者に対してオートファジー活性化薬を副作用なく安全に使用する上では,個人毎にオートファジー活性のモニタリングを行いオートファジー活性が過剰にならない範囲内に適切に保つことは重要である.
第二の課題として,現状のオートファジー活性化薬は非選択的なものがほとんどであり,これは生体において選択的オートファジーが老化を制御しているという最近の知見とは対照的である.今後生体において直接的に老化を制御する選択的オートファジーを同定すると同時に選択的オートファジーを特異的に活性化する手法の開発が必要である.
第三の課題はライフステージの中でどのタイミングで使用するのがよいか検証する必要がある.一般にはオートファジー活性の低下する高齢期にオートファジー活性化薬を用いるのが良いと信じられているが,若年期のオートファジーの活性化に比して高齢期のオートファジーの活性化は効果がないという報告やむしろ寿命が短縮するという報告もある25).またオートファジー不全を数ヵ月間誘導した後にオートファジーを回復させた研究では,オートファジーの回復に伴い老化や加齢性疾患は抑制されたものの悪性腫瘍が著明に増加したという報告もあり10),このことは高齢患者にオートファジー活性化を使用すると悪性腫瘍の発生に注意が必要であることを示すものである.これらの知見を受け今後オートファジーを活性化する最適なタイミングに関しては十分検証する必要がある.
以上,オートファジー活性化薬開発の上での課題は様々なものがある.今後の研究によりライフステージのどのタイミングでどの選択的オートファジーを活性化するのが長寿や健康長寿のために最も効果的なのか解明できれば,安全で副作用の少ないオートファジー活性化薬の臨床応用に向けて道が拓けると考えられる.
南 聡:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし
吉森 保:役員・顧問職・社員など(AutoPhagyGO Inc.,ユーハ味覚糖,MORESCO),エクイティ(株など)(AutoPhagyGO Inc.),研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(AutoPhagyGO Inc.)