日本血栓止血学会誌
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特集:臨床に役立つ線溶の知識
PAI-1阻害薬の臨床応用
宮田 敏男
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2025 年 36 巻 3 号 p. 406-413

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Abstract

Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は線溶系に関与するタンパク質であるが,血栓溶解のみならず線維化,炎症など様々な病態への関与が報告されている.我々はPAI-1阻害薬の臨床応用に向けて低分子経口阻害薬を開発した.PAI-1のX線結晶構造解析情報を基にコンピューター工学を用いてヒット化合物を取得し,約1,400の誘導体の中から医薬品候補化合物(TM5509)を得て,GMP合成/製剤化,GLP安全性試験,医師主導治験(第I相~第III相)を実施している.得られたPAI-1阻害薬を用いた非臨床試験から,がんや老化などPAI-1阻害薬の臨床応用に向けての新たな着想が得られ,種々の医師主導治験で確認されている.

1.PAI-1阻害薬

Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は線溶系に関与するタンパク質であるが,血栓溶解のみならず線維化,炎症など病態への関与が報告されている.我々はPAI-1阻害薬の臨床応用に向けて低分子経口阻害薬を開発した1.ヒトPAI-1のX線結晶構造解析情報を基にコンピューター工学を用いてin silico探索でヒット化合物を取得し,約1,400以上の新規誘導体(構造最適化)の中から医薬品候補化合物(TM5614)を得て,GMP治験薬合成/製剤化,GLP安全性試験,医師主導治験(第I相~第III相)まで,20年以上の時間をかけてアカデミア主導で開発した2.X線結晶構造解析の結果3,我々の開発したPAI-1阻害薬はPAI-1分子内のビトロネクチン結合部位に挿入され,PAI-1とビトロネクチンとの結合を阻害することで,PAI-1分子の分解を促進することが推測された.

2.PAI-1阻害薬とがん幹細胞:慢性骨髄性白血病

Yahataらとの共同研究により,PAI-1阻害薬が骨髄ニッチから造血幹細胞を遊離させ,造血細胞へと分化させることを見出した4.骨髄ニッチにある造血幹細胞(マウス,ヒト)はPAI-1の発現が極めて高い.PAI-1は造血幹細胞内セリンプロテアーゼであるフリンを阻害する.一方,PAI-1阻害薬はこの細胞内フリンを活性化し,さらには膜型マトリックスメタロプロテアーゼが活性化されることで,造血幹細胞の骨髄ニッチからの遊離とその後の分化を促進する.PAI-1阻害薬の造血幹細胞への作用から,慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia: CML)治療への臨床応用を着想した.

CMLは,遺伝子変異(BCR-ABL)を有する造血幹細胞,すなわちCML幹細胞が増殖することによって生じる血液がんである.かつてCMLは造血幹細胞移植を実施しなければ急性転化し,7~8年以内に死亡する予後不良の疾患であった.しかし,2001年のBCR-ABLを標的とする第一世代チロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor: TKI)のイマチニブの登場により一変し,CML患者の生存率は大幅に改善した5.TKIは,BCR-ABLチロシンキナーゼのリン酸化を阻害することでCML細胞の増殖を阻害する.BCR-ABL1陽性クローンを少なくとも主要分子遺伝学的奏効(major molecular response: MMR)(BCR-ABL1国際標準(IS)≤0.1%)まで減少させることで急性転化の可能性を回避できる6

CML幹細胞は骨髄ニッチでは静止状態にありTKIには反応しないために,TKIの投与中止によりCML幹細胞からがんが再発する.そのためTKI投与は生涯にわたって投与が必要であり,TKI関連の副作用,身体的および精神的生活の質(QoL)の低下,医療経済的負担に繋がっている.我々は,PAI-1阻害薬の投与により骨髄ニッチから放出されたCML幹細胞は静止状態から解除され,TKIに感受性を持つようになるため,TKIとPAI阻害薬の同時投与によりCMLの根治が期待できるのではないかとの仮説を立てた(CML幹細胞追い出し療法)7.実際,CMLモデルマウスにおいてPAI-1阻害薬とTKIの併用により,骨髄に残存するCML幹細胞の数は著しく減少し,TKI単独投与に比べて生存率が大幅に改善した 7

2010年にフランスのMahonらは,長期のTKI療法を受けている一部のCML患者はTKI中止後にも再発がないことを報告した8.このTFR(treatment-free remission)という臨床概念は,日本のJALSG STIM213試験を含むいくつかの前向き試験でも確認された9.現在では,TFRにはMMRよりも深い分子的寛解状態であるDMR(MR4[BCR-ABL1 IS≤0.01%]またはMR4.5[BCR-ABL1 IS≤0.032%]と定義される)の一定期間が必要であることが分かっている.DMRはTFRを得るための最初のマイルストーンであり,最近のガイドラインでは,CMLの治療目標としてDMRの達成と少なくとも2年間の維持が求められている10

我々の非臨床試験成績とTKIの臨床試験成績に基づき,CML患者を対象としたTM5614とTKI併用療法の医師主導治験(第II相試験)を実施した.主要評価項目は,DMRの達成率とした.前期第II相試験(1月間投与)で安全性が確認されたので,後期第II相試験(1年間投与)を実施した結果,DMR達成率は33%であり,TKI単独投与で得られた従来の対照率8~12%を大幅に上回り,有効性が確認された11.重篤な副作用は認められなかった.2022年4月,日本でプラセボ対照の第III相試験(1群30名,DMRの達成と2年間の維持の検証)が開始され,現在実施中である(2026年末終了予定).

3.PAI-1阻害薬とがん:悪性黒色腫,肺がん,血管肉腫,膵臓がん

がんの予後不良因子の1つとしてPAI-1の高発現が多数のがん種で報告されている.YawataらはPAI-1ががん細胞のPD-L1など免疫チェックポイント分子(immune checkpoints: IC)の発現を増強させることを発見した.興味深いことに,PAI-1阻害薬TM5614はがん細胞に発現するICの発現を減少させる12.IC阻害薬(抗体医薬)の登場以来,がん治療も大きく変遷したが,奏功率,安全性,医療経済性などIC阻害薬の課題も多い.CMLの後期第II相試験から,TM5614の安全性(1年間の長期投与)は確認されたので,PAI-1阻害薬を低分子(経口薬)のIC阻害薬として固形がん治療に臨床応用することを着想した.

肺がん,大腸癌や悪性黒色腫マウスモデルで確認したところ,PAI-1阻害薬TM5614は,がん細胞のICを減少させ,腫瘍内のがん浸潤マクロファージ(tumor-associated macrophage: TAM)やがん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast: CAF)を抑制し,細胞障害性T細胞を活性化するなどがん免疫を著しく活性化する知見を得た12.そこで,抗PD-1抗体が効かない,外科的切除が困難な悪性黒色腫患者を対象に,抗PD-1抗体ニボルマブとの併用によるTM5614の第II相試験(非盲検)を実施した.ニボルマブに反応しない28名の悪性黒色腫患者のうち,8週間の併用療法後の奏効率は24.1%,疾患制御率(完全奏功CR+部分奏功PR+安定SD)は62.0%であり,治験薬との因果関係の可能性があるのは肝機能障害2件(5.9%)であった13.悪性黒色腫のニボルマブ無効例に対する治療として,ニボルマブとイピリムマブの併用が承認されているが,その奏効率は,海外21.0%,国内13.5%であり(海外と国内の悪性黒色腫の遺伝子背景が異なるため),ニボルマブとTM5614の併用はこの既存治療と同等若しくは上回る有効性を示した.ニボルマブとイピリムマブとの併用では投与中止となる重度の免疫関連副作用が半数以上で出現し,その頻度はニボルマブ単剤より4倍と高く問題になっている.実際に,近年の非小細胞肺がんにおけるニボルマブとイピリムマブ併用臨床研究では死亡例が多発したため試験が中止となっている14.TM5614の第II相試験により,ニボルマブとTM5614の併用療法の有効性と安全性が確認された.この治験成績により,TM5614は2024年8月に厚生労働省の希少疾患医薬品指定を受け,2025年2月,日本でプラセボ対照の第III相試験(1群62名,全生存期間OSの検証)が開始された(2029年末終了予定).

第II相試験の臨床試験検体(血液)を用いて解析したところ,TM5614投与により奏功が見出された悪性黒色腫患者検体では,IL-4,CXCL2,IL-16などICの発現やIC阻害薬に対する耐性に関与する分子を抑制していることが明らかとなった(論文投稿中).がん治療は,オシメルチニブなどの分子標的薬やニボルマブなどのIC阻害剤により大きく改善したが,分子標的薬やIC阻害剤治療後にがん細胞が耐性を獲得するため,多くの患者では効果は持続しない.Masudaらは,TM5614が上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を有する非小細胞性肺がんにおけるオシメルチニブに対する耐性を改善すること15,またニボルマブに対する耐性を改善することを報告したが,TM5614は分子標的薬やIC阻害薬に対する耐性の改善にも寄与する.Sebastianoらは16,ヒト膵がん検体において,PAI-1の発現量と線維化や免疫抑制の程度が相関することを見出し,PAI-1が高発現の膵がん患者の予後が悪いことを報告している.さらに,膵がんモデルでPAI-1の遺伝子あるいは蛋白レベルでの抑制がTAMやCAFの抑制,細胞傷害性T細胞の活性化を促すことを報告している.さらに,ゲムシタビンやIC阻害薬への耐性が別のPAI-1阻害薬であるPAI-039(IC50 9~12 μm:TM5614はIC50 3.63 μm)併用により著明に改善することを報告した 16

これらPAI-1阻害薬の非臨床試験成績及び臨床試験成績に基づき,非小細胞性肺がん(ニボルマブ併用)17,血管肉腫(パクリタキセル併用)18に対するTM5614併用の第II相試験(非盲検)が開始され,膵臓がん(ゲムシタビン,ナブパクリタキセル併用:GnP療法)でのTM5614併用の第II相試験(非盲検)が準備中である.既に黒色腫患者では完全奏功,部分奏功を確認していることからも,一部のがん種ではPAI-1阻害薬の併用は有効であることが強く示唆される.PAI-1阻害に伴う抗血栓,抗線維化,抗炎症,免疫チェックポイント阻害作用および耐性改善,TAMやCAFの抑制,細胞傷害性T細胞の活性化は,がん環境やがん免疫を考える上で有用な薬理作用となる.

抗PD-1抗体などのIC阻害剤を用いたがん免疫療法は,がん治療を大きく前進させる画期的な治療法である.一方,奏功率,安全性,医療経済性,利便性(注射薬)など課題もある.経口内服薬,低分子合成医薬品で有るTM5614の利点は少なくないと考える.

4.PAI-1阻害薬とがん関連血栓症

がん治療に伴う血栓症としてがん関連血栓症(cancer associated thrombosis: CAT)がある.がん患者の数%~10%に認められ(非がん患者の数倍),死亡リスクも高い.高齢化に伴うがん患者の増加やがん治療進歩による生存率の上昇などから発症率は年々増加している.CAT治療における課題は,血栓症の再発であり,既存の抗血栓治療薬を用いた国内外の臨床試験成績では,非担癌患者の急性肺塞栓症の再発率が1年間1%であるのに対して,CAT患者の再発率は5~8%と極めて高いことが報告されている19.もう一つの臨床上の課題は治療に伴う出血(副作用)であり,臨床試験成績での大出血率は5~10%に至る20.CATに対して,再発率が少なく,かつ出血という重篤な副作用が少ない新たな抗血栓治療薬が望まれている.

がん細胞から放出される組織因子などの血栓促進物質やTNFαやIL-6などの炎症性物質に加えて,PAI-1はCATの原因因子として注目されている.PAI-1阻害薬は血小板や凝固系因子に作用せず,線溶系の活性化により作用するため出血傾向は少ない.実際に,PAI-1阻害薬21を投与されたマウスで出血時間の延長はせず,サルにおいても抗血小板薬クロピドグレルと同等な抗血栓作用を示すが,出血時間を延長しない22.そこで,静脈血栓塞栓症(VTE)患者を対象に,CATに対するPAI-1阻害薬TM5614投与の有効性と安全性を確認する第II相医師主導治験を計画中である.PAI-1阻害薬の本来の薬理作用である抗血栓作用に基づく臨床研究である.

5.PAI-1阻害薬と肺疾患:COVID-19肺障害,全身性強皮症

2019年12月初旬に,中国で第1例目の感染者が報告されてからわずか数カ月ほどの間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,医療面と社会面の両方で大きな問題となった.感染者の多くは軽症であるが,高齢者や基礎疾患(糖尿病,腎臓病など)を持つ患者などリスクの高い患者は重症肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈する.軽症患者は在宅療養できるよう対策が講じられたが,発症時は軽症でも急速に重症化する症例も多く存在し,外来患者にも経口投与が可能である安全な肺炎の重症化を防ぐ治療薬の開発が喫緊の課題であった.

COVID-19による重症肺炎患者は,炎症や線維化などの病変が急速に進行し,血管内皮障害や凝固亢進の特徴的な所見(肺のフィブリン微小血栓)が認められることから23,我々は,PAI-1阻害薬の有する抗血栓,線溶,抗線維化,抗炎症などの一連の薬理作用がCOVID-19による重症肺炎に有効ではないかと着想した.既に,ブレオマイシン21およびTGF-β誘発性肺線維症モデル24,klotho老化モデル25における肺障害の改善を確認しており,トシリズマブ治療による重症COVID-19患者の臨床症状の改善がIL-6阻害によるPAI-1阻害に基づくことも報告された26

速やかに治験の準備に着手し(PMDA相談,治験薬製造,臨床プロトコール確定),半年後の2020年秋にはCOVID-19肺炎に対するPAI-1阻害剤の安全性を評価するための前期第II相試験(非盲検)を実施し,2021年3月に終了した.特筆すべき副作用は無く,肺障害で入院し,TM5614を投与されたCOVID-19肺炎患者26名全員が無事退院した27.前期第II相医師主導治験の成績で安全性が確認されたので,3ヶ月後の2021年6月からCOVID-19に伴う肺障害患者(中等症,入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第II相医師主導治験を実施した.本治験は,COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け,治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため,最終的に入院患者75例(TM5614群39例,プラセボ群36例)で,2022年末に治験を終了した27.有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケールの総和」は,両群間で統計学的な有意差は認めなかったが,プラセボ群に対してTM5614群で悪化の抑制が見られ,特に中等症I患者での有効性が示唆された.さらに,酸素治療が必要となる症例の割合も,入院後3~5日でTM5614群の方が少ないことから,早期治療での有効性が示唆された.また,TM5614群では,プラセボ群と異なり,肺炎画像所見の改善が認められた.副作用発現率はTM5614群とプラセボ群で同程度であった.TM5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なる内服薬である.今後,肺炎を惹起する新たなウイルス株の発生に際して速やかに次相臨床試験を実施できるよう準備をしている.

COVID-19に伴う肺障害患者の治験成績から,肺障害におけるPAI-1阻害薬の有効性が示唆されたため,免疫抑制薬で治療中の全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対するPAI-1阻害薬TM5614のプラセボ対照二重盲検第II相医師主導治験を実施している.全身性強皮症は,皮膚と内臓諸臓器の血管障害と線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患であり,「免疫異常」,「血管障害」,「線維化」を主要3病態とする.特に,間質性肺疾患(interstitial lung disease: ILD)が重篤な患者は生命予後が悪い.PAI-1阻害薬は,肺線維化の抑制,肺の炎症の改善を示し,肺上皮細胞保護をもたらすことなど種々の肺障害の改善作用を示す21, 24, 25, 28.実際に,全身性強皮症ILDモデルであるブレオマイシン誘導肺・皮膚線維化マウスモデルを用いて,ニンテダニブとTM5614の4週間連続投与における有効性比較試験を行った結果,ニンテダニブに対するTM5614の優位性が確認された(未発表データ).2023年10月から,全身性強皮症ILD患者50名を対象に治験を実施中である(1群25例,48週間投与).

6.PAI-1阻害薬と老化関連疾患(長寿)

生物の細胞は,細胞老化と呼ばれる現象のために,無制限に増殖することはできない.この現象には,遺伝子のテロメア長の短縮,p53などの細胞老化因子が関与している.老化した細胞はPAI-1の発現が極めて高く,我々のPAI-1阻害薬を用いることで,細胞老化の現象が阻害できることが報告された 29, 30.細胞のみならず,老化した組織や個体(マウス,ヒト)のPAI-1発現も高い.米国ノースウェスタン大学Vaughan教授との老化モデルklothoマウスを用いた共同研究で,PAI-1の遺伝子発現やタンパク活性を阻害することにより,老化の主症状が改善することを報告した25.さらに,米国に生活するアーミッシュの疫学調査から,PAI-1遺伝子を欠損している者(ヘテロ)が同遺伝子保有者比べて10年程度寿命が長いこと,糖尿病などの加齢関連疾患の罹患率が低いことなどを報告した31.アーミッシュと同じPAI-1の遺伝子変異を有する遺伝子改変マウス(ヘテロ)を作成し,数年間観察したところ,正常マウスに比べて明らかに寿命が長いことも確認された(Vaughanからの報告).また,加齢と共に老化に関連した様々な疾患が発症するが,これら疾患の臓器組織でのPAI-1の発現は極めて高く,血管(動脈硬化)32,肺(肺気腫,慢性閉塞性肺疾患)21, 24, 25, 28, 33,代謝(糖尿病,肥満)3437,腎臓(慢性腎臓病)38,骨・筋肉(骨粗鬆症,サルコペニア)39, 40,脳(脳血管障害,アルツハイマー病・認知症)4143など疾患の動物モデルにPAI-1阻害薬を投与することで病態が改善できることが国内外の多くの共同研究から明らかとなった.

最近,老化細胞がPD-L1を発現し,PD-L1陽性の老化細胞が加齢とともに蓄積することが報告された 44.老化マウスに抗PD-1抗体を投与すると,老化細胞の総数が減少し,老化に関連する様々な病態が改善する44.このように,ICはがんのみならず,老化においても重要な役割を果たしている.PAI-1阻害薬の抗老化作用は,PAI-1阻害薬にIC阻害作用がある事実と合わせて考えると非常に興味深い.

PAI-1遺伝子欠損者が同遺伝子保有者比べて10年程度寿命が長いことが報告された直後に,ニューヨークタイムズの記事(2017年11月21日)で我々のPAI-1阻害薬が取り上げられ45,その後PAI-1阻害薬の長寿への可能性が指摘された.マウスでは確認されているが25,ヒトで確認することは難しい(最も興味深く重要な医学的テーマであるが).

7.PAI-1阻害薬の展開

PAI-1は線溶系に関与するタンパク質であるが,血栓溶解のみならず線維化,炎症など様々な病態への関与が報告されている(表1).我々のPAI-1阻害薬を用いた一連の非臨床試験から,抗血栓,抗炎症,抗線維化作用が確認され,さらにがんや老化(長寿)への臨床応用が示唆され,一部は臨床研究(医師主導治験)で確認されつつある(表1).現在,これら多くのPAI-1阻害薬の薬理作用を一元的に説明できないか取り組んでいる.

表1

PAI-1阻害薬の薬理作用と臨床試験

PAI-1阻害薬の薬理作用 文献
抗血栓作用 2122
抗線維化作用 21, 24, 25
抗炎症作用 25, 38, 41
免疫チェックポイント阻害作用 12
アンチエイジング,長寿作用 25, 29, 30, 3243, 45

臨床試験(TM5614) Japan Registry of Clinical Trial(jRCT) 状況 試験デザイン 患者数 文献
慢性骨髄性白血病(CML)
 第二相試験 jRCT2031190071 終了(POC取得) オープンラベル n=33
 第三相試験 jRCT2031220084 実施中 プラセボ対象二重盲検 n=60 11
悪性黒色腫
 第二相試験 jRCT2021210029 終了(POC取得) オープンラベル n=29 13
 第三相試験 jRCT2021240049 実施中 プラセボ対象二重盲検 n=124
非小細胞性肺がん
 第二相試験 jRCT2061230039 実施中 オープンラベル n=39 17
血管肉腫
 第二相試験 jRCT2021230016 実施中 オープンラベル n=16 18
COVID-19肺炎
 第二相試験 jRCT2021200018 and jRCT2021210006 終了 プラセボ対象二重盲検 n=75 27
全身性強皮症
 第二相試験 jRCT2021230022 実施中 プラセボ対象二重盲検 n=50
がん関連血栓症(CAT)
 第二相試験 準備中 オープンラベル n=150
膵臓がん
 第二相試験 準備中 オープンラベル n=50

がん細胞や老化細胞は,どちらも免疫系によって体内から除去される必要がある.PAI-1は免疫チェックポイント分子として,がん細胞や老化細胞が免疫系の除去から回避することに一役かっているのかも知れない.そうであれば,PAI-1阻害剤はがん免疫や老化免疫を改善できる医薬品候補になりうるかも知れない.

謝辞

PAI-1阻害薬の非臨床試験で共同研究頂いたDouglas Vaughan先生(米国ノースウェスタン大学),Charles van Ypersele de Strihou先生(ベルギールバイン大学),八幡崇先生(東海大学),南学正臣先生・稲城玲子先生(東京大学),臨床試験で共同研究頂いた張替秀郎先生(東北大学:慢性骨髄性白血病,COVID-19肺障害),安藤潔先生・鬼塚真仁先生(東海大学:慢性骨髄性白血病),高橋直人先生(秋田大学:慢性骨髄性白血病),藤村卓先生(東北大学:悪性黒色腫,血管肉腫),平井豊博先生(京都大学:COVID-19肺障害),浅野善英先生(東北大学:全身性強皮症),服部登先生・益田武先生(広島大学:非小細胞性肺がん),安田聡先生(東北大学:がん関連血栓症),海野倫明先生(東北大学:膵臓がん),他多くの共同研究者の皆様に感謝いたします.

著者の利益相反(COI)の開示:

役員・顧問職・社員など(レナサイエンス),エクイティ(株など)(レナサイエンス),研究費(受託研究,共同研究,寄付金,治験等)(アステラス,第一三共,興和デンタルヘルス,レナサイエンス)

文献
 
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