2016 年 62 巻 6 号 p. 699-704
同種造血幹細胞移植(SCT)ではABO血液型不一致移植は広く行われているが,マイナーミスマッチ(m),メジャーマイナーミスマッチ(Mm)における患者赤血球に対する規則抗体の長期的な動向は十分明らかではない.2001年3月~2012年12月に当院で施行されたm及びMm移植のうち,生着が得られドナー血液型への移行を確認した61例で,血液型検査の反応強度の推移を検討したところ,一貫して患者赤血球型に対する抗体不検出が52例,血液型移行前の一過性の抗体検出が6例で,血液型移行時以降の患者赤血球型に対する抗体検出は3例認めた.3例は複数回移植例で,最終移植時に患者本来の血液型に戻った症例,又は患者が本来保有していた抗体の一部を発現した症例だった.mSCT後のウラ試験陰性は臨床的に経験され,免疫学的寛容,抗体吸着等の機序が推測されているが,複数回移植で最終ドナーの発現する抗体が,患者の本来保有していた抗体と同じである場合は,ウラ試験が陽性になりうることが考えられた.またmSCT後にウラ試験陰性となる機序としては,体内に広く発現される血液型物質への抗体吸着の影響が大きいことが推測された.