抄録
日中両国とも, 血液製剤による健康被害が生じたときの患者救済が大きな問題となっている. 本稿は, 日中両国の関係法令をもとに, 両国の救済制度の体系を明らかにするとともに, その特徴ならびに問題点を明確にしたものである.
上海では1996年から救済制度が運営されているが, 2001年に新たに保険会社が中核となり, 上海血液センターに属する各採血所および医療機関, さらに患者が血液製剤価格に保険料を上積みする形で保険料を支払い救済基金が積み立てられ, 輸血後のC型肝炎のみであるが無過失救済制度が始まった. しかし, 未だ中国全土には普及していない. 一方, わが国は独立行政法人医薬品医療機器総合機構が2004年4月から生物由来製品による副作用に対する無過失救済制度を創設している. その救済資金は各製薬会社が出資している.
上海の制度は採血所や医療機関に過失がない場合でも最後に被害者を広く救済しているのに対し, わが国の制度では, 救済されない被害者も出てくる. しかし上海の制度は, 救済をめぐって保険会社の給費制限も予想されるなど不安定な要素もある. フランスではすべての医療事故の無過失救済を実施するために法律を改正した. わが国も医療事故全体の救済制度を再考する時期にきている.