日本野生動物医学会誌
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特集
社会教育機関での研究の可能性
遠藤 秀紀
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2009 年 14 巻 1 号 p. 19-25

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抄録

動物園が研究の責任を果たし続けなくてはならいないことを再確認する。動物園は,日本独自の教育と学問の歴史のなかで,学術研究から一定の距離を取らされてきた。戦前は富国強兵政策,戦後は経済発展主導の陰に押しやられ,純粋基礎科学の研究の場としての位置づけを確立できないまま推移した。戦後についていえば,敗戦を契機に自由で民主的な社会教育が法整備されてきたにもかかわらず,動物園・博物館は,冷戦を要因に理念的発展の途が閉ざされてしまった。結果的に,動物園と社会教育は往々にして土木行政や利益誘導の場にとどまり,科学的研究を進めることのできない組織となった。そしてまた大学を中心とした学術も,動物学の偏向や純粋基礎科学の貧困を黙認し,動物園を大学とは関係のない組織ととらえ,社会教育に無関心であり続けた。そしていまの行革時代に,動物園は真の研究も教育も二の次に,サービスと遊興を尺度にした乱暴な合理化の対象となっている。公務員と公教育を軽視することでリーダーシップを演出する政治によって,社会教育と動物園は理念から隔離され,営業行為・サービス業の末端部分として破壊されつつあるといえよう。他方,短期的経営追い込まれた大学・アカデミズムは,無関心から掌を返したように動物園と社会教育に表面上接近し,それを業績増殖のための都合のよい植民地として弄ぶようになっている。いま私たちには,こうした愚昧と不幸の歴史を断ち,動物園を学問と教育の中心地として繁栄させていく責任がある。

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© 2009 日本野生動物医学会
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