日本野生動物医学会誌
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原著論文
平衡段階数, 糖類の種類およびクジラ卵胞液の添加がガラス化クジラ卵子の生存率と成熟率に及ぼす影響
鈴木 遥馬谷 真弘Mohammad Musharraf Uddin BHUIYAN渡部 浩之茂越 敏弘松岡 耕二藤瀬 良弘石川 創大隅 清治佐々木 基樹福井 豊
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2010 年 15 巻 2 号 p. 65-72

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抄録

本研究では,平衡段階数(3段階と5段階),クジラ卵胞液の添加および糖類(スクロースとトレハロース)が3種類のヒゲクジラ(イワシ,ニタリおよびミンククジラ)未成熟卵子のガラス化保存後の生存率及び成熟率に及ぼす影響を調査した。さらに卵子微細構造の観察も行った。ニタリクジラでは5段階平衡の生存率が3段階平衡に比べ有意に高くなったが,イワシクジラでは5段階平衡の成熟率が3段階平衡に比べ有意に低くなった。クジラ卵胞液を添加したイワシクジラの生存率はウシ胎児血清を添加した区に比べ有意に高かったが,成熟率ではイワシ,ニタリクジラともに差はみられなかった。さらにトレハロースとスクロース間では生存率,成熟率ともにイワシ,ニタリクジラ両方で差がみられなかった。しかし,トレハロース添加区はスクロース添加区に比べ卵丘細胞突起とミトコンドリアの損傷が少ないことが分かった。本研究では平衡段階数, クジラ卵胞液及び糖類の比較による成熟率の改善には至らなかった。しかし,北西太平洋で捕獲された3種のヒゲクジラにおいて,ガラス化保存後に3割程度の成熟率が得られることが分かった。

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© 2010 日本野生動物医学会
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