日本野生動物医学会誌
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特集論文
水族館獣医師の仕事
勝俣 悦子
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キーワード: イルカ, 水族館獣医師
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2012 年 17 巻 1 号 p. 3-4

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抄録

 日本における本格的なイルカ飼育は1957年に開始された。イルカ類を飼育する施設の増加によって,獣医師が水族館で働く機会も増加したが,その歴史はこの40年ほどと浅いが,そのほとんどで獣医師を常駐させており,人気のある職業の1つとなっている。講演では,北極海にすむ1頭のシロイルカの搬入から現在までの人との関わりを例として紹介した。搬入後の初期飼育では,「餌付け」,「人付け」,「環境付け」が重要で,飼育担当者による餌付けは活魚を使用し,次第に解凍した魚に切り替えられた。そして餌付けと同時に餌とホイッスルによる条件付けが開始された。トレーニングによって人との約束ごとが生まれ,環境にも慣れやすくなる。野生個体の搬入では,飼育環境に慣れるまで体調に変化が起きやすいので,少なくとも3年間は特にきめ細かい健康管理が必要である。23年目の現在ではイルカの能力を紹介する水中パフォーマンスで活躍するとともに,大学と共同研究では認知に関する実験に協力している。ベルーガの寿命は,歯による年齢査定によって約40年といわれていたが,近年の研究では80年まで生存する可能性が示唆された。現在25歳のナックは中年と思われていたが,まだまだ若者であるかも知れない。水族館で働く獣医師は「イルカ達がパフォーマンスで,研究で,繁殖で活躍できるようにアシストするシモベである」が持論である。

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© 2012 日本野生動物医学会
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