水族館の獣医師は,動物の臨床が第一に求められており,現状では十分に研究しているとは言い難い。例えば,我が国の海獣類における薬剤投与量の基準は存在せず,症例報告を執筆することで個々の薬剤投与量を示すことが可能となる。受診行動により,日々蓄積される血液,体温や体重などの臨床データは多く,再活用することで生理的な,あるいは病的な変動を知ることができる。血統台帳は動物の膨大なるデータベースであり,我が国での飼育下の概要を知るうえでは有益である。共同研究においても,水族館の獣医師は研究のための飼育技術を支えるばかりではなく,大学,研究機関とともに研究し,その成果の発表,執筆に大いに加わるべきである。水族館の獣医師が研究することは,海獣類の臨床の基礎を築くことである。