日本野生動物医学会誌
Online ISSN : 2185-744X
Print ISSN : 1342-6133
ISSN-L : 1342-6133
特集論文
保全生物学における野生動物医学と個体群生態学の連携 -カモシカ研究を通して学んだこと-
三浦 慎悟
著者情報
ジャーナル フリー

1997 年 2 巻 1 号 p. 19-24

詳細
抄録

1979年に始まるカモシカの捕殺個体の, 岐阜大学獣医学科の研究者を中心とした多岐にわたる分野の総合的な分析は, 野外における行動生態学的研究とあいまって, カモシカの基礎生物学の発展に多大な貢献をもたらした。そのおもなトピックを紹介した。このような生物学的理解は, 残念ながら, 野生動物管理に十分に生かされてはいない。そのおもな理由は, 行政の姿勢が社会経済的な要請との調整に偏重し, 生物学的な個体群管理の視点が欠如していることによる。それは同時に, これまでの基礎生物学的成果を保全生物学へと展開させる研究的な努力が求められていることを意味している.その一つの試みとして, パラポックスウイルス感染症のカモシカ個体群への影響を考慮した存続可能最小個体群サイズ(MVP)を予備的に算定した。感染間隔10年, 感染率60%で, カモシカのMVP(50年後90%の存続確率とする)は40頭以上と推定された。しかしながら, ここで使用したパラメータの精度は低く, より正確な算定を行うためには, 感染症に関するより詳しい資料の蓄積が必要である。それはとりもなおさず野生動物獣医学の重要な課題の一つといえよう。

著者関連情報
© 1997 日本野生動物医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top