日本野生動物医学会誌
Online ISSN : 2185-744X
Print ISSN : 1342-6133
ISSN-L : 1342-6133
特集論文
野生鳥類におけるダイオキシン類のエコトキシコロジー
久保田 彰
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 22 巻 4 号 p. 63-67

詳細
抄録

 ダイオキシン類は残留性や生物蓄積性が高いため,多様な環境試料から検出されてきた。わが国では1999年にダイオキシン類対策特別措置法が制定され,ダイオキシン類の排出等に係る規制が敷かれてきた。こうした流れの中で,環境省は1998年度以降,汚染実態の把握と規制効果の検証を目的として,「野生生物のダイオキシン類蓄積状況及び影響調査」を実施してきた。本調査の一環として,筆者らは琵琶湖で採材したカワウ(Phalacrocorax carbo) と関東地方で採材したトビ(Milvus migrans) を対象に,ダイオキシン類の汚染実態と影響を調査した。その結果,カワウでダイオキシン類汚染が顕在化していることを明らかにした。一方,トビのダイオキシン類濃度は相対的に低値を示した。カワウやトビにおけるダイオキシン類同族・異性体の体内動態・性差・年齢差を解析し,同族・異性体特異的な肝集積や母卵間移行,成長蓄積の態様を明らかにした。カワウの肝臓ではダイオキシン類蓄積によりシトクロムP450 1A(CYP1A)の発現が誘導されていることを明らかにした。筆者らの研究や環境省のプロジェクトの成果は,わが国のダイオキシン類排出量が規制の効果で1990年代後半以降顕著に低減したものの,野生生物の組織中濃度は横ばい状態であることを示している。従って,今後も野生生物を対象としたダイオキシン類蓄積状況と影響に関する継続調査が必要と考えられる。

著者関連情報
© 2017 日本野生動物医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top